180 / 256
機嫌不機嫌
しおりを挟む
午後から婚約者の結婚式用ドレスを選ぶことになっていたレオンハルトは、朝からすこぶる上機嫌だったのだが。
背後には、何やら不機嫌そうに眉根を寄せている男が控えていて。
「あー、もう。せっかくいい気分なのに、なにその辛気臭い顔」
気が散って仕方ないから、ペンも書類も一旦机に置いて、声をかけることにした。
ところが、当の本人は全く自覚がなかったようで、「そうですかね?」と、驚いたように聞き返してくる。
感情がモロに顔に出るタイプだってこと、気付いてないみたいだ。
だから、つい呆れた声が出た。
「そうですかね?、じゃないでしょ。全くどうしちゃったのさ。ライナスが機嫌悪いなんて珍しいけど」
「ええと、いや、すみません。オレとしては、そんなつもりなくて」
・・・沈んでることも、その理由も分かってないみたいだな。
これじゃ相談の乗りようがない。
暫く様子を見るか。
僕は机の上の書類の束を見る。
「ねえ、ライナス。カトリアナとの約束の時間まで、あとどれくらい?」
「あと半刻ほどです」
「そっか。じゃあ、そろそろあちらに向かおうかな」
王城の回廊を歩きながら、僕はライナスのことを考えていた。
僕の護衛についてからもうすぐ五年。
その間、ずっとライナスは明るくて、元気で、いつもにこにこしていた。
基本、深く考えることはないし、あまり引きずるタイプでもない。
なのに・・・。
ちら、と後ろを歩く護衛を見る。
・・・今のライナスバージは明らかに落ち込んでいるだよなあ。
らしくないけど。それに、まったく似合ってないけど。
ま、本人もよく分かってないみたいだし、今のところはそっとしとくしかないか。
僕はドレス選びに頭を切り替えることにした。
デザイナーは既に到着していて準備を整えていたようで。
広間には様々なデザインのドレスと美しい装飾品が所狭しと置かれている。
レオンハルトより少し遅れて、カトリアナが広間に入ってきた。
僕を見て嬉しそうに微笑み、小走りで駆け寄る姿は、相変わらず愛らしくて、レオンの口元が自然と緩む。
続いて護衛のアッテンボローと侍女姿のシュリエラが入室する。
だがここでレオンハルトは思案した。
ウエディングドレスを試着するんだよね。
僕以外の男に花嫁姿を見せたくないな。
「僕とカトリアナの二人でドレスを選ぶから、護衛だけは扉の外に立って、あとの皆は別室で待ってて」
そう伝えた。
目の前には色とりどりの豪奢なドレス。
繊細なレースに細やかな刺繍、縫い留められた煌めく宝石にゆったりとしたドレープ。
どれもこれもカトリアナに似合いそうだから。
公の場でお披露目する日が来る前に、他の男どもの視線に、敢えて晒す必要もないからね。
うーん、そうだな。
僕しかいないんだったら、着替え用の衝立とかも必要ないような気がするけど。
きっと、それはカトリアナが恥ずかしがるだろうな。
「・・・相変わらずだな、殿下は」
「そうだな」
レオンハルトの要請通り、ライナスとアッテンの二人は扉外にて警護に当たっていた。
二言三言、言葉を交わした後、アッテンボローがちらりとライナスを見やる。
「なんかあったのか?」
「・・・いや、別に」
「そうか。ならいいが」
アッテンボローは何気ない口調のまま。
だが、眉根はきつく寄せられていた。
・・・この男が珍しくへこんでいる。
試合に負けてもけろりとしている奴が。
まあ、聞いても言わないだろうから、初めから聞かないけど。
そう思ったから後は黙って任務に集中することにした。
あいつも今日は口数が少ないから、その方が丁度いいだろうし。
と、そこへ離宮の方角からラエラが現れる。
どうやらシュリエラに言伝があったようだ。
扉の前に立つアッテンたちに、シュリエラを呼ぶように頼まれた。
「シュリエラ嬢はこの隣の部屋にいる。別室で控えているようにとの仰せだったので」
「まあ、そうでしたの。わかりました、こちらですね」
「あ、あの」
隣の部屋に向かおうとしたラエラをライナスが呼び止める。
怪訝な表情で振り向くラエラに、ベルフェルトの所在を尋ねるライナス。
ラエラは、ああ、と頷くと、にこやかに答えた。
「ベルフェルトさまは、本日も王都に出ておられますわ。ルナフレイアさまと一緒に」
その時アッテンボローは微かに眼を見開いた。
ライナスバージが明らかに動揺したのだ。
・・・なんだ?
コイツがへこんでいるのと関係があるのか?
ラエラは隣室のシュリエラにリュークザインからの言伝を知らせると、すぐにその場を立ち去った。
それからアッテンボローは暫くの間、隣に立つライバルの様子を見守っていたのだが。
結局、その後もなにも変わることなく、ライナスバージはずっと黙って何かを考えていた。
背後には、何やら不機嫌そうに眉根を寄せている男が控えていて。
「あー、もう。せっかくいい気分なのに、なにその辛気臭い顔」
気が散って仕方ないから、ペンも書類も一旦机に置いて、声をかけることにした。
ところが、当の本人は全く自覚がなかったようで、「そうですかね?」と、驚いたように聞き返してくる。
感情がモロに顔に出るタイプだってこと、気付いてないみたいだ。
だから、つい呆れた声が出た。
「そうですかね?、じゃないでしょ。全くどうしちゃったのさ。ライナスが機嫌悪いなんて珍しいけど」
「ええと、いや、すみません。オレとしては、そんなつもりなくて」
・・・沈んでることも、その理由も分かってないみたいだな。
これじゃ相談の乗りようがない。
暫く様子を見るか。
僕は机の上の書類の束を見る。
「ねえ、ライナス。カトリアナとの約束の時間まで、あとどれくらい?」
「あと半刻ほどです」
「そっか。じゃあ、そろそろあちらに向かおうかな」
王城の回廊を歩きながら、僕はライナスのことを考えていた。
僕の護衛についてからもうすぐ五年。
その間、ずっとライナスは明るくて、元気で、いつもにこにこしていた。
基本、深く考えることはないし、あまり引きずるタイプでもない。
なのに・・・。
ちら、と後ろを歩く護衛を見る。
・・・今のライナスバージは明らかに落ち込んでいるだよなあ。
らしくないけど。それに、まったく似合ってないけど。
ま、本人もよく分かってないみたいだし、今のところはそっとしとくしかないか。
僕はドレス選びに頭を切り替えることにした。
デザイナーは既に到着していて準備を整えていたようで。
広間には様々なデザインのドレスと美しい装飾品が所狭しと置かれている。
レオンハルトより少し遅れて、カトリアナが広間に入ってきた。
僕を見て嬉しそうに微笑み、小走りで駆け寄る姿は、相変わらず愛らしくて、レオンの口元が自然と緩む。
続いて護衛のアッテンボローと侍女姿のシュリエラが入室する。
だがここでレオンハルトは思案した。
ウエディングドレスを試着するんだよね。
僕以外の男に花嫁姿を見せたくないな。
「僕とカトリアナの二人でドレスを選ぶから、護衛だけは扉の外に立って、あとの皆は別室で待ってて」
そう伝えた。
目の前には色とりどりの豪奢なドレス。
繊細なレースに細やかな刺繍、縫い留められた煌めく宝石にゆったりとしたドレープ。
どれもこれもカトリアナに似合いそうだから。
公の場でお披露目する日が来る前に、他の男どもの視線に、敢えて晒す必要もないからね。
うーん、そうだな。
僕しかいないんだったら、着替え用の衝立とかも必要ないような気がするけど。
きっと、それはカトリアナが恥ずかしがるだろうな。
「・・・相変わらずだな、殿下は」
「そうだな」
レオンハルトの要請通り、ライナスとアッテンの二人は扉外にて警護に当たっていた。
二言三言、言葉を交わした後、アッテンボローがちらりとライナスを見やる。
「なんかあったのか?」
「・・・いや、別に」
「そうか。ならいいが」
アッテンボローは何気ない口調のまま。
だが、眉根はきつく寄せられていた。
・・・この男が珍しくへこんでいる。
試合に負けてもけろりとしている奴が。
まあ、聞いても言わないだろうから、初めから聞かないけど。
そう思ったから後は黙って任務に集中することにした。
あいつも今日は口数が少ないから、その方が丁度いいだろうし。
と、そこへ離宮の方角からラエラが現れる。
どうやらシュリエラに言伝があったようだ。
扉の前に立つアッテンたちに、シュリエラを呼ぶように頼まれた。
「シュリエラ嬢はこの隣の部屋にいる。別室で控えているようにとの仰せだったので」
「まあ、そうでしたの。わかりました、こちらですね」
「あ、あの」
隣の部屋に向かおうとしたラエラをライナスが呼び止める。
怪訝な表情で振り向くラエラに、ベルフェルトの所在を尋ねるライナス。
ラエラは、ああ、と頷くと、にこやかに答えた。
「ベルフェルトさまは、本日も王都に出ておられますわ。ルナフレイアさまと一緒に」
その時アッテンボローは微かに眼を見開いた。
ライナスバージが明らかに動揺したのだ。
・・・なんだ?
コイツがへこんでいるのと関係があるのか?
ラエラは隣室のシュリエラにリュークザインからの言伝を知らせると、すぐにその場を立ち去った。
それからアッテンボローは暫くの間、隣に立つライバルの様子を見守っていたのだが。
結局、その後もなにも変わることなく、ライナスバージはずっと黙って何かを考えていた。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる