173 / 256
おススメ
しおりを挟む
リュークザインはハトからの報告書に目を通していた。
その数はざっと三十枚程はあろうか。
バリューガ語を解する者、解さない者。
課された役割は違えども、それぞれが忠実に職務を果たしていた。
「・・・外で会う人物の面子に変化はないようだな。別に見つかっても困らない程度の内容報告にすぎない、ということか。重要な情報はそれ以外の方法で知らせている、となると、考えつくのは・・・」
「当然、社交場だろうな」
言葉を引き継いだのはベルフェルトだ。
しかめ面で報告書をぱらぱらとめくる相棒を、涼しげな目つきで眺めながらカップに手を伸ばす。
「うむ、ラエラ嬢はお茶を淹れるのも上手いな」
「恐れ入ります」
一口飲んで、誉め言葉を口にすれば、マイペースなリュークの婚約者は淡々と礼を返す。
「ベイベル国の者たちが出席している集まりはどれほどあった?」
ベルの問いに、リュークは再び報告書に目を落とした。
確認するかのようにページをめくり、数えながら最期の一枚まで目を通すと再び真正面に座るベルに視線を戻した。
「見逃したものもあるだろうが、現時点の報告では、どちらかと言うと茶会よりも夜会の方に多く出席しているようだ。その数、二十あまり、といったところか」
「それなりの数だな。もしや全部同じ家門が催したものかい?」
「必ずしもそうとは言えない。だが、確かに偏りは見られるな。恐らくはこの中に開催を主導している家があるのだろう。・・・まだ断定は出来んが」
お茶を飲み干したベルフェルトは、カップをテーブルに静かに置く。
「そうそう分かりやすくはしてくれないか。シャウヘッセ伯爵は恐らく繋ぎに使われただけだろうからな。誰がベイベル国の奴らと賢者くずれとをつなごうとしてるか、その黒幕を突き止めねば話が始まらん」
「そうだな。元々そういう不忠の輩をあぶりだすための罠だからな。ラファイエラスさまのお心遣いに報いるためにも、シャールベルム国王陛下にご安心いただくためにも、さっさとその黒幕とやらを見つけるとするか」
ラエラは飲み終わったカップを片付けながら、どちらにでもなく問いかける。
「ですが、全ての集まりに出席できる訳でもありませんわ。それに、頻繁に顔を出せば、それだけ相手の記憶にも残ってしまいますし」
「まあ、普通に出席するだけだったら、いずれ気取られてしまうだろうな。とりあえず出席する人間を分散させるとしても、ここはベルに相当頑張ってもらう必要がありそうだ」
「ベルフェルトさま、ですか?」
怪訝な表情を浮かべるラエラに、リュークザインは事もなげに告げる。
「こいつは変装が得意だからな。潜入捜査には打ってつけなんだ」
「まあ。本当ですの? 凄い特技ですのね」
「ああ、・・・まあね」
髪を掻き上げながら、ベルは少し困ったような表情を浮かべた。
意外な反応に、リュークが目を瞬かせる。
「どうした? 何故いつものように自信満々に頷かない?」
「いやあ、実は先日、生まれて初めて変装を見破られてしまってね。少々、自信を喪失しているのだよ」
「なに?」
初めて聞く情報に、思わず身を乗り出す。
「お前の変装を見破った奴がいたというのか? どこの諜報機関の者だ?」
顔色が変わり、問い詰めるような口調に変わる。
そんな反応を少し面白がりながら、ベルは何故か懐かしむような眼差しで答えた。
「いやいや、そんな恐ろしい相手じゃないさ。ただの可愛らしいお嬢さんだよ」
「可愛らしいお嬢さん? ・・・一般人か? いや、まさかただの平民がお前の変装を見抜ける筈がない」
「ただの平民、ではないな。ロッテングルム家の人間だ。カーン殿の姪御さんだそうだよ」
「カーン騎士団長の姪? ・・・辺境にいる筈だが、王都に来ているのか?」
「なんでもしばらくの間、こちらに滞在するそうだよ。・・・まだ若いお嬢さんなのだがね、二回会って二回とも気づかれてしまった。オレが自信を失うのも当然だろう?」
そうは言いつつ、大して堪えたような顔をしていないわね、とラエラは思っていたけれど。
リュークはそっちを気にすることはなく、騎士団長の姪の能力に興味を持ったようだった。
勿論、ベルもその事に気付いている。
「・・・手伝いたいと言っていたぞ? 一応、断っておいたがな」
「ああ、それでいい。・・・今のところは」
予想通り、とでも言いたいのか、ベルは何も言わずに、ただ肩を竦めた。
そして、思い出したように、一言付け加えた。
「ああ、そうだ。偶然現場に出くわした時は、勝手に動くけど気にするな、とも言ってたぞ」
「・・・」
リュークザインの眉根が思いきり寄せられ、ラエラは横で吹き出した。
「随分と頼もしい助っ人のようだな。・・・一度、会ってみるか」
「いい考えだ。なかなかお薦めの人材だぞ」
そう言うと、ベルフェルトは、楽しそうに微笑んだ。
その数はざっと三十枚程はあろうか。
バリューガ語を解する者、解さない者。
課された役割は違えども、それぞれが忠実に職務を果たしていた。
「・・・外で会う人物の面子に変化はないようだな。別に見つかっても困らない程度の内容報告にすぎない、ということか。重要な情報はそれ以外の方法で知らせている、となると、考えつくのは・・・」
「当然、社交場だろうな」
言葉を引き継いだのはベルフェルトだ。
しかめ面で報告書をぱらぱらとめくる相棒を、涼しげな目つきで眺めながらカップに手を伸ばす。
「うむ、ラエラ嬢はお茶を淹れるのも上手いな」
「恐れ入ります」
一口飲んで、誉め言葉を口にすれば、マイペースなリュークの婚約者は淡々と礼を返す。
「ベイベル国の者たちが出席している集まりはどれほどあった?」
ベルの問いに、リュークは再び報告書に目を落とした。
確認するかのようにページをめくり、数えながら最期の一枚まで目を通すと再び真正面に座るベルに視線を戻した。
「見逃したものもあるだろうが、現時点の報告では、どちらかと言うと茶会よりも夜会の方に多く出席しているようだ。その数、二十あまり、といったところか」
「それなりの数だな。もしや全部同じ家門が催したものかい?」
「必ずしもそうとは言えない。だが、確かに偏りは見られるな。恐らくはこの中に開催を主導している家があるのだろう。・・・まだ断定は出来んが」
お茶を飲み干したベルフェルトは、カップをテーブルに静かに置く。
「そうそう分かりやすくはしてくれないか。シャウヘッセ伯爵は恐らく繋ぎに使われただけだろうからな。誰がベイベル国の奴らと賢者くずれとをつなごうとしてるか、その黒幕を突き止めねば話が始まらん」
「そうだな。元々そういう不忠の輩をあぶりだすための罠だからな。ラファイエラスさまのお心遣いに報いるためにも、シャールベルム国王陛下にご安心いただくためにも、さっさとその黒幕とやらを見つけるとするか」
ラエラは飲み終わったカップを片付けながら、どちらにでもなく問いかける。
「ですが、全ての集まりに出席できる訳でもありませんわ。それに、頻繁に顔を出せば、それだけ相手の記憶にも残ってしまいますし」
「まあ、普通に出席するだけだったら、いずれ気取られてしまうだろうな。とりあえず出席する人間を分散させるとしても、ここはベルに相当頑張ってもらう必要がありそうだ」
「ベルフェルトさま、ですか?」
怪訝な表情を浮かべるラエラに、リュークザインは事もなげに告げる。
「こいつは変装が得意だからな。潜入捜査には打ってつけなんだ」
「まあ。本当ですの? 凄い特技ですのね」
「ああ、・・・まあね」
髪を掻き上げながら、ベルは少し困ったような表情を浮かべた。
意外な反応に、リュークが目を瞬かせる。
「どうした? 何故いつものように自信満々に頷かない?」
「いやあ、実は先日、生まれて初めて変装を見破られてしまってね。少々、自信を喪失しているのだよ」
「なに?」
初めて聞く情報に、思わず身を乗り出す。
「お前の変装を見破った奴がいたというのか? どこの諜報機関の者だ?」
顔色が変わり、問い詰めるような口調に変わる。
そんな反応を少し面白がりながら、ベルは何故か懐かしむような眼差しで答えた。
「いやいや、そんな恐ろしい相手じゃないさ。ただの可愛らしいお嬢さんだよ」
「可愛らしいお嬢さん? ・・・一般人か? いや、まさかただの平民がお前の変装を見抜ける筈がない」
「ただの平民、ではないな。ロッテングルム家の人間だ。カーン殿の姪御さんだそうだよ」
「カーン騎士団長の姪? ・・・辺境にいる筈だが、王都に来ているのか?」
「なんでもしばらくの間、こちらに滞在するそうだよ。・・・まだ若いお嬢さんなのだがね、二回会って二回とも気づかれてしまった。オレが自信を失うのも当然だろう?」
そうは言いつつ、大して堪えたような顔をしていないわね、とラエラは思っていたけれど。
リュークはそっちを気にすることはなく、騎士団長の姪の能力に興味を持ったようだった。
勿論、ベルもその事に気付いている。
「・・・手伝いたいと言っていたぞ? 一応、断っておいたがな」
「ああ、それでいい。・・・今のところは」
予想通り、とでも言いたいのか、ベルは何も言わずに、ただ肩を竦めた。
そして、思い出したように、一言付け加えた。
「ああ、そうだ。偶然現場に出くわした時は、勝手に動くけど気にするな、とも言ってたぞ」
「・・・」
リュークザインの眉根が思いきり寄せられ、ラエラは横で吹き出した。
「随分と頼もしい助っ人のようだな。・・・一度、会ってみるか」
「いい考えだ。なかなかお薦めの人材だぞ」
そう言うと、ベルフェルトは、楽しそうに微笑んだ。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる