【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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幼い思い出

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騎士団長の執務室を出た後、ライナスはいつもより少しだけのろい歩みで寮まで戻った。
そして自室の扉を背後で閉めると、大きく息を吐き、そのままずるずると座り込んだ。

・・・言っちゃったよ。

アリスティシアと勝負するって。
勝って、オレの嫁さんになってもらうって。

目を瞑り、ここ数年ずっと会うこともなかった初恋の人の姿を思い浮かべる。

少しくせ毛のハニーブラウンの髪。ロッテングルム家特有の赤い瞳。
オレより一つ年上で、剣を繰り出すスピードは超速で。

しかも双剣使いだったんだよな、あいつ。

凄まじい速さで自在に振られる二本の剣の威力はそれはもう凄くて。
格好よかった。

そう頻繁には領地に戻れなかったけど、会えばいつも見惚れてた。

・・・今はもう、見れないけど。
隻腕になっても、誰も敵わないってどんだけの強さだよ。

「・・・なんでアリスなんだろう」

あの時からずっと考えてた。

なんで、どうして、って聞きわけのない子どもみたいに。

なんでアリスは、規格外に強いんだ。
なんでアリスは、本家に生まれなかったんだ。
なんでアリスは、女なんだ。

・・・なんでアリスは、腕を失ったんだ。
なんでオレじゃなくて、アリスが。

ライナスは、扉の前に座り込んだまま、両手で目を覆った。

「好きな女に助けてもらった挙句、怪我を負わせて、おまけにフラれるって、格好悪すぎだろ・・・」

だから逃げた。
だから必死で強くなった。

流石はロッテングルム。
カーン騎士団長の息子よ、と褒め称えられても、なにも響かなかった。

確かに王都に限れば、オレは若手で一番かもしれない。

でもオレは知ってるから。
辺境伯領を守る者として、オレなんかよりも相応しいヤツがいる事を知ってたから。
命より大事な剣を振るう手を失っても、誰かを守る大切さを忘れなかったヤツを知ってるから。

「半端な強さで守れる気になって告白して・・・フラれるのも当たり前だっつーの」

くしゃりと前髪を掴んだ。

いっそ忘れようと思ってたけど。
もう一生、独りでいいかな、なんて。
そうやって忘れて、このぼんやりとした世界で強がっていたかったけど。

だけど、今度こそ。

「・・・絶対、負けない」

オレも、お前を守れるってこと、教えてやる。

「叩きのめして、領主代行権を奪い取って、そんであいつを嫁にする」

最早ロッテングルムの人間にしか通じないような謎の文句を吐きながら、現任務終了後に領地に帰って対決する日に思いをはせた。



「よし・・・っ」

気持ちを切り替えたライナスは、時刻を確かめると、ゆっくりと立ち上がった。

やることが決まれば、あとは前進あるのみ。
長くずっと停滞していた思考が、漸く動くようになった今、ライナスの心は晴れやかだった。

仮眠を取ってから食堂に下り、食事を勢いよくかき込むと、身体を拭いて騎士服を取り替える。

それから軽く体をほぐし、今夜の任務へと再び王城内に入った。

レオンハルトの私室の扉前に立ち、護衛に就く。

通常であれば、このまま朝方まで警護して終わりだ。

だが、今夜はそうはならなかった。

夜も更けて、じきに明け方になろうという頃。
王城の執務棟に何者かが侵入した、という連絡が入る。

普通であれば人気が全くなくなるこの場所、しかも複数箇所に同時に押し入った者たちがいたという。

夜半にも関わらず騎士たちの駆ける足音が城内に響く中、ライナスはじっとレオンハルトの寝室の前での護衛を続ける。

外での喧騒に気づいたのだろうか、室内で動く気配がしたかと思うと、やがてレオンハルトが扉から顔を出した。

「何かあったのかい?」
「物盗りのようです。居住棟ではなく、執務棟の方に」
「そうか。・・・僕もいつでも動けるように着替えておくから、何かあったら報告して」
「はい」

だが、その後も侵入者を捕らえたという知らせはないまま翌朝になってから仔細を聞くことになる。

いくつかの部屋に侵入した形跡があり、書棚が荒らされていた、と。
そして、荒らされた形跡を調べてみると、狙いは地図ではないか、とのことだった。

「地図・・・?」
「ええ。王城敷地全域の地図、それが狙いだったと思われます」

首を傾げるレオンハルトに、リュークザインが重々しく答える。

「王城の敷地内全域の構造を知りたかったって事かい?」

王族用の居住棟など、立ち入り禁止の場所もあるが、基本、人の出入りは自由に出来るところがほとんどだ。
何故今さら地図など、という疑問は自然と浮かぶのだろう。・・・もしベイベル側の目的を知らなければ。

「恐らくは、シャガーン宮内の見取り図を手に入れたかったのではないか、と」
「・・・シャガーン宮か、成程ね」

深く頷くレオンの横で、シュタインゼンがしみじみと呟いた。

「いよいよ賢者くずれがいる場所を正確に割り出そうとしている、と。つまりそういう事ですな」

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