195 / 256
違和感
しおりを挟む
「式ももう間近だと言うのに、こうも仕事場に入り浸っていていいのか、お前たちは?」
自身の結婚式を一週間後に控えていながら、連日デサィファミスの執務室に籠もって仕事をするリュークザインに、ベルフェルトは呆れを通り越して感嘆まじりの声を上げた。
「問題ない」
「そうですわ。準備は万端、全て整っております」
こんな時まで息がぴったりのリュークとラエラは、ベルフェルトの心配を事もなげに却下する。
「そうは言ってもな、結婚式は一生に一度のものではないか。確かに任務は火急のものではあるが、式の前後くらいは少しくらい余裕を持っても・・・」
「そうも言っていられないようなのですわ」
そう言ったラエラは、酷く真面目な顔をしている。
「・・・何かあったのか?」
ラエラがリュークザインに視線を送り、リュークが頷く。
「先日の夜会、覚えているか?」
突然の話題転換にベルフェルトは片眉を上げるが、そのまま話の流れに乗って答えを返す。
「シュリエラが叩かれそうになった、あの夜会のことか?」
リュークはそれに頷くと、ラエラをちら、と見てから再び口を開いた。
「あの夜、ラエラに接触を図ってきた人物がいてな」
「ほう」
ベルフェルトが興味ありげに相槌を打つ。
「お前でもなく、オレでもなく、ラエラ嬢にか。して、それは?」
「アナベラ嬢だ」
その答えに、ベルフェルトは目を見開く。
「アナベラ・・・スカッチ伯爵令嬢か?」
「ああ」
「アナベラ嬢が何故君に? 彼女は何と言ってきたのだ?」
ベルフェルトの視線はラエラへと移る。
ラエラは少し思案してから、ベルフェルトを真っ直ぐに見つめた。
「そのご報告の前に、お話ししたい事があります。・・・ベルフェルトさま。わたくしと貴方さまが初めてお会いした夜会のことを覚えてらっしゃいますか?」
「? ああ。君がこいつと見合いをした頃のことだろう?」
話が見えない。
そう思ったが、ラエラの真剣な表情を見て、茶々を入れずに素直に答えた。
「ええ、そうですわ。あの時、化粧室でわたくしに絡んできたご令嬢方の顔を覚えてらして?」
「・・・あれは、三人だったか。確か・・・」
そこでベルフェルトはハッと目を瞠り、ラエラの顔を見る。
「そうですわ。その中にアナベラ・スカッチ伯爵令嬢がいらっしゃいました」
「ああ、・・・確かに」
「・・・前に、ベルフェルトさまが領主としてのお仕事で王城に来られた際、スカッチ伯爵に会われたと仰いましたでしょう? 娘と縁談を組みたかった、でももう関係ない、そう仰られたと」
ベルフェルトは無言で頷く。
「わたくし、その話を聞いて少し違和感がありましたの。ベルフェルトさまたちがお感じになったものとは別の違和感ですわ」
「・・・それは?」
「アナベラ嬢は、リュークさまと婚約したわたくしに嫉妬してデュールをかけようとされたのです。アナベラさまにとって縁談を組みたかった相手はリュークさまの筈ですわ。なのにスカッチ伯爵はそうではなかった」
アナベラが好きなのはベルフェルトではない、男のプライドを傷つけそうな指摘だが、もとよりカモフラージュで浮名を流しているベルにとっては、そんな事はどうでもいい。
寧ろ、対象外となるのは願ったり叶ったりだ。
「つまり、歴史あるライプニヒの血筋に当たる者と縁を結びたかった訳だな、スカッチ伯の方は。だが、それを何故、その時はまだ決まった相手のいなかったリュークにしなかったかと言うと」
ここで一旦、言葉を切り、それからゆっくりと確かめるように言葉を継ぐ。
「リュークはデサィファミスの統括責任者として名が知られているから・・・か」
「その通りです。対してベルフェルトさまは影に徹しておられる。暗部の統括として、リュークさまと同じ力と立場をお持ちですが、お名前は決して表には出てきません」
「探られて困るような何かを抱えている身としては、たとえ娘が願っていようと縁談は持っていけない。そういう事か」
「恐らくは」
アナベラにとっては全く以て気の毒な話だが。
もとより望みのない話だから仕方のないことなのだろう。
「ですが、そこまでして結びたかった縁も、今は違うと伯爵は仰った。・・・それは何故なのか、リュークさまもベルフェルトさまも推測なさいましたね」
「ああ」
「その事で確証が得られるかもしれません。アナベラさまがわたくしに伝えたい事があるそうです。正確に言えば、わたくしを通してリュークさまにお話ししたい事が。そのための場を設けて欲しいと」
悪い話ではない。
だが。
「罠では? もしくはリュークへの気持ちを打ち明けたいだけとか」
それに対してラエラは頭を振った。
「王国に関わる話だと仰いましたわ。人の目につかないような形で場を用意してくれ、とも」
「成程」
深く頷いたベルフェルトに向かって、リュークザインが疲れた表情を見せる。
「理解してもらえたかな? 私たちの一生に一度の結婚式が一週間前に迫っているというのに、ここでこうして仕事漬けになっている理由が」
幸せに浸りたい、なのにそれをしてしまう自分は許せない。
その複雑な表情に思わずぷっと吹き出して。
「真面目すぎる性格というのも難儀なものだな」
気の毒だとは思いながらも大笑いしてしまった。
自身の結婚式を一週間後に控えていながら、連日デサィファミスの執務室に籠もって仕事をするリュークザインに、ベルフェルトは呆れを通り越して感嘆まじりの声を上げた。
「問題ない」
「そうですわ。準備は万端、全て整っております」
こんな時まで息がぴったりのリュークとラエラは、ベルフェルトの心配を事もなげに却下する。
「そうは言ってもな、結婚式は一生に一度のものではないか。確かに任務は火急のものではあるが、式の前後くらいは少しくらい余裕を持っても・・・」
「そうも言っていられないようなのですわ」
そう言ったラエラは、酷く真面目な顔をしている。
「・・・何かあったのか?」
ラエラがリュークザインに視線を送り、リュークが頷く。
「先日の夜会、覚えているか?」
突然の話題転換にベルフェルトは片眉を上げるが、そのまま話の流れに乗って答えを返す。
「シュリエラが叩かれそうになった、あの夜会のことか?」
リュークはそれに頷くと、ラエラをちら、と見てから再び口を開いた。
「あの夜、ラエラに接触を図ってきた人物がいてな」
「ほう」
ベルフェルトが興味ありげに相槌を打つ。
「お前でもなく、オレでもなく、ラエラ嬢にか。して、それは?」
「アナベラ嬢だ」
その答えに、ベルフェルトは目を見開く。
「アナベラ・・・スカッチ伯爵令嬢か?」
「ああ」
「アナベラ嬢が何故君に? 彼女は何と言ってきたのだ?」
ベルフェルトの視線はラエラへと移る。
ラエラは少し思案してから、ベルフェルトを真っ直ぐに見つめた。
「そのご報告の前に、お話ししたい事があります。・・・ベルフェルトさま。わたくしと貴方さまが初めてお会いした夜会のことを覚えてらっしゃいますか?」
「? ああ。君がこいつと見合いをした頃のことだろう?」
話が見えない。
そう思ったが、ラエラの真剣な表情を見て、茶々を入れずに素直に答えた。
「ええ、そうですわ。あの時、化粧室でわたくしに絡んできたご令嬢方の顔を覚えてらして?」
「・・・あれは、三人だったか。確か・・・」
そこでベルフェルトはハッと目を瞠り、ラエラの顔を見る。
「そうですわ。その中にアナベラ・スカッチ伯爵令嬢がいらっしゃいました」
「ああ、・・・確かに」
「・・・前に、ベルフェルトさまが領主としてのお仕事で王城に来られた際、スカッチ伯爵に会われたと仰いましたでしょう? 娘と縁談を組みたかった、でももう関係ない、そう仰られたと」
ベルフェルトは無言で頷く。
「わたくし、その話を聞いて少し違和感がありましたの。ベルフェルトさまたちがお感じになったものとは別の違和感ですわ」
「・・・それは?」
「アナベラ嬢は、リュークさまと婚約したわたくしに嫉妬してデュールをかけようとされたのです。アナベラさまにとって縁談を組みたかった相手はリュークさまの筈ですわ。なのにスカッチ伯爵はそうではなかった」
アナベラが好きなのはベルフェルトではない、男のプライドを傷つけそうな指摘だが、もとよりカモフラージュで浮名を流しているベルにとっては、そんな事はどうでもいい。
寧ろ、対象外となるのは願ったり叶ったりだ。
「つまり、歴史あるライプニヒの血筋に当たる者と縁を結びたかった訳だな、スカッチ伯の方は。だが、それを何故、その時はまだ決まった相手のいなかったリュークにしなかったかと言うと」
ここで一旦、言葉を切り、それからゆっくりと確かめるように言葉を継ぐ。
「リュークはデサィファミスの統括責任者として名が知られているから・・・か」
「その通りです。対してベルフェルトさまは影に徹しておられる。暗部の統括として、リュークさまと同じ力と立場をお持ちですが、お名前は決して表には出てきません」
「探られて困るような何かを抱えている身としては、たとえ娘が願っていようと縁談は持っていけない。そういう事か」
「恐らくは」
アナベラにとっては全く以て気の毒な話だが。
もとより望みのない話だから仕方のないことなのだろう。
「ですが、そこまでして結びたかった縁も、今は違うと伯爵は仰った。・・・それは何故なのか、リュークさまもベルフェルトさまも推測なさいましたね」
「ああ」
「その事で確証が得られるかもしれません。アナベラさまがわたくしに伝えたい事があるそうです。正確に言えば、わたくしを通してリュークさまにお話ししたい事が。そのための場を設けて欲しいと」
悪い話ではない。
だが。
「罠では? もしくはリュークへの気持ちを打ち明けたいだけとか」
それに対してラエラは頭を振った。
「王国に関わる話だと仰いましたわ。人の目につかないような形で場を用意してくれ、とも」
「成程」
深く頷いたベルフェルトに向かって、リュークザインが疲れた表情を見せる。
「理解してもらえたかな? 私たちの一生に一度の結婚式が一週間前に迫っているというのに、ここでこうして仕事漬けになっている理由が」
幸せに浸りたい、なのにそれをしてしまう自分は許せない。
その複雑な表情に思わずぷっと吹き出して。
「真面目すぎる性格というのも難儀なものだな」
気の毒だとは思いながらも大笑いしてしまった。
28
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる