【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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謎の給仕さん

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休憩室の一つに入ると、更に奥へとつながる扉をくぐる。
そこから通路を抜け、騎士たちが守りを固める扉を開く。

するとその部屋には、ホールで別れたばかりのリュークザインとレオンハルトがいた。

ライナスバージとルナフレイアが入室すると、先ほどデュールを持ってきた給仕も飲み物を載せた盆を手に中に入ってきた。

「ご令嬢もデュールでよろしいですか?」

全員のテーブルにグラスを置きながら、給仕はルナフレイアにも聞いてきた。

「ええ、勿論ですわ」
「では、こちらを」

すっと差しだされたグラスを受け取りながら、ルナフレイアがくすくすと笑う。

「本当に器用な方なのね、貴方は」
「ん? ルナ? 今なんか言ったか?」
「なんでもないわ。こっちの話」

楽しそうに笑うだけで理由を教える様子もないルナフレイアに、ライナスバージは少しむっとした顔をしたものの、レオンたちの前であることを思い出し、それ以上の追求はしなかった。

新しく用意されたグラスに手を伸ばしながら、レオンハルトがふわりと微笑む。

「じゃあ、改めてようこそ、ルナフレイア嬢。話の続きをしてもいいかな?」
「はい」
「実はね、今、ちょっと困ったことが起きててね。対策をしたいとは思っているんだけど、如何せん人手が足りない。かと言って、いなければ雇えばいいっていう簡単な話でもなくてね」

ここで一旦、間を置き、グラスを傾ける。
ふう、と息を吐いてから言葉を継いだ。

「僕たちが欲しいのは、まず自分の身を守れる程度の強さを身につけている人。それから信頼できる人物であること。加えて器用に立ち回れる人であればさらに望ましいね」

黙って耳を傾けるルナフレイアの顔をじっと見つめる。

「君はロッテングルム家の人間だ。強さは折り紙付きだろう。信頼に足る人間であると騎士団長自らの保証の言葉もある。しかも、これまでずっと辺境伯領にいたため、こちらの貴族たちに顔を知られていない。つまり、かなり理想的な人材なんだ。そこでお願いなんだけどね、・・・君に協力してはもらえないだろうか」

ルナフレイアは一瞬目を瞠り、首をこてんと傾げた。

「お願い、でよろしいのですか? 王太子のお立場にあられるのです。ご命令としてお言葉を下されても構いませんのに」

思わぬ質問を返されて、レオンはきょとんとした顔をする。

「・・・それは可能だけれど。カーンの姪でありライナスの従妹である君を命令一つで動かすのは気が引ける。というより、僕が嫌だ。王国一の騎士の家系に生を受けた者としての矜持もあるだろう?」

しごく真面目に、そして誠実に返され、ルナフレイアは呆気にとられ、それからぷっと吹き出した。

「ルナ。お前、笑うなよ。失礼だぞ」
「・・・申し訳ありません。なんだか嬉しくて」

なかなか笑いが治まらず、隣のライナスは慌てているが、レオンハルトとリュークザインは怒りもせずにじっと待ってくれている。

「すみません。これほどまでにお優しい方だとは思っていなかったので驚いてしまいました。一家臣の親戚筋の娘の心まで思いやってくださるなんて」
「いや、家臣とはいえ命令のみで動かされるべきではないと思っているからね。出来ることなら、そういう理由で頷いては欲しくない。・・・綺麗ごとかもしれないが」
「いいえ。では、こちらからお願いさせていただきますわ」

そう言うと、ルナフレイアは席を立ち、王太子の前に来た。そして片膝をついて、騎士の礼を取った。

「ルナフレイア・ロッテングルム。王国のために喜んでこの身をお捧げいたします。どうぞなんなりとお申し付けくださいませ」

今度はレオンハルトが笑う番だった。

「ふふ、やることが男前だね。・・・じゃあ、君に頼みたい仕事については、こちらのリュークザインから聞いて貰えるかな?」
「畏まりました」

リュークザインが合図をすると、ルナフレイアたちが入ってきた扉から先ほどの給仕が再び現れ、テーブルの前にあるものを置く。

「ベルからの報告を聞いて、もしやこちらの適性もあるのではないかと思ったのだが。今夜、試しにやってもらっても?」
「・・・」

ルナフレイアは、目の前に置かれたものとそれを持ってきた給仕の顔とを交互に見比べる。
そして給仕の男と目が合うと、男はにやりと含みのある笑みを浮かべた。

ルナフレイアもそれに応えてふ、と笑う。

「面白そうですね。分かりました。ですが、仕事をする上でアドバイスはいただけるんでしょうね、先輩?」

置かれたものを手に取ってそう答えると、男は楽しげに目を細める。

「ああ、勿論だ。お望みならば、手取り足取り、懇切丁寧に教えてやろう」







レオンハルトとリュークザイン、そしてライナスバージは席を立ったルナフレイアを見送った後、後ろ側の扉から更に奥へと移動した。

そこには既に他の関係者が集まっていた。

まず、国王シャールベルムと王弟ミハイルシュッツ。
宰相シュタインゼンとその息子ケインバッハ。
外務部からは、ルシウスが。
そして騎士団からはカーン団長とキリマス副団長、そしてアッテンボローがやって来ていた。

更には数名のハトたちが壁近くに控えている。

「どうだった?」

国王からの問いに、リュークザインが口を開く。

「ただ今、ベルフェルトと共にホールに潜り込んでもらいました。見たところ、能力だけでなくかなりの度胸も持ち合わせている様子。デサイファミスでは有能な女性の人材をずっと求めていましたので、彼女が協力を約束してくれた事は大きいですね」
「そうか。協力に感謝するぞ、カーン」
「勿体ないお言葉です、陛下」

そんなやり取りを眼前にして、シュタインゼンが笑みを浮かべる。

「いやいや、それにしてもカーンの姪御君に白羽の矢を立てるとは、ベルの見る目も流石と言いましょうか。これは後でホールの様子を覗いてみないといけませんな」

如何にも楽しそうな父の様子に、またか、とケインバッハはひそかに溜息を吐いたのだった。
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