【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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疲労困憊 仕事満杯

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「・・・なんか、目が死んでません?」

後から執務室に入ってきたルナフレイアが、ぽつりと呟いた。
後ろには、今日一緒に働いていたハトの一人が立っている。

「ああ、ルナフレイア嬢。喜べ、また更に忙しくなりそうだぞ」
「・・・はい?」
「新しく情報が入りそうなのだよ。あちらさんたちのお陰で」

ベルフェルトの示す指先を追いながら、手短に説明を聞く。
一通り聞き終わると、ルナは頬に手を当てながら「それで」と切り出す。

「そのご令嬢と会う場所と日時はもう決まったんですか?」
「ああ。ラエラ嬢の父君が経営している商会の一室を借り、そこで話を聞くことになっている。アナベラ嬢は誰かに見つからないかと心配しているそうだからな、商会であればいくらでも理由をつけられるだろう?」
「確かに。いい案ですね。それでいつになりそうですか?」
「君にも来てもらおうと思っていてな。直近で、護衛任務の非番の日に当てた」

そう言われて頭の中で日付を確認したのだろう。
首を傾げて、考えて、「ん?」と言葉を漏らす。

途端、きゅっと眉を寄せた。

「・・・って、それ、明日じゃない!」
「ご名答。ああ、文句は言ってくれるなよ? 一週間後に結婚式を控えながらも、ああやって一心不乱に仕事に励む健気な二人がいるのだからな」
「ぐう・・・。リュークザインさまたちはそれでいいんですか」

せめてもの抵抗で、ルナフレイアがリュークに問いかける。

「・・・事の重大性を鑑みて、仕方あるまい」
「そうですわね。致し方ありませんわ」

最早、無の表情で仕事をこなす二人の姿を見せられては、ルナフレイアもこれ以上は何も言えず。
「わかりました・・・」と頷くしかなかった。
ベルフェルトは満足そうに頷くと、ルナフレイアの背後に黙って立っていた男にも声をかけた。

「見張りの人数が足りない。ファイ、お前も来てくれるか?」
「承知しました」

こちらは何の文句も言わずに粛々と要請を受け入れる。
対してルナフレイアは、久々の休暇の予定が崩れたとむくれまくりだ。

「もう、この深刻な人手不足、なんとかならないんですか? この機関の認知度をもっと高めましょうよ」
「気持ちは分かるが、頭数が揃えばいいというわけでもないからな。少数精鋭で頑張るしかないだろう?」

宥めるように頭をぽんぽんと撫でればとうとう諦めたようで、「その代わり」と口を開いた。

「明日は、本当は行きたいところがあったんです。任務の前か後で付き合ってくださいます?」
「何故オレと?」

訝し気な表情に、ルナが悪戯っぽい笑みを深める。

「休暇を潰されましたので、その腹いせですよ」

その返答にくすりと笑うと、ベルは肩を竦めながら「仕方ないな」と答えた。

「色っぽくない誘い文句だが、まあいいだろう。どこへでも付き合ってやる」
「ちなみに、変装しないで行きたいんですけど」
「・・・一体どこに行く気だ?」
「うふふ。別に怪しい所じゃないですよ。大好きな人に会いに行くんです」

嬉しそうに答えるルナフレイアに、ベルフェルトは少しばかり呆れ顔だ。

「好きな人に男連れで会いに行く気か? 修羅場は御免被るぞ」

その言葉の意図をすぐには呑み込めず、一瞬きょとんとした顔にり、それからぷっと吹き出した。

「ははっ、修羅場って。あの方ほど修羅場が似合わない人はいないと思うけど。・・・まあ、それは置いといて、誤解ですよ、ベルフェルトさま。私の好きな人ってそういう意味じゃありません」
「そういう意味じゃないのなら、どういう意味なんだ」
「ふふ、それは明日のお楽しみってことで」





そして、ここ、ブライトン邸に二人はやって来ていた。
意外と礼儀正しいルナフレイアは、昨日のうちに先ぶれを出してある。

さて、エレアーナは。
なんと、堂々のお姫様抱っこでの登場であった。

赤面するエレアーナに対し、真面目な表情で腕の中の妻を運ぶケインバッハ。
惚気のつもりはなく、至って真剣に妻を思い遣っているようだ。

「おおう・・・。相変わらず仲が良ろしいですね」

ここは敢えて突っ込まないベルフェルトとは違い、ルナフレイアは素直に感嘆の声を漏らす。

「申し訳ありません。ケインさまがわたくしの体調を心配しすぎてしまいまして」

ソファにそっと下ろされ、クッションを背中にあてがわれながら、エレアーナは少し恥ずかしそうに説明する。

「いいではないか。夫婦仲が良いのは喜ばしいことだ。尤も、独身男には少々目の毒ではあるがな」

出されたお茶に口をつけながら、ベルフェルトが軽口を叩く。

「ご懐妊、おめでとうございます。エレアーナさま。今日はどうしても直接お祝いが言いたくて来ちゃいました」
「ありがとうございます、ルナフレイアさま」

嬉しそうに微笑むエレアーナの隣で、妊娠の知らせで浮かれているのか普段より表情が豊かなケインバッハがベルフェルト向かって話しかけた。

「これから仕事なのだろう? 忙しいのに済まないな」

本当は休暇だったんですよ、と言いかけたルナフレイアをベルが制する。

「そういうお前はどうなんだ? 仕事はどうした、何故この時間に邸にいる?」
「いや、朝が一番、レアナの気分が優れないんだ。だから出仕の時間を遅らせている」
「ほう。それはそれは」

眼をきらりと輝かせたベルフェルトに気付き、ケインバッハは慌てて言葉を付け加えた。

「そ、その分、後に残って、ちゃんとその日の仕事を片づけてから帰宅しているぞ」
「ほう、そうか。まあ、オレは何も文句は言っていないのだが」
「・・・そうか。まあ、そうだな」
「まあ、職場で惚気られても周りに支障が出るだけだろうしな」

にやにやと笑みを浮かべながら話すベルフェルトの背中から、ばしいっと音がする。

「痛っ!」
「いくら独身で寂しいからって、揶揄っちゃ駄目でしょう。いいじゃないですか、奥さまに優しい旦那さま、最高ですよ。ね? エレアーナさま」
「ルナフレイア嬢。かなり、いや、もの凄く痛いぞ。・・・少しは手加減してくれないか」
「自業自得です。私が止めなかったら誰が止めるんです?」

背中に手を当てて痛がるベルフェルトを横目にルナフレイアがしれっと言い放つのを見て、正面に座っていたエレアーナとケインバッハが目を丸くして驚いた。

それから二人して楽しそうに笑い出して。

「ルナフレイアさまとベルフェルトさまは、随分と仲がよろしいんですのね」

などと言われてしまい、いえいえそんな筈は、と全力で否定したルナフレイアだった。
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