【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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機嫌不機嫌

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午後から婚約者の結婚式用ドレスを選ぶことになっていたレオンハルトは、朝からすこぶる上機嫌だったのだが。

背後には、何やら不機嫌そうに眉根を寄せている男が控えていて。

「あー、もう。せっかくいい気分なのに、なにその辛気臭い顔」

気が散って仕方ないから、ペンも書類も一旦机に置いて、声をかけることにした。

ところが、当の本人は全く自覚がなかったようで、「そうですかね?」と、驚いたように聞き返してくる。

感情がモロに顔に出るタイプだってこと、気付いてないみたいだ。
だから、つい呆れた声が出た。

「そうですかね?、じゃないでしょ。全くどうしちゃったのさ。ライナスが機嫌悪いなんて珍しいけど」
「ええと、いや、すみません。オレとしては、そんなつもりなくて」

・・・沈んでることも、その理由も分かってないみたいだな。

これじゃ相談の乗りようがない。
暫く様子を見るか。

僕は机の上の書類の束を見る。

「ねえ、ライナス。カトリアナとの約束の時間まで、あとどれくらい?」
「あと半刻ほどです」
「そっか。じゃあ、そろそろあちらに向かおうかな」

王城の回廊を歩きながら、僕はライナスのことを考えていた。

僕の護衛についてからもうすぐ五年。
その間、ずっとライナスは明るくて、元気で、いつもにこにこしていた。

基本、深く考えることはないし、あまり引きずるタイプでもない。
なのに・・・。

ちら、と後ろを歩く護衛を見る。

・・・今のライナスバージは明らかに落ち込んでいるだよなあ。

らしくないけど。それに、まったく似合ってないけど。

ま、本人もよく分かってないみたいだし、今のところはそっとしとくしかないか。

僕はドレス選びに頭を切り替えることにした。




デザイナーは既に到着していて準備を整えていたようで。
広間には様々なデザインのドレスと美しい装飾品が所狭しと置かれている。

レオンハルトより少し遅れて、カトリアナが広間に入ってきた。
僕を見て嬉しそうに微笑み、小走りで駆け寄る姿は、相変わらず愛らしくて、レオンの口元が自然と緩む。

続いて護衛のアッテンボローと侍女姿のシュリエラが入室する。

だがここでレオンハルトは思案した。

ウエディングドレスを試着するんだよね。
僕以外の男に花嫁姿を見せたくないな。

「僕とカトリアナの二人でドレスを選ぶから、護衛だけは扉の外に立って、あとの皆は別室で待ってて」

そう伝えた。

目の前には色とりどりの豪奢なドレス。
繊細なレースに細やかな刺繍、縫い留められた煌めく宝石にゆったりとしたドレープ。
どれもこれもカトリアナに似合いそうだから。

公の場でお披露目する日が来る前に、他の男どもの視線に、敢えて晒す必要もないからね。

うーん、そうだな。
僕しかいないんだったら、着替え用の衝立とかも必要ないような気がするけど。
きっと、それはカトリアナが恥ずかしがるだろうな。





「・・・相変わらずだな、殿下は」
「そうだな」

レオンハルトの要請通り、ライナスとアッテンの二人は扉外にて警護に当たっていた。

二言三言、言葉を交わした後、アッテンボローがちらりとライナスを見やる。

「なんかあったのか?」
「・・・いや、別に」
「そうか。ならいいが」

アッテンボローは何気ない口調のまま。
だが、眉根はきつく寄せられていた。

・・・この男が珍しくへこんでいる。

試合に負けてもけろりとしている奴が。

まあ、聞いても言わないだろうから、初めから聞かないけど。

そう思ったから後は黙って任務に集中することにした。
あいつも今日は口数が少ないから、その方が丁度いいだろうし。

と、そこへ離宮の方角からラエラが現れる。
どうやらシュリエラに言伝があったようだ。

扉の前に立つアッテンたちに、シュリエラを呼ぶように頼まれた。

「シュリエラ嬢はこの隣の部屋にいる。別室で控えているようにとの仰せだったので」
「まあ、そうでしたの。わかりました、こちらですね」
「あ、あの」

隣の部屋に向かおうとしたラエラをライナスが呼び止める。

怪訝な表情で振り向くラエラに、ベルフェルトの所在を尋ねるライナス。
ラエラは、ああ、と頷くと、にこやかに答えた。

「ベルフェルトさまは、本日も王都に出ておられますわ。ルナフレイアさまと一緒に」

その時アッテンボローは微かに眼を見開いた。

ライナスバージが明らかに動揺したのだ。

・・・なんだ?
コイツがへこんでいるのと関係があるのか?

ラエラは隣室のシュリエラにリュークザインからの言伝を知らせると、すぐにその場を立ち去った。

それからアッテンボローは暫くの間、隣に立つライバルの様子を見守っていたのだが。
結局、その後もなにも変わることなく、ライナスバージはずっと黙って何かを考えていた。
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