【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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表情

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「恐らく相手方は、こちらが警戒を強めていることに気付いているだろうな」

リュークザインがぽつりと言った。

「まあ、馬車を襲撃した時に予定外の護衛まで配置されていたのだから、そう勘繰られても仕方ないだろう」

お茶を口にしながらベルが答える。

「警戒をしていると知りつつ仕掛けてくるとなると・・・」
「そうだな。我々が対応しきれないように仕組んでくるのだろう」

ベルフェルトは気怠げに前髪をかき上げた。

「・・・同時期に狙ってくるか」
「多分な」

表情に疲れが浮かぶ親友に、ベルはふ、と口元を緩ませる。

「新婚生活の余韻も楽しませて貰えないとは、お前も不憫な男だな」
「・・・せめて本気で言え」
「はは、悪かった。まぁ、さっさと終わらせてお前の甘い新婚生活の時間を確保してやらねばな。あと、殿下の心の平安もだ」
「ああ、せいぜい頑張るとしよう」
「それでだ。リューク、お前、これをどう見る?」

すいっと昨日上がってきた報告書を見せ、そのある部分を指で示す。

「む? これは・・・」



・・・ふふ、いつものやり取りが始まったわ。

そんなことを考えながら、ラエラはお茶を淹れて自分の席に座った。

こういう時、ラエラは空気に徹することにしている。
この二人の気のおけないやり取りが、見ているだけで心地良くて。
なんだかんだと仲が良くて、正反対な性格のようでピッタリと嵌っていて。

リュークさまに、親友のこの方がいて下さって良かった。

心からそう思う。

一見冷たそうな印象のせいなのか、同じ貴族令息たちからも少し距離を置かれがちな夫を思い、心からそう思って安堵する。

騙されるとか、言葉の裏を取られるとか、陥れられるとか、そんな事を一瞬たりとて心配する必要のない相手。
何があっても、必ず助け、また助けられると信じられる相手。

そんな揺るがない信頼の絆を見る度に、しみじみと思うのだ。
有難い存在だ、と。

そしてまた同時に、何の根拠も理論もない、くだらない嫉妬心のようなものも自分の中にあることを認めざるを得なくて。

本当に、ベルフェルトさまが男の方でよかった、と。
そうでなかったら、きっと私の出番なんて一生回って来なかった。
もしかすると一生、独身のまま片想いで終わっていたのかも、なんて。

・・・嫌だわ。私とした事が。
有りもしない想像をして勝手にへこむなんて。

自分に呆れながらお茶に口をつける。

すると、ふと、向こうで棚の書類を整理していた筈のルナフレイアが、やはり二人の空気を楽しんで眺めている事に気づいた。

ルナフレイアは、ラエラにとって今や貴重な友人だ。
しかも、ラエラを除けば、ここデサイファミスで唯一の女性職員でもある。且つ有能だ。

今回の騎士服紛失の件もその一つだけど。
彼女の働きや掴んでくる情報は、両手で数えても足りないくらい重要なものが多くて。

・・・あと五か月もしないうちに領地に戻ってしまわれるなんて。

本当に残念だわ。

領主代行をしておられるお姉さまの補佐をしなければならないと仰っていたけれど。

なんとか引き留める方法はないのかしら。
・・・彼もそう思っている筈、よね。

そんな事を考えながら、ちら、とベルフェルトを盗み見た。

あの方は気づいてらっしゃるのかしら。
ご自分がどんな表情でリュークさまとお話してらっしゃるか。
どれだけ寛いだお顔をなさってらっしゃるか。

妻である私が、もしベルフェルトさまが女性であったら、とありもしない想像をして心が乱れるくらいに夫の信頼を勝ち得ている貴方が、どれほど安心しきった表情をしてらっしゃるか。

そして。
それと同じ表情を、何故かルナフレイアさまの前でもなさっているという事を。

ベルフェルトさま。
貴方はご存知でらっしゃるのかしら。
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