【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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いちゃついてないですよ

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目の前にあるやたらと立派な建物を見上げる。

華美な装飾も派手さもない。
だが上品で重厚な作りが、却って温かみと安心感を与える。

「ここがラエラさまのお父さまが経営なさっているカリエス商会ですか」
「本店はまた別に構えているそうだ。これで支店とは、なかなか立派なものだな。流石は商才で名高いカリエス卿だ」

アナベラ嬢との約束はまだ一時間以上先だ。
彼女に監視がつくことも考え、こちら側の人間は前もって現地に集合していた。

「ここの三階だ。・・・行くぞ」

案内された部屋には、既にベルフェルトたち以外の顔触れが揃っていた。

ファイを含めた建物外側からの見張り三名、ベルフェルトを含む隣室での見張りおよび護衛が両隣それぞれ二名ずつ、そして部屋で対応する役割のラエラとリュークザインの合計九名だ。

「・・・ベルフェルトさまと一緒じゃないんですね」
「なんだ、寂しいのか?」

もう一方の隣室に割り当てられ、不思議そうに呟いた声を不覚にも拾われる。
しかも、よりによって当人に。

「寂しいというか、最近いつもベルフェルトさまと組んでいたので、不思議に思っただけですよ」
「そうか。オレはまたてっきり、任務前のデートだけじゃ物足りなかったのかと」

そう言いながら、ルナフレイアの頭をぐりぐりと撫でる。

「何だったら今日の仕事の後にでもオレとどこかに行くか? いい所に連れて行ってやるぞ?」
「え? いい所? もしかして美味しいご飯ですか?」
「・・・ふっ」

色気の欠片もない返事に、ベルフェルトが思わず素の笑顔を見せた。
だがそれも一瞬で取り繕った顔に戻される。

「・・・失礼」
「ホント、失礼ですね。何もおかしいこと言ってないでしょうに」

真面目に返答したつもりを笑われて気を悪くしたのか、少しだけ不機嫌な声になっている。

「いや、何というか・・・君は、どこまでも真っ直ぐというか・・・一緒にいると楽でいいと、そう思ってね」

いつものように揶揄っているのかと思い顔を見上げると、意外にも真面目な表情でそう告げるものだから少しだけ気恥ずかしくなる。

「・・・まあ、楽なのはいいことですよね」
「ああ、そうだな」
「ちなみに、ですが。私はどうして、ずっと頭を撫でられてるんでしょう?」

何故かいつまで経っても手を頭から離さないベルフェルトにそう尋ねると、ベル自身そのことに始めて気がついたようで、「ああ」と言ってから手を離した。

「済まないな。どうにも君が可愛くて仕方ないようだ」
「はい? か、かわ・・・?」
「君は、手綱も鞍もつけられていない野生の仔馬のようだからね。自然体で、しなやかで、強い。こうして頭を撫でていると、まだ人に懐いていない暴れ馬を手懐けたような気分になる」
「・・・また揶揄ってますよね?」
「はは。君は本当に鋭いな。デサイファミスに永久就職したらどうだ?」
「お断りしま・・・」
「・・・ベル、それからルナフレイア嬢。じゃれ合うのはそのくらいにして、持ち場に就いてもらっても?」

低い声で会話を遮られ、その主へと目をやると、黒い笑みを浮かべたリュークザインが腕組みをして扉のところに立っていた。

「仲がいいのは結構だがな、そろそろ二人の世界から戻ってきてくれないとこちらが困る」
「し、失礼いたしました。すぐに隣の部屋に行きます」
「ベルもだ。じきアナベラ嬢が来る。いちゃついてないで、さっさ持ち場へ行け」
「はいはい」

リュークザインのお小言など、ベルフェルトは気にも留めていないようだが、ルナフレイアからすれば自分たちが「仲がいい」とか「いちゃついている」とか「二人の世界」などと言われたことに驚いて。

・・・確かに気を抜いて話しちゃってるけど。
それに、ベルフェルトさまは凄く話しやすいとも思うけど。

もの凄い美形だし、腕は立つし、回りくどいけど親切だし、頭も切れるし。

いや、でも。・・・でも。
いちゃついてない。いちゃついてないよ?

・・・というより、あんな凄い人が私みたいなのといちゃつく訳がないでしょう?

「ルナフレイア嬢? どうされました?」

自分と組んだ青年ハスラードが、百面相をするルナを怪訝そうな表情で伺っている。

「いえ、大丈夫です。仕事前に注意を受けたからちょっと・・・」
「注意・・・? ああ、さっきの」

うわ、この人にも見られてたの?

周囲を気にせずにやり合っていたが、意外と周りの目を引いていたようだ。

「まあ、確かに珍しいですからね。エイモス長官があんなに誰かに絡むのは」
「へ?」

微笑ましいとでも言いたげに語られたルナフレイアは、思わず素っ頓狂な声を上げる。

・・・珍しいも何も。

「でも、あの人、いつも誰かのこと揶揄ってばかりじゃないですか」
「揶揄う・・・。まあ、確かに、よく他人を揶揄う人ではありますが」
「でしょう?」
「ですが普段のあの方は満遍なく揶揄われますよ」
「はい?」

ここでルナフレイアは少しばかり沈黙する。
そして律儀にその沈黙が破られるのを待つのはハスラード。

やがてルナフレイアが再び口を開いた。

「満遍なく?」
「はい、満遍なく」
「それはつまり、皆に平等に?」
「そうですね、それこそ家格、立場に関係なく平等に」
「ええええ?」

デサイファミスに顔を出すようになって、早、数か月は経つ。

なのに。
気付かなかった。

そうだったっけ? 

「・・・だから珍しいと言いました」

ハスラードは涼しい声でそう言った。
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