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リュークザインはハトからの報告書に目を通していた。
その数はざっと三十枚程はあろうか。
バリューガ語を解する者、解さない者。
課された役割は違えども、それぞれが忠実に職務を果たしていた。
「・・・外で会う人物の面子に変化はないようだな。別に見つかっても困らない程度の内容報告にすぎない、ということか。重要な情報はそれ以外の方法で知らせている、となると、考えつくのは・・・」
「当然、社交場だろうな」
言葉を引き継いだのはベルフェルトだ。
しかめ面で報告書をぱらぱらとめくる相棒を、涼しげな目つきで眺めながらカップに手を伸ばす。
「うむ、ラエラ嬢はお茶を淹れるのも上手いな」
「恐れ入ります」
一口飲んで、誉め言葉を口にすれば、マイペースなリュークの婚約者は淡々と礼を返す。
「ベイベル国の者たちが出席している集まりはどれほどあった?」
ベルの問いに、リュークは再び報告書に目を落とした。
確認するかのようにページをめくり、数えながら最期の一枚まで目を通すと再び真正面に座るベルに視線を戻した。
「見逃したものもあるだろうが、現時点の報告では、どちらかと言うと茶会よりも夜会の方に多く出席しているようだ。その数、二十あまり、といったところか」
「それなりの数だな。もしや全部同じ家門が催したものかい?」
「必ずしもそうとは言えない。だが、確かに偏りは見られるな。恐らくはこの中に開催を主導している家があるのだろう。・・・まだ断定は出来んが」
お茶を飲み干したベルフェルトは、カップをテーブルに静かに置く。
「そうそう分かりやすくはしてくれないか。シャウヘッセ伯爵は恐らく繋ぎに使われただけだろうからな。誰がベイベル国の奴らと賢者くずれとをつなごうとしてるか、その黒幕を突き止めねば話が始まらん」
「そうだな。元々そういう不忠の輩をあぶりだすための罠だからな。ラファイエラスさまのお心遣いに報いるためにも、シャールベルム国王陛下にご安心いただくためにも、さっさとその黒幕とやらを見つけるとするか」
ラエラは飲み終わったカップを片付けながら、どちらにでもなく問いかける。
「ですが、全ての集まりに出席できる訳でもありませんわ。それに、頻繁に顔を出せば、それだけ相手の記憶にも残ってしまいますし」
「まあ、普通に出席するだけだったら、いずれ気取られてしまうだろうな。とりあえず出席する人間を分散させるとしても、ここはベルに相当頑張ってもらう必要がありそうだ」
「ベルフェルトさま、ですか?」
怪訝な表情を浮かべるラエラに、リュークザインは事もなげに告げる。
「こいつは変装が得意だからな。潜入捜査には打ってつけなんだ」
「まあ。本当ですの? 凄い特技ですのね」
「ああ、・・・まあね」
髪を掻き上げながら、ベルは少し困ったような表情を浮かべた。
意外な反応に、リュークが目を瞬かせる。
「どうした? 何故いつものように自信満々に頷かない?」
「いやあ、実は先日、生まれて初めて変装を見破られてしまってね。少々、自信を喪失しているのだよ」
「なに?」
初めて聞く情報に、思わず身を乗り出す。
「お前の変装を見破った奴がいたというのか? どこの諜報機関の者だ?」
顔色が変わり、問い詰めるような口調に変わる。
そんな反応を少し面白がりながら、ベルは何故か懐かしむような眼差しで答えた。
「いやいや、そんな恐ろしい相手じゃないさ。ただの可愛らしいお嬢さんだよ」
「可愛らしいお嬢さん? ・・・一般人か? いや、まさかただの平民がお前の変装を見抜ける筈がない」
「ただの平民、ではないな。ロッテングルム家の人間だ。カーン殿の姪御さんだそうだよ」
「カーン騎士団長の姪? ・・・辺境にいる筈だが、王都に来ているのか?」
「なんでもしばらくの間、こちらに滞在するそうだよ。・・・まだ若いお嬢さんなのだがね、二回会って二回とも気づかれてしまった。オレが自信を失うのも当然だろう?」
そうは言いつつ、大して堪えたような顔をしていないわね、とラエラは思っていたけれど。
リュークはそっちを気にすることはなく、騎士団長の姪の能力に興味を持ったようだった。
勿論、ベルもその事に気付いている。
「・・・手伝いたいと言っていたぞ? 一応、断っておいたがな」
「ああ、それでいい。・・・今のところは」
予想通り、とでも言いたいのか、ベルは何も言わずに、ただ肩を竦めた。
そして、思い出したように、一言付け加えた。
「ああ、そうだ。偶然現場に出くわした時は、勝手に動くけど気にするな、とも言ってたぞ」
「・・・」
リュークザインの眉根が思いきり寄せられ、ラエラは横で吹き出した。
「随分と頼もしい助っ人のようだな。・・・一度、会ってみるか」
「いい考えだ。なかなかお薦めの人材だぞ」
そう言うと、ベルフェルトは、楽しそうに微笑んだ。
その数はざっと三十枚程はあろうか。
バリューガ語を解する者、解さない者。
課された役割は違えども、それぞれが忠実に職務を果たしていた。
「・・・外で会う人物の面子に変化はないようだな。別に見つかっても困らない程度の内容報告にすぎない、ということか。重要な情報はそれ以外の方法で知らせている、となると、考えつくのは・・・」
「当然、社交場だろうな」
言葉を引き継いだのはベルフェルトだ。
しかめ面で報告書をぱらぱらとめくる相棒を、涼しげな目つきで眺めながらカップに手を伸ばす。
「うむ、ラエラ嬢はお茶を淹れるのも上手いな」
「恐れ入ります」
一口飲んで、誉め言葉を口にすれば、マイペースなリュークの婚約者は淡々と礼を返す。
「ベイベル国の者たちが出席している集まりはどれほどあった?」
ベルの問いに、リュークは再び報告書に目を落とした。
確認するかのようにページをめくり、数えながら最期の一枚まで目を通すと再び真正面に座るベルに視線を戻した。
「見逃したものもあるだろうが、現時点の報告では、どちらかと言うと茶会よりも夜会の方に多く出席しているようだ。その数、二十あまり、といったところか」
「それなりの数だな。もしや全部同じ家門が催したものかい?」
「必ずしもそうとは言えない。だが、確かに偏りは見られるな。恐らくはこの中に開催を主導している家があるのだろう。・・・まだ断定は出来んが」
お茶を飲み干したベルフェルトは、カップをテーブルに静かに置く。
「そうそう分かりやすくはしてくれないか。シャウヘッセ伯爵は恐らく繋ぎに使われただけだろうからな。誰がベイベル国の奴らと賢者くずれとをつなごうとしてるか、その黒幕を突き止めねば話が始まらん」
「そうだな。元々そういう不忠の輩をあぶりだすための罠だからな。ラファイエラスさまのお心遣いに報いるためにも、シャールベルム国王陛下にご安心いただくためにも、さっさとその黒幕とやらを見つけるとするか」
ラエラは飲み終わったカップを片付けながら、どちらにでもなく問いかける。
「ですが、全ての集まりに出席できる訳でもありませんわ。それに、頻繁に顔を出せば、それだけ相手の記憶にも残ってしまいますし」
「まあ、普通に出席するだけだったら、いずれ気取られてしまうだろうな。とりあえず出席する人間を分散させるとしても、ここはベルに相当頑張ってもらう必要がありそうだ」
「ベルフェルトさま、ですか?」
怪訝な表情を浮かべるラエラに、リュークザインは事もなげに告げる。
「こいつは変装が得意だからな。潜入捜査には打ってつけなんだ」
「まあ。本当ですの? 凄い特技ですのね」
「ああ、・・・まあね」
髪を掻き上げながら、ベルは少し困ったような表情を浮かべた。
意外な反応に、リュークが目を瞬かせる。
「どうした? 何故いつものように自信満々に頷かない?」
「いやあ、実は先日、生まれて初めて変装を見破られてしまってね。少々、自信を喪失しているのだよ」
「なに?」
初めて聞く情報に、思わず身を乗り出す。
「お前の変装を見破った奴がいたというのか? どこの諜報機関の者だ?」
顔色が変わり、問い詰めるような口調に変わる。
そんな反応を少し面白がりながら、ベルは何故か懐かしむような眼差しで答えた。
「いやいや、そんな恐ろしい相手じゃないさ。ただの可愛らしいお嬢さんだよ」
「可愛らしいお嬢さん? ・・・一般人か? いや、まさかただの平民がお前の変装を見抜ける筈がない」
「ただの平民、ではないな。ロッテングルム家の人間だ。カーン殿の姪御さんだそうだよ」
「カーン騎士団長の姪? ・・・辺境にいる筈だが、王都に来ているのか?」
「なんでもしばらくの間、こちらに滞在するそうだよ。・・・まだ若いお嬢さんなのだがね、二回会って二回とも気づかれてしまった。オレが自信を失うのも当然だろう?」
そうは言いつつ、大して堪えたような顔をしていないわね、とラエラは思っていたけれど。
リュークはそっちを気にすることはなく、騎士団長の姪の能力に興味を持ったようだった。
勿論、ベルもその事に気付いている。
「・・・手伝いたいと言っていたぞ? 一応、断っておいたがな」
「ああ、それでいい。・・・今のところは」
予想通り、とでも言いたいのか、ベルは何も言わずに、ただ肩を竦めた。
そして、思い出したように、一言付け加えた。
「ああ、そうだ。偶然現場に出くわした時は、勝手に動くけど気にするな、とも言ってたぞ」
「・・・」
リュークザインの眉根が思いきり寄せられ、ラエラは横で吹き出した。
「随分と頼もしい助っ人のようだな。・・・一度、会ってみるか」
「いい考えだ。なかなかお薦めの人材だぞ」
そう言うと、ベルフェルトは、楽しそうに微笑んだ。
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