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始まりは些細な変化から
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きっかけは小さな事だった。
カトリアナを馬車で邸まで送り届けたルナフレイアが、報告のために再び王城に戻った時だった。
今日も何事もなく終わりそう。
後は報告書をささっと書いて・・・。
なんて考えながら、回廊を歩いていた時だ。
騎士寮から出てきたどこか見覚えのある人影に気付き視線を走らせると、あちらも同じくルナフレイアを見ている。
「あれ? ルナ?」
「マイセン!」
王城にいる時は、基本、変装した侍女姿だが、行き帰りの護衛はルナフレイアとして行なっている。
今は本物の姿の方だから、マイセンも気付いたのだろう。
「なになに? ズボンに剣まで下げて。格好いいね!」
「マイセンこそ。騎士姿が板について・・・。あれ?」
数か月ぶりに再会し互いに笑い合うも、マイセンの服装にどこか違和感を感じてまじまじと見つめる。
「あー、やっぱり分かっちゃう?」
「マイセン、正式に騎士になったんじゃなかったっけ?」
「うん、そうなんだけどね。・・・実はさ」
候補生の立場を表す、少しだけデザインの異なった騎士服を着ているマイセンがしょんぼりと事の経緯を説明する。
洗濯に出したら、紛失したのか一着手元に返ってこなかったのだと。
「最初に支給された騎士服は三着でさ。まあ、二着あれば、上手く回して何とかなるかな、なんて思ったんだけど。今朝の鍛錬で酷く汚しちゃって、着替えて来いって・・・隊長に言われちゃったから」
もう見習いじゃないのにな、と、とても残念そうに呟いて。
まぁ、その気持ちはなんとなく分かる。
正式な騎士なのに、見習いの服は着たくないよね。
「紛失は報告したの?」
「部隊長には言ってある。他所に紛れ込んじゃうのは偶にあるらしいから、二、三日待ってみて、それでも戻って来なかったら正式に報告しようと思って」
「そう。見つかるといいわね」
「うん。他の制服とかお仕着せとかと混ざっちゃってたら、戻って来るまでに少し時間がかかるかもしれないけどさ」
「ふふ。じゃあ、まだ少しだけ見習い服で辛抱しないとね」
そう言って笑いあった。
久しぶりに会えて嬉しい。
その時に思ったのは、それだけ。
これが小さな綻びだって、その時はまだ気付いていなかったから。
「・・・新人騎士の服が?」
本日の報告書を提出しに長官の執務室に行った時、ルナフレイアはついでのつもりでマイセンの騎士服の話をしたのだが、リュークザインはそこに喰いついた。
「その新人騎士に後で確認を取ってくれるか? 騎士服が戻ってきたかどうかと戻るまでの期間、あと他に同様の現象が起きている騎士がいるかどうかを」
「わかりました。偶に他所に紛れ込むことがあるらしい、とは言ってましたけど」
「前の時は、実際にそうだったがな。今は時期が時期だ。何でも疑ってかからないと」
新婚一か月目だというのに、リュークザインの纏う空気に甘く浮かれたところは全くない。
それは傍で秘書として彼を支えるラエラも同じだ。
本当、お似合いの二人よね。
知的で、冷静で、腕が立って、芯が強い。
互いを信頼し合っているのがよく分かる。
いいなあ。私もいつかそんな夫婦になりた・・・って、待ちなさい。
馬鹿な妄想して時間を無駄にしちゃ駄目。
王都にいられる時間はもうあと五か月を切ってるんだから。
前向きに、現実的に、やれることを頑張って、与えられた任務をこなして。
・・・せめて少しでも好きな人の役に立って。
うん。そうよ。
ベルフェルトさまの役に立ってから。
そうしたら胸を張って領地に戻れる気がする。
そのためにも、カトリアナさまをきちんとお守りしなきゃ。
まだまだ油断は出来ないんだから。
帰り支度をしながら、ルナフレイアは溜息を吐いた。
・・・あの襲撃犯たちから、何か情報が掴めればよかったんだけどね。
ルナフレイアとマスカルバーノ侯爵家の護衛とで捕獲した襲撃犯五人は、尋問二日目の朝には全員が自殺していた。
簡単に事は進まないだろうと覚悟してはいたものの、多少の情報は得られるかという期待もあったため、レオンハルトなどは分かりやすくガッカリしていた。
そして騎士服の紛失についても、その後マイセンからあっさりと報告が来た。
三日後には無事に戻ってきた、と。
その言葉に安堵したルナフレイアだったが、その後に続いたマイセンの話に、頭の中で警報が鳴った。
---今は時期が時期だ。何でも疑ってかからないと---
リュークザインの声が頭に響く。
・・・これは報告案件ね。
教えてくれたマイセンに感謝しつつ、すぐに長官室に向かう。
「リュークザインさま。騎士服の件ですが」
「・・・どうした?」
その場には、珍しくベルフェルトも来ていた。
「騎士服?」
訝し気に問い返したベルフェルトに、リュークザインが経緯を簡潔に説明する。
「・・・ほう。そんな事が」
興味深げに頷いたベルフェルトの傍で、リュークザインがルナフレイアに目を向ける。
「それで、その後の報告とは?」
「はい」
ルナフレイアは一旦言葉を切り、息を深く吸いこんだ。
「マイセンが騎士服を紛失したのと同時期に、同じく騎士服が戻って来なかった騎士が他に六人ほどいたそうです。そして、そのうちの三人が未だ紛失したままだと」
「・・・そうか」
ルナフレイアの想像通り、リュークザインとベルフェルトは、息を合わせたかのように揃って溜息を吐いた。
カトリアナを馬車で邸まで送り届けたルナフレイアが、報告のために再び王城に戻った時だった。
今日も何事もなく終わりそう。
後は報告書をささっと書いて・・・。
なんて考えながら、回廊を歩いていた時だ。
騎士寮から出てきたどこか見覚えのある人影に気付き視線を走らせると、あちらも同じくルナフレイアを見ている。
「あれ? ルナ?」
「マイセン!」
王城にいる時は、基本、変装した侍女姿だが、行き帰りの護衛はルナフレイアとして行なっている。
今は本物の姿の方だから、マイセンも気付いたのだろう。
「なになに? ズボンに剣まで下げて。格好いいね!」
「マイセンこそ。騎士姿が板について・・・。あれ?」
数か月ぶりに再会し互いに笑い合うも、マイセンの服装にどこか違和感を感じてまじまじと見つめる。
「あー、やっぱり分かっちゃう?」
「マイセン、正式に騎士になったんじゃなかったっけ?」
「うん、そうなんだけどね。・・・実はさ」
候補生の立場を表す、少しだけデザインの異なった騎士服を着ているマイセンがしょんぼりと事の経緯を説明する。
洗濯に出したら、紛失したのか一着手元に返ってこなかったのだと。
「最初に支給された騎士服は三着でさ。まあ、二着あれば、上手く回して何とかなるかな、なんて思ったんだけど。今朝の鍛錬で酷く汚しちゃって、着替えて来いって・・・隊長に言われちゃったから」
もう見習いじゃないのにな、と、とても残念そうに呟いて。
まぁ、その気持ちはなんとなく分かる。
正式な騎士なのに、見習いの服は着たくないよね。
「紛失は報告したの?」
「部隊長には言ってある。他所に紛れ込んじゃうのは偶にあるらしいから、二、三日待ってみて、それでも戻って来なかったら正式に報告しようと思って」
「そう。見つかるといいわね」
「うん。他の制服とかお仕着せとかと混ざっちゃってたら、戻って来るまでに少し時間がかかるかもしれないけどさ」
「ふふ。じゃあ、まだ少しだけ見習い服で辛抱しないとね」
そう言って笑いあった。
久しぶりに会えて嬉しい。
その時に思ったのは、それだけ。
これが小さな綻びだって、その時はまだ気付いていなかったから。
「・・・新人騎士の服が?」
本日の報告書を提出しに長官の執務室に行った時、ルナフレイアはついでのつもりでマイセンの騎士服の話をしたのだが、リュークザインはそこに喰いついた。
「その新人騎士に後で確認を取ってくれるか? 騎士服が戻ってきたかどうかと戻るまでの期間、あと他に同様の現象が起きている騎士がいるかどうかを」
「わかりました。偶に他所に紛れ込むことがあるらしい、とは言ってましたけど」
「前の時は、実際にそうだったがな。今は時期が時期だ。何でも疑ってかからないと」
新婚一か月目だというのに、リュークザインの纏う空気に甘く浮かれたところは全くない。
それは傍で秘書として彼を支えるラエラも同じだ。
本当、お似合いの二人よね。
知的で、冷静で、腕が立って、芯が強い。
互いを信頼し合っているのがよく分かる。
いいなあ。私もいつかそんな夫婦になりた・・・って、待ちなさい。
馬鹿な妄想して時間を無駄にしちゃ駄目。
王都にいられる時間はもうあと五か月を切ってるんだから。
前向きに、現実的に、やれることを頑張って、与えられた任務をこなして。
・・・せめて少しでも好きな人の役に立って。
うん。そうよ。
ベルフェルトさまの役に立ってから。
そうしたら胸を張って領地に戻れる気がする。
そのためにも、カトリアナさまをきちんとお守りしなきゃ。
まだまだ油断は出来ないんだから。
帰り支度をしながら、ルナフレイアは溜息を吐いた。
・・・あの襲撃犯たちから、何か情報が掴めればよかったんだけどね。
ルナフレイアとマスカルバーノ侯爵家の護衛とで捕獲した襲撃犯五人は、尋問二日目の朝には全員が自殺していた。
簡単に事は進まないだろうと覚悟してはいたものの、多少の情報は得られるかという期待もあったため、レオンハルトなどは分かりやすくガッカリしていた。
そして騎士服の紛失についても、その後マイセンからあっさりと報告が来た。
三日後には無事に戻ってきた、と。
その言葉に安堵したルナフレイアだったが、その後に続いたマイセンの話に、頭の中で警報が鳴った。
---今は時期が時期だ。何でも疑ってかからないと---
リュークザインの声が頭に響く。
・・・これは報告案件ね。
教えてくれたマイセンに感謝しつつ、すぐに長官室に向かう。
「リュークザインさま。騎士服の件ですが」
「・・・どうした?」
その場には、珍しくベルフェルトも来ていた。
「騎士服?」
訝し気に問い返したベルフェルトに、リュークザインが経緯を簡潔に説明する。
「・・・ほう。そんな事が」
興味深げに頷いたベルフェルトの傍で、リュークザインがルナフレイアに目を向ける。
「それで、その後の報告とは?」
「はい」
ルナフレイアは一旦言葉を切り、息を深く吸いこんだ。
「マイセンが騎士服を紛失したのと同時期に、同じく騎士服が戻って来なかった騎士が他に六人ほどいたそうです。そして、そのうちの三人が未だ紛失したままだと」
「・・・そうか」
ルナフレイアの想像通り、リュークザインとベルフェルトは、息を合わせたかのように揃って溜息を吐いた。
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