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いい加減、前に
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「アリスティシア・・・か。どうした、突然」
嫌味などではなく、率直に分からないという表情を浮かべてカーンは問うた。
「今の今まで、話題にするのも避けてたくせに」
「・・・オレも、いい加減前を向こうかと、そう思って」
「ふうん」
そう言うなり、カーンは椅子の背もたれに背を預けた。
「・・・で? 前を向くって、どうやってだ? 好きな女でも出来たか? ロッテングルム領に戻ってくるとでも言うのか? それとも、漸くアリスティシアから領主代行権を奪う気になったか?」
「・・・殿下の婚姻の儀が無事に終わってからの話だけど」
少し小声で、まだあまり自信はなさそうで。
それでも、しっかりと父親の目を見つめながらライナスバージは言った。
「アリスティシアと勝負するよ」
カーンは驚きで、目を丸くした。
「・・・本気か? ライ」
「ああ」
暫く息子の顔をしげしげと見つめ、どうやら本気で言っているらしいと理解したカーンは、机の上で両手を組むと、元からあまり良いとは言えない目つきを更に鋭く光らせた。
「お前なら、アリスティシアに勝てるだろう。・・・そうなれば領主代行権はお前のものになる。だが、分かっているのか? 三男とはいえ、直系で男子でもあるお前が領主代行権を手に入れるという事は、正式にロッテングルム家の後継者となる事を意味するんだぞ?」
「分かってる」
即答で返され、カーンは一瞬、虚を突かれた表情を浮かべるも、すぐに苦笑を漏らした。
「・・・ああ、そうだな。お前はよく分かってる。だからこそ、今までこうして逃げ回っていたんだもんな」
「それは・・・悪かったよ」
「ああ、まったくだ。家門の人間でアリスティシアに勝てる奴などお前くらいしかいないってのに、こうも何年も逃げ回られちゃあな。・・・俺たちは、本気であいつが跡継ぎになるかと思ってたんだぞ。アリスは結婚しないだろうから、こりゃ養子をもらうしかないかって話まで出てたんだ」
「・・・」
先程まで処理していた書類の束をまとめて机の隅に置くと、カーンは再び椅子の背に体を預けた。
「ライ」
「・・・ん?」
「分かっていると思うが、後継者になるという事は、妻を迎えるという事でもあるんだぞ? その覚悟も出来たのか?」
「・・・ああ」
「・・・そうか」
喜ばしい話である筈なのに、何故かカーンの表情は複雑だ。
顎に手を当て、少し思案する様子を見せる。
「お前が望むなら、年頃の令嬢を探してやってもいいが・・・」
「いらない。結婚したい相手は、もう決まってるから」
「ほう」
驚いたカーンが、背もたれから体を起こした。
その口元は、軽い驚きと喜びとで少しばかり緩んでいる。
「それは初耳だ。一体どこのご令嬢だ? もう付き合ってたりするのか? 剣の腕は・・・いや、それはこの際、どうでもいい。お前が気に入ったという娘ならば・・・」
「心配ないよ。そいつの剣の腕は最強。たぶん同年代では、俺以外の人間は勝てないと思う。ついでに気の強さも最高レベルだけど」
上機嫌で息子の見合い相手の条件を考え始めたカーンの言葉を、ライナスは遠慮なく遮った。
「・・・おい」
「ピッタリの嫁だろ?」
「おい、ちょっと待て」
「オレは、そいつとしか結婚しないつもりだから」
「ライ、だがお前は・・・」
「嫌だって断られたら、養子を迎えればいい」
父親の言葉に耳を傾ける気のないライナスに、カーンは慌てたように声を上げる。
「お前、まさか、アリスティシアと結婚する気か? あいつは隻腕になっちまったんだぞ? それに・・・それにお前、もうフラれてるだろうが!」
「・・・もう一回告白する。駄目だったら、また申し込めばいい。・・・受けてくれるまで何回でも」
「ライ・・・!」
「だって!」
なんとか宥めようと椅子から立ち上がった父に、ライナスは子どものようにくしゃりと顔を歪めた。
「もう十年、十年近く経つけど、やっぱり忘れられない。オレはアリスが好きなんだ」
「・・・」
「あいつみたいになりたくて、あいつより強くなりたくて、ずっと、ずっと頑張ってた。・・・今度はオレがあいつを守れるようにって」
「ライ・・・」
言葉を選ぼうと考えあぐねている父親に、ライナスはふ、と笑いかけた。
何だか少し悔しそうにも見える。
「また・・・フラれるかも、だけどさ」
「・・・」
「でも、フラれてもいいよ。とにかくオレは、領主代行権を賭けてあいつと勝負する。・・・そして、晴れて後継者に決まったら、命がけで口説くから」
カーンは、どさりと再び椅子に倒れ込む。
「これじゃアリスが権利を持ってたって同じじゃないか」と力なく呟きながら。
「ゴメン、親父。でもオレ、全力で勝ってみせるから」
ライナスバージは申し訳なさそうに謝った。
「アリスが安心してオレのとこに嫁に来れるように、圧勝してみせるから」
・・・そういう方法で嫁って来るものなのか? とカーンは呟いたけれど、その声は小さすぎて、ライナスの耳には届いてはいなかった。
嫌味などではなく、率直に分からないという表情を浮かべてカーンは問うた。
「今の今まで、話題にするのも避けてたくせに」
「・・・オレも、いい加減前を向こうかと、そう思って」
「ふうん」
そう言うなり、カーンは椅子の背もたれに背を預けた。
「・・・で? 前を向くって、どうやってだ? 好きな女でも出来たか? ロッテングルム領に戻ってくるとでも言うのか? それとも、漸くアリスティシアから領主代行権を奪う気になったか?」
「・・・殿下の婚姻の儀が無事に終わってからの話だけど」
少し小声で、まだあまり自信はなさそうで。
それでも、しっかりと父親の目を見つめながらライナスバージは言った。
「アリスティシアと勝負するよ」
カーンは驚きで、目を丸くした。
「・・・本気か? ライ」
「ああ」
暫く息子の顔をしげしげと見つめ、どうやら本気で言っているらしいと理解したカーンは、机の上で両手を組むと、元からあまり良いとは言えない目つきを更に鋭く光らせた。
「お前なら、アリスティシアに勝てるだろう。・・・そうなれば領主代行権はお前のものになる。だが、分かっているのか? 三男とはいえ、直系で男子でもあるお前が領主代行権を手に入れるという事は、正式にロッテングルム家の後継者となる事を意味するんだぞ?」
「分かってる」
即答で返され、カーンは一瞬、虚を突かれた表情を浮かべるも、すぐに苦笑を漏らした。
「・・・ああ、そうだな。お前はよく分かってる。だからこそ、今までこうして逃げ回っていたんだもんな」
「それは・・・悪かったよ」
「ああ、まったくだ。家門の人間でアリスティシアに勝てる奴などお前くらいしかいないってのに、こうも何年も逃げ回られちゃあな。・・・俺たちは、本気であいつが跡継ぎになるかと思ってたんだぞ。アリスは結婚しないだろうから、こりゃ養子をもらうしかないかって話まで出てたんだ」
「・・・」
先程まで処理していた書類の束をまとめて机の隅に置くと、カーンは再び椅子の背に体を預けた。
「ライ」
「・・・ん?」
「分かっていると思うが、後継者になるという事は、妻を迎えるという事でもあるんだぞ? その覚悟も出来たのか?」
「・・・ああ」
「・・・そうか」
喜ばしい話である筈なのに、何故かカーンの表情は複雑だ。
顎に手を当て、少し思案する様子を見せる。
「お前が望むなら、年頃の令嬢を探してやってもいいが・・・」
「いらない。結婚したい相手は、もう決まってるから」
「ほう」
驚いたカーンが、背もたれから体を起こした。
その口元は、軽い驚きと喜びとで少しばかり緩んでいる。
「それは初耳だ。一体どこのご令嬢だ? もう付き合ってたりするのか? 剣の腕は・・・いや、それはこの際、どうでもいい。お前が気に入ったという娘ならば・・・」
「心配ないよ。そいつの剣の腕は最強。たぶん同年代では、俺以外の人間は勝てないと思う。ついでに気の強さも最高レベルだけど」
上機嫌で息子の見合い相手の条件を考え始めたカーンの言葉を、ライナスは遠慮なく遮った。
「・・・おい」
「ピッタリの嫁だろ?」
「おい、ちょっと待て」
「オレは、そいつとしか結婚しないつもりだから」
「ライ、だがお前は・・・」
「嫌だって断られたら、養子を迎えればいい」
父親の言葉に耳を傾ける気のないライナスに、カーンは慌てたように声を上げる。
「お前、まさか、アリスティシアと結婚する気か? あいつは隻腕になっちまったんだぞ? それに・・・それにお前、もうフラれてるだろうが!」
「・・・もう一回告白する。駄目だったら、また申し込めばいい。・・・受けてくれるまで何回でも」
「ライ・・・!」
「だって!」
なんとか宥めようと椅子から立ち上がった父に、ライナスは子どものようにくしゃりと顔を歪めた。
「もう十年、十年近く経つけど、やっぱり忘れられない。オレはアリスが好きなんだ」
「・・・」
「あいつみたいになりたくて、あいつより強くなりたくて、ずっと、ずっと頑張ってた。・・・今度はオレがあいつを守れるようにって」
「ライ・・・」
言葉を選ぼうと考えあぐねている父親に、ライナスはふ、と笑いかけた。
何だか少し悔しそうにも見える。
「また・・・フラれるかも、だけどさ」
「・・・」
「でも、フラれてもいいよ。とにかくオレは、領主代行権を賭けてあいつと勝負する。・・・そして、晴れて後継者に決まったら、命がけで口説くから」
カーンは、どさりと再び椅子に倒れ込む。
「これじゃアリスが権利を持ってたって同じじゃないか」と力なく呟きながら。
「ゴメン、親父。でもオレ、全力で勝ってみせるから」
ライナスバージは申し訳なさそうに謝った。
「アリスが安心してオレのとこに嫁に来れるように、圧勝してみせるから」
・・・そういう方法で嫁って来るものなのか? とカーンは呟いたけれど、その声は小さすぎて、ライナスの耳には届いてはいなかった。
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