【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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その後のエピソード 2 その花を選んだのは

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「ところで、どうしてあの花を選んだんだい?」


眠る前のひととき、レオンハルトはベッドに潜り込んだ息子たちの傍に腰掛け、優しい声でそう尋ねた。

昼間の出来事を急に蒸し返された双子たちは、さっと頬を赤く染める。

そんな息子たちを、レオンハルトは眼を細めながら見つめていた。






子どもたちを護衛騎士や侍女たちと共に中庭に送り出した後、レオンとカトリアナは、信頼する友であるケインバッハやエレアーナと久しぶりにゆっくり楽しく語らっていた。


そこにバタバタと、双子たちに付けた筈の護衛騎士の一人が慌ただしく王太子夫妻の私室に駆け込んで来る。


談笑していたレオンたちは一瞬、何事だと怪訝な表情を浮かべた。


そして、数分後。

事情を聞いた父親二人は、揃って我が子たちを迎えに中庭へと向かっていた。


回廊を進んで行くと、中庭へと繋がる扉付近でヨロヨロとふらつきながら進むライオネルの姿が見えた。

その隣には、何故か両手に花を一輪ずつ持っているフリードリヒが。


その後ろを、手を繋いでトコトコと歩いているのはイザークとアレクサンドラだった。


彼らの後ろからは、心配そうな顔で見守る護衛騎士と侍女たちの姿が見える。


そして、ミレイナリエはと言えば、恥ずかしそうにライオネルにおぶさっていたのだ。


七か月だけの差とはいえ、ミレイナリエはライオネルよりも年上だ。


しかもこの年齢では体力に男女差がある筈もない。いや寧ろ、この年で一、二か月の差はかなり大きいだろう。


だから、未だ足元がふらつくミレイナリエをおぶって運ぶとライオネルが言い出した時も、彼女はちゃんと辞退したのだ。


勿論、護衛騎士も侍女も同じく止めた。


だが、ライオネルとフリードリヒは、ならば自分が運ぶと申し出た護衛騎士の意見を却下した。

同じく侍女の申し出も。


そうして結局、ライオネルがミレイナリエをおぶって歩き始めたのだが、当然と言えば当然の結果、数歩フラつきながら進んでは止まり、息を整えてはまた進むということになり。

カーテシーを続けていた時のミレイナリエのプルプルぶりなど可愛らしいと思えるほど、ライオネルの腕と脚は震えていた。


自分で歩くから、とミレイナリエが言ってもライオネルは譲らない。

何故かフリードリヒまでもが、ライオネルが無理ならば僕が、とおんぶを立候補する始末だ。


結果、カタツムリのようなスピードで進む彼らを慮って、一人の騎士がレオンの元へ知らせに走った訳である。


そうしてレオンとケインが駆けつけてみれば、ライオネルは汗だくになりながらも必死にミレイナリエを背負って歩いていた。


そんな息子の必死な姿に、レオンハルトは苦笑いを隠せない。


ライオネルたちも近づく人影に気がついた。


「父上・・・」


額に汗を滲ませながら視線を上げる。


「一生懸命にお姫さまを守ろうとしたのは偉いと思うけれどね、父親が迎えに来てくれた事だし、任せた方がいいんじゃないかな?」


にっこりと笑みを浮かべてはいるが、ここで引きなさい、という無言の圧は十分に双子にも伝わったようだ。


小さな声で、はいと頷く二人を前に、ケインバッハは一歩前に進み出る。

そして膝をついて双子たちと目線を合わせた。


「ライオネル殿下、フリードリヒ殿下。娘を守ろうとして下さったのですね。ありがとうございました」
「「・・・」」
「お気遣いは十分に頂きました。ここからは私が運びましょう」


ケインバッハはライオネルの後ろに回ると、いとも容易くミレイナリエを抱き上げた。


ミレイナリエは、安心したように腕をケインの首に絡ませ、きゅっと抱きつく。


「足が痛いんだってね。このままお母さまのところに戻ろうか」
「・・・はい」


いとも軽々とミレイナリエを抱き上げたケインを、ライオネルたちは眩しそうに、そして少し悔しそうに見上げる。


「・・・あ、そうですわ。お花を」
「花?」


ミレイナリエは、思い出したようにフリードリヒの方を見る。


「お花をいただいたのです、お父さま。第一王子殿下と第二王子殿下から一輪ずつ」


ケインバッハは、娘と王子たちを交互に見た。


「ミレイ。まさか、お前からねだったのかい?」
「ええ」


軽く眼を瞠ったケインに、ミレイナリエは悪戯っぽく微笑んだ。


「余りに王子さまたちが申し訳なさそうにされていたので。お詫びとしていただく事にしました」
「・・・成程」


呆れたとばかりに溜息を吐く父親から視線を外し、ミレイナリエはまだ横に立っている王子たちの方を向いて右手を差し出した。


「え・・・?」
「お花を渡して下さいますか? もう自分で持てますから」
「あ、ああ」


慌てて両手それぞれに持っていた花を差し出すと、ミレイナリエは嬉しそうにそれを受け取った。


そのやり取りを終始、興味深そうに見守っていたレオンハルトがここで質問をする。


「ちなみに、どっちがどっちの花を渡したのかな?」


その言葉に、さっと紅を挿したみたいに頬を赤く染めた二人だったが、まずライオネルが口を開いた。


「紫の花が、僕です」
「じゃあ、白いダリアがフリードリヒか」
「・・・花の名前は分かりませんが、白い花は僕が・・・」
「ふ~ん、そうか」


何やら楽しそうに独り頷くレオンハルトを、ケインは複雑な表情で見ていた。


そんなやり取りを経て、私室で待つ母二人の元へ戻り、事情を説明してその場はお開きとなったのだが・・・。





「庭には沢山の花が咲いていただろう? あの花を選んだ理由は何かあるのかい? それとも適当に目についた花を摘んだのかな?」
「「適当じゃない」」


即答で同じ言葉が返って来たことに、レオンハルトは思わず吹き出しそうになった。


全く。
性格は正反対のくせに、こういうところだけそっくりなんだからな。


「じゃあ、どうして?」


重ねて尋ねると、珍しくフリードリヒが先に口を開いた。


「・・・あの花を見て、あの子みたいだと・・・思って」
「成程ね。確かに、真っ白で凛と咲くダリアの花は、あの子にぴったりかもね」


幼い憧れを感じさせる返答に納得して頷くと、今度はライオネルに顔を向けた。


「ライは?」
「・・・なんとなく」


その答えに、レオンは首を傾げて言葉を繰り返した。


「なんとなく?」


ライオネルは、こくりと頷く。


「なんとなく・・・あの子には、あの色を持っていてほしいと、そう思った、から」


あの色。


レオンハルトは軽く眼を瞠る。


差し出したカンパニュラの紫と同じ色の瞳をしたその王子は、確かにそう言った。


だが、自分の色を身に付けて欲しいという願いの意味も、また、誰かの姿を花に重ねる気持ちの正体も、幼い王子たちはまだ知らない。
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