【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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いきなりでも、なんとかやれちゃうもので

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今日の夜会では、カトリアナはいつもの親しい友人たちと固まることもなく、まんべんなく巡っては人の流れを観察していた。

視界の向こうには、同じように社交にいそしむエレアーナの姿が。
少し視線を巡らせば、ホールの端では姉のアリエラが夫と共に談笑している。

・・・シュリエラさまは。

扇で顔を隠しながら位置を確認する。
アリエラたちの対角のところで他のご令嬢方と会話をしているようだ。

そしてラエラさまが、あちらね。

皆の位置を確認して、自分の動く方向を決める。

正直、社交は得意ではない。
でもレオンさまのお役にたてるのなら、出来る事をしなければ。

皆さまもああして頑張ってくださっているんですもの。

そこに給仕が飲み物を持って近づいて来る。
半刻前にもデュールを持ってきてくれた人物だ。

・・・こうして改めて見ても、やっぱり分からないわ。
前もって教えてもらわなかったら、絶対に気づかなかったわね。

なんて考えていると、すっと盆を差しだされた。

「こちらでよろしいですか」
「ええ、いただくわ」

そう答えて手を伸ばすと、給仕は一歩近づいて盆からグラスを一つ取る。

「・・・東側、一番端のバルコニーに入っていきましたわ」

受け取った時に、小声で囁く。

「では、また何かご用がありましたら遠慮なく仰ってください」

給仕は薄い笑みを浮かべて軽く一礼して去っていく。

その後ろ姿を見つめながら、ほう、と息を吐く。

うーん、こんなに間近で見てもやっぱり分からなかったわね。
髪色も髪型も声色も話し方も違うのに、本当に本人なのかしら。

違う人に報告してたらどうしましょう。
ああでも、分からない、と言えば、あちらも分からないわね。

エレアーナから空のグラスを受け取っている女性給仕に目を向ける。

さっきと全然違う格好だし、髪型とか、雰囲気とかもガラっと変わってるし。
そもそも、いきなりやれと言われてやれるものなのかしら。

あれが才能の違いというものなのね。
あの二人だったら敵方の邸に侵入して派手に大立ち回りとかやっても似合いそう・・・ってちょっと待ちなさい、カトリアナ。

いつもの妄想癖が出そうになって、はっと我に返る。

いけない、いけない。
また思考がどこかに行ってしまうところだったわ。

せっかく大事なお役目を頂いたのですもの。頑張らなければ。
気を取り直したカトリアナは、ぐるりと会場を見渡す。

勿論、扇で視線の行く先は隠している。

ベイベル国の客のもう一人は・・・あそこね。
シュリエラさまの近くだわ。

なら、あちらはお任せしても大丈夫ね。

では、私は次にどこを巡ろうかしら。

先ほどバルコニーに向かわれた方が、直前まで話し込んでおられた方は・・・。







「ご協力に感謝する」

深々と頭を下げるリュークザインに、カトリアナを始めとした令嬢たちが嬉しそうに頷いた。

「お役にたてましたかしら」
「十分だ。お陰で横のつながりがある人物をある程度絞れそうだ。これなら見張りをつけても、さほどの人員が割かれなくて済む」

リュークザインは扉近くの壁に寄りかかっている給仕姿の相棒に顏を向けた。
その隣には女性給仕姿のルナフレイアも立っている。

「ルナフレイア嬢の活躍ぶりはどうだった? ベル」

そう問われて、ベルフェルトはちらりと隣の女性給仕の顔を見る。
その眼には、面白いものを見つけたと言わんばかりの好奇の色が溢れていた。

「いやあ、度胸がいいのは分かっていたがね、初めてであれだけ堂々と動けたら大したものだよ。変装を手伝ったオレでも、一刻前にライナスが連れてきたご令嬢と同一人物だとは思えないくらいの化けっぷりだったからな」

話し終えると同時に、横から脇腹を思い切りどつかれる。
見れば、ルナフレイアが不服そうに頬をぷうと膨らませていた。

「化けっぷりだなんて失礼ね。もうちょっと上手い褒め方をしてもらえません?」
「ああ、そうか。では言い方を変えよう。ルナフレイア嬢、君は見事に給仕役をこなしていたよ。きっと一流の詐欺師になれる才能があるのだな」

もう一度、脇腹をどつかれそうになるが、ベルフェルトはそれを、するりと躱す。

「へえ? やるわね」
「おいおい、落ち着きたまえ。ここで君と勝負をするつもりはないぞ。オレは温厚な平和主義者なんだからな」
「貴方が温厚なのは認めるけれど・・・」
「おい、ルナ。そこらで止めとけ」

じゃれ合いが始まりそうな展開に、ライナスバージがいち早く止めに入る。

「流石は従兄どの。よくタイミングを分かっているじゃないか」

ベルフェルトが、にやりと言葉を続ける。
どうやら楽しくてしょうがなさそうだ。

「ベルフェルト。その辺にしておけ。話が一向に進まん」

そこを真面目男がぴしゃりと止めたのだが。

このようなやり取りをあまり見慣れていないカトリアナたちご令嬢は、ただただ、ぽかんとした表情を浮かべていて。

リュークは咳払いを一つしてから言葉を継いだ。

「ご令嬢方の今夜のご協力に感謝する。それで、もしよろしければ・・・の話なのだが、もう少々その力をお借し願えないだろうか。実は、折り入って頼みたいことがあるのだが」
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