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ペカンナット
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「なんか、ルナなんて馴れ馴れしく呼んじゃってごめん」
工場見学を終えた後、マイセンは慌ててこれまでの態度をルナフレイアに謝った。
だが、当のルナフレイアは何のことだと目を丸くする。
「なんで謝るの? 私がそう呼んでって言ったんじゃない」
「いや、だって・・・」
「細かいことを気にしてたら、そのうち禿げるわよ?」
「禿げ・・・? いや、そんなわけないだろ?」
一瞬、素直に頷きかけて慌てて否定すると、何が面白かったのかくすくすと笑い出す。
何だかこれ以上その話を続けるのが馬鹿らしくなって、話題を変えた。
「あー、でも、やっとわかったよ。ペカンナットに行きたがってた理由が」
「え?」
「君みたいな可愛い子が武器屋に行きたがるなんて、何かの間違いじゃないかって思ってたから。ロッテングルム家のお嬢さんだったら納得だな」
「そんなに変なことかしら? 武器を見るのって面白いじゃない。あ、そうだ。武器って言えば、マイセンはどれが一番得意なの? 槍? 剣?」
目をキラキラさせながら尋ねてきたけど、僕の答えは正直、男としてはとっても恥ずかしいもので。
「・・・まだ剣しかやった事がなくて」
馬鹿にされないかな。
そんなことを思ったりしたけど。
ルナフレイアは真面目に考え込んでから、言葉を続けた。
「そっか。でもね、これからは騎士団の演習でいろんな武器を使う練習をすることになると思うわ。自分の体格とか、攻撃特性とか、性格とかを考えて、ピッタリのものを見つけられるといいわね」
吃驚した。
ああ、これが経験の差ってことなのかな、なんて。
でも、不思議と悔しくはなくて。
だから素直に頷いた。
「・・・うん、頑張るよ。・・・君は?」
「え?」
「ルナの得意な武器はなに?」
「うーん、そうね。私は弓、かな」
「弓」
「うん。自分で言うのも何だけど結構な腕前よ。かなり遠くのものでも射抜けるんだから」
「へえ」
得意そうに言う姿が可愛かった。
「でも、さっきの工場見学、とても参考になったわ。エレアーナさまって見識の広い方だなって吃驚しちゃった」
当初の目的地である武器屋へと案内してもらいながらそう話すルナは、かなり上機嫌だった。
「お二人は、これから近くの孤児院に向かわれるって仰ってたけど」
「ああ、ホルヘっていう孤児院でね、僕もそこで育ったんだよ。その時からエレアーナさまにはお世話になってるんだ」
それからマイセンは、孤児院で剣術を教えるクラスが開催されるようになった経緯や、そこで学んだ剣術のお陰で自警団に就職できたこと、そして今年、はれて憧れの騎士団の入団試験に合格したことを話した。
「そうなんだ。マイセンも頑張ったのね」
「懐かしいな。ケインバッハさまもよく訪問して、僕たちの遊び相手になってくれたっけ」
「まあ、あの無口な方が、子どもたちの相手を?」
意外だとばかりに目を丸くするから、マイセンは笑いながら「子どもたちからは人気があったんだよ」と教えると、更に意外そうな顔をした。
「それにね、今は孤児院でハーブや薬草の栽培もするようになって、収穫したものをあの工場に買い取ってもらってるんだってさ」
「へえ。もしかして種とか苗とかはエレアーナさまが?」
「そう。無料で提供してくださってる」
「・・・凄いわね」
「それで足りない分はエレアーナさまがご自分で届けて下さるんだ。今日みたいにね。勿論、それも無償で」
「じゃあ、収益は全部、孤児院や工場の運営費用にあてられるって訳ね」
「そう。だから皆、十分な給料がもらえるし、安心して働けるんだ」
マイセンは改めて思い返した。
受けた恩義は計り知れない。
文字や算術を教わったことも、物資の支援をしてもらったことも、医療品を届けてくれたことも。
「貴族のあるべき姿を体現しておられるのね」
「え?」
「貴族には様々な特権が伴うけれど、それは自らを肥やすためではなく民のために役立てるべきでしょ? そういう責務をきちんと果たされている方だなって思って」
「・・・そう、だね」
「私も見習わないとね。今のところは貢献って言っても、国境警備くらいしか出来てないからなぁ」
国境警備。マイセンはその言葉にぎょっとした。
「なに?」
「・・・ルナって国境を警備、してるんだ」
「? 当たり前でしょ。ロッテングルム家はそのために辺境伯領を任されてるのよ?」
さも当然の事のように返される。
「いや、でも、ルナって僕と大して年が変わらないよね?」
「うーん、そうかな。私は十六だけど、マイセンは?」
「ぼ、僕は十五・・・」
「なら、大して違わないわね。あ、もしかして十六かそこらの年で国境警備なんてって思ってる?」
「い、いや、そういうわけじゃ・・・」
「心配しないで。そんなやわな訓練、受けてないから。・・・あっ、もしかして、ここ?」
話をしながら歩くうちに、いつの間にか目指す武器屋に着いていたようだ。
「ありがとう。助かったわ」
「礼なんていいよ。これも仕事なんだから」
「でも助かったのは本当だもの。じゃ、頑張ってね、マイセン。鍛錬して、立派な騎士になってね」
「うん、頑張るよ」
そう言ってルナは店の中へ入っていった。
品揃えが豊富で、質も高いと評判の武器屋、ペカンナット、か。
まだまだ未熟だってよく分かってるけど。
目の前の店の看板をじっと見上げる。
槍、剣、小太刀、盾、鉾、・・・そして弓。
ハニーブラウンの髪を揺らしながら屈託なく笑う元気な彼女。
上には上がいるってホントだな。
王都一の武器屋、ペカンナット。
・・・いつか、僕もここに堂々と来れる日がくるといいな。
工場見学を終えた後、マイセンは慌ててこれまでの態度をルナフレイアに謝った。
だが、当のルナフレイアは何のことだと目を丸くする。
「なんで謝るの? 私がそう呼んでって言ったんじゃない」
「いや、だって・・・」
「細かいことを気にしてたら、そのうち禿げるわよ?」
「禿げ・・・? いや、そんなわけないだろ?」
一瞬、素直に頷きかけて慌てて否定すると、何が面白かったのかくすくすと笑い出す。
何だかこれ以上その話を続けるのが馬鹿らしくなって、話題を変えた。
「あー、でも、やっとわかったよ。ペカンナットに行きたがってた理由が」
「え?」
「君みたいな可愛い子が武器屋に行きたがるなんて、何かの間違いじゃないかって思ってたから。ロッテングルム家のお嬢さんだったら納得だな」
「そんなに変なことかしら? 武器を見るのって面白いじゃない。あ、そうだ。武器って言えば、マイセンはどれが一番得意なの? 槍? 剣?」
目をキラキラさせながら尋ねてきたけど、僕の答えは正直、男としてはとっても恥ずかしいもので。
「・・・まだ剣しかやった事がなくて」
馬鹿にされないかな。
そんなことを思ったりしたけど。
ルナフレイアは真面目に考え込んでから、言葉を続けた。
「そっか。でもね、これからは騎士団の演習でいろんな武器を使う練習をすることになると思うわ。自分の体格とか、攻撃特性とか、性格とかを考えて、ピッタリのものを見つけられるといいわね」
吃驚した。
ああ、これが経験の差ってことなのかな、なんて。
でも、不思議と悔しくはなくて。
だから素直に頷いた。
「・・・うん、頑張るよ。・・・君は?」
「え?」
「ルナの得意な武器はなに?」
「うーん、そうね。私は弓、かな」
「弓」
「うん。自分で言うのも何だけど結構な腕前よ。かなり遠くのものでも射抜けるんだから」
「へえ」
得意そうに言う姿が可愛かった。
「でも、さっきの工場見学、とても参考になったわ。エレアーナさまって見識の広い方だなって吃驚しちゃった」
当初の目的地である武器屋へと案内してもらいながらそう話すルナは、かなり上機嫌だった。
「お二人は、これから近くの孤児院に向かわれるって仰ってたけど」
「ああ、ホルヘっていう孤児院でね、僕もそこで育ったんだよ。その時からエレアーナさまにはお世話になってるんだ」
それからマイセンは、孤児院で剣術を教えるクラスが開催されるようになった経緯や、そこで学んだ剣術のお陰で自警団に就職できたこと、そして今年、はれて憧れの騎士団の入団試験に合格したことを話した。
「そうなんだ。マイセンも頑張ったのね」
「懐かしいな。ケインバッハさまもよく訪問して、僕たちの遊び相手になってくれたっけ」
「まあ、あの無口な方が、子どもたちの相手を?」
意外だとばかりに目を丸くするから、マイセンは笑いながら「子どもたちからは人気があったんだよ」と教えると、更に意外そうな顔をした。
「それにね、今は孤児院でハーブや薬草の栽培もするようになって、収穫したものをあの工場に買い取ってもらってるんだってさ」
「へえ。もしかして種とか苗とかはエレアーナさまが?」
「そう。無料で提供してくださってる」
「・・・凄いわね」
「それで足りない分はエレアーナさまがご自分で届けて下さるんだ。今日みたいにね。勿論、それも無償で」
「じゃあ、収益は全部、孤児院や工場の運営費用にあてられるって訳ね」
「そう。だから皆、十分な給料がもらえるし、安心して働けるんだ」
マイセンは改めて思い返した。
受けた恩義は計り知れない。
文字や算術を教わったことも、物資の支援をしてもらったことも、医療品を届けてくれたことも。
「貴族のあるべき姿を体現しておられるのね」
「え?」
「貴族には様々な特権が伴うけれど、それは自らを肥やすためではなく民のために役立てるべきでしょ? そういう責務をきちんと果たされている方だなって思って」
「・・・そう、だね」
「私も見習わないとね。今のところは貢献って言っても、国境警備くらいしか出来てないからなぁ」
国境警備。マイセンはその言葉にぎょっとした。
「なに?」
「・・・ルナって国境を警備、してるんだ」
「? 当たり前でしょ。ロッテングルム家はそのために辺境伯領を任されてるのよ?」
さも当然の事のように返される。
「いや、でも、ルナって僕と大して年が変わらないよね?」
「うーん、そうかな。私は十六だけど、マイセンは?」
「ぼ、僕は十五・・・」
「なら、大して違わないわね。あ、もしかして十六かそこらの年で国境警備なんてって思ってる?」
「い、いや、そういうわけじゃ・・・」
「心配しないで。そんなやわな訓練、受けてないから。・・・あっ、もしかして、ここ?」
話をしながら歩くうちに、いつの間にか目指す武器屋に着いていたようだ。
「ありがとう。助かったわ」
「礼なんていいよ。これも仕事なんだから」
「でも助かったのは本当だもの。じゃ、頑張ってね、マイセン。鍛錬して、立派な騎士になってね」
「うん、頑張るよ」
そう言ってルナは店の中へ入っていった。
品揃えが豊富で、質も高いと評判の武器屋、ペカンナット、か。
まだまだ未熟だってよく分かってるけど。
目の前の店の看板をじっと見上げる。
槍、剣、小太刀、盾、鉾、・・・そして弓。
ハニーブラウンの髪を揺らしながら屈託なく笑う元気な彼女。
上には上がいるってホントだな。
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