【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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大事ないとこ

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「お? 珍しいな、ライ。お前が邸に顔を出すなんて」

普段は騎士寮に寝泊まりしている息子の顔を見て、カーンが物珍しそうな声を出す。
王都にあるロッテングルム家の広い邸も、親戚の者たちが滞在している今はかなり賑やかだ。

現に今も、食堂で談笑する声や、敷地内に建設された鍛錬場で剣を打ち合う音が聞こえてくる。

「あー、ちょっとね・・・。あいつ、いる?」
「あいつ? もしかしてルナフレイアのことか?」
「ああ」

カーンの眼が好奇で細まるのを見て、慌てて「仕事の話だよ」と情報を追加する。

「なんだ、つまらん」

肩を竦めてそう呟いたカーンに、ライナスがうんざりしたような声を上げる。

「つまらんって・・・。親父、あの話はもう破談になった筈だろ」
「まあそうだが、お前もまだ決まった相手がいないままだろ? なら、どう話が転ぶか、まだわからないじゃないか」
「転びようがないよ。オレはあいつと結婚する気がないんだから」
「なら、さっさと恋人の一人でも連れて来い。お前ももう二十歳だろ?」

いつまで経っても浮いた噂一つたたない息子に、基本、放任主義の団長も呆れ顔だ。

「別にそういう話に興味がない訳じゃないけど、今は恋人とか結婚とかはどうでもいいな。構わないだろ? オレは別に跡取りでもないし」
「・・・まだ忘れられないのか?」

声のトーンが変わり、低く静かに問われ、ライナスの肩が微かに跳ねる。

「いつまで引きずるつもりだ?」
「なんの話か分かんねぇな。それよりルナはどこだよ、あいつに話があるから、ここに来たんだ」

会話を続ける気のない空気に、カーンはひとつ溜息を吐く。

「あいつならここにはいないぞ。ベルフェルトと一緒だそうだ。恐らく新しい任務でもあるんだろ」
「・・・そ」

それだけ言うとくるりと向きを変え、足早にエントランスへと向かった、が、扉の前で一瞬、足を止める。

「なぁ、親父。なんでルナに諜報任務に関わる許可を出したんだよ? あいつにまで何かあったらどうするんだ」
「なんだ、今更。陛下からのご要請だぞ? お前も納得してたんじゃないのか」
「だけど」
「大丈夫だ。ルナは強い」

振り返りもせずに投げかけた言葉に、カーンは静かに答える。

「あの子は、お前と違ってちゃんと前を向いてるからな」
「・・・」

ライナスバージはそれには答えない。
ただ黙って足を速め、ロッテングルム邸を後にした。

普段から明るく元気よく、笑みを絶やさないライナスバージには珍しい、険のある表情で。






「それで? わざわざ変装までしてこんなカフェにいる理由は何なんでしょう?」
「勿論、任務に決まっているだろう。ああ、それともデートだとでも言って欲しかったのか? だとしたら気が利かなくてすまなかったな」

にやにやと楽しそうな顔の男を軽くにらみながら、ルナフレイアは今しがたテーブルに届いたばかりの果実水に口をつけた。

「んっ、美味しい」
「だろう? これは王都名物だからな。辺境伯領では口にできん味の筈だ」

嬉しそうに笑う(臨時)上司を、少し驚いた顔で見つめる。

「ん? どうした?」
「いえ、ベルフェルトさまも真っ直ぐに気を遣うこともあるんだなあ、と思っただけで」
「正直だな」

くく、と笑いながら、自身も注文したグラスに口をつける。

「ベルフェルトさまの気遣いの示し方は回りくどすぎるって言われません?」
「ああ、よく言われるな」

今日のベルフェルトの格好は、日焼けした肌に濃茶の瞳、赤の肩までの高さに切りそろえた髪を後ろで一つに縛り、体格もいつもよりがっしりとしていて、いかにも労働者然としている。

「それにしても、いつもながらお見事な変装ね」
「いつも君にあっさり見破られてるのに何を言う。これでも自信喪失しているのだぞ」
「姿かたちで分かったわけじゃないのでご安心を。見た目はいつも全くの別人になってましたよ」

さらりと口にした言葉に興味を惹かれたようだ。
ベルフェルトが少し前傾を取る。

「ほう? ではどうやって見破ったのだ?」

眼光鋭く尋ねるも、その眼差しを向けられたルナフレイアは、呑気にカラカラとグラスを揺らす。

「んー、体さばき、かな」
「体さばき?」
「身のこなしと言った方が分かりやすいかしら。足の運び方、手の動き、咄嗟の反応、とかで前に会った人と同じ動きだなって思ったの。だからきっと、動作そのものを変えなきゃいけない老人にでも化けられたら、私もころっと騙されちゃうんじゃないかな」
「・・・成程な。参考にさせてもらうよ」
「はーい、頑張ってくださいね」

ベルフェルトはぐっとグラスの中身を飲み干すと、目の前にいる同じく変装した可愛らしい町娘をじっと見据える。

「さて、では君に頼みたい仕事なんだがね」

そう言うと、ベルフェルトは視線を通り向こうの邸へと走らせた。
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