【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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その後のエピソード 1 双子の王子は、とある令嬢に恋をする

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その日、リーベンフラウン王国は喜びに包まれた。


街角では号外の紙が舞い、王城からは祝砲が轟き、酒場に押しかけた男たちは祝杯を挙げる。


王太子夫妻に御子が生まれたのだ。


「しかも双子だってさ」
「これで王国も安泰だねぇ」
「王太子妃さまも産後、何事もなくお元気だそうだ」
「嬉しい知らせが続くなあ」


民の表情は皆一様に明るく、王子二人の誕生と王太子妃の無事の出産を喜んだ。


王太子レオンハルトにより、第一王子はライオネル、第二王子はフリードリヒと名付けられた。






それから5年後、幼い少女ミレイナリエ・ダイスヒルは王城の回廊を歩いていた。


父ケインバッハと母エレアーナに連れられ、二つ下の弟と共に、第三王子誕生の挨拶に来ていたのだ。


王太子夫妻レオンハルトとカトリアナの仲睦まじさは国中に知れ渡るほど有名で、双子の王子二人を産んだ後も、その3年後には第一王女、更にその2年後に第三王子と次々に子宝に恵まれていた。


「第一王子さま、そして第二王子さまにミレイナリエがご挨拶を申し上げます」


王太子夫妻に挨拶をした後、今度は双子の王子に向かって完璧なカーテシーを取ったミレイナリエはこのとき僅か6歳。


少しばかり舌足らずの口調が愛らしくて微笑みを誘う。


頭を下げた際にさらりと背中からこぼれ落ちたのは母と同じ光り輝く銀色の髪。


驚くほど長い睫毛は碧の眼を縁取り、透き通るような肌にうっすらと桃色に染まる頬。


「「・・・」」


いつもはやんちゃな第一王子も、普段から人見知りの第二王子も、只ぽかんと口を開け、言葉を返すのを忘れていた。

ただただ、目の前で礼をとる妖精のような美少女に見惚れていたのだ。

まだ2歳の第一王女は、そんな兄二人の異変に気づく様子もない。
ただ無邪気な瞳で兄を見上げていた。

そんな子どもたちの様子に、レオンハルトが予想通りだと苦笑し、優しく声をかける。


「ライ、フリード。可愛らしいご令嬢にお返事は?」


だが、レオンハルトの声は、彼らの耳には届かない。

二人は依然、固まったままだった。




ここで堪らないのはミレイナリエだ。


いつまで経っても返事がもらえないため、カーテシーの姿勢のまま、じっと黙って待つしかない。

沈ませた足が辛くなり始めたのか、僅かにプルプルと震えている。


許しもないのに勝手に声をかける訳にもいかず、ケインバッハとエレアーナは黙って見守るしかなかった。


なかなか我に返らない双子に呆れたカトリアナは、左手で第三王子を抱いたまま、二人をそっとつつく。


そこで漸くハッと我に返ったのが第一王子ライオネル。
それに続いて第二王子フリードリヒが挨拶を返した。


続いてミレイナリエの弟イザークが挨拶を述べたが、まだ幼いアレクサンドラは当然ながら、何故か双子の二人までそわそわと落ち着かない。


「やれやれ、うちの子どもたちは随分と照れ屋さんのようだな。まあ、仕方ないか。ダイスヒル家の美しい宝石たちを目にしてはね」


レオンハルトは、我が子たちの様子に苦笑しながら、少し戯けた口調でケインバッハにそう言った。


王太子夫妻どちらにとっても、懐かしい親友との語らいの機会だ。


子どもたちは中庭で遊んでおいでと、護衛騎士と侍女たちをお供に付けられ送り出された。



「・・・花は好きか?」


ぶっきらぼうに聞いてきたのはライオネル。


「はい、大好きですわ。イザーク、貴方もよね?」


対するミレイナリエは、人見知りとは無縁のようだ。


にっこりと笑って弟と手を繋ぐと、幼いアレクサンドラ王女にも手を差し出した。


「転んだりしては大変です。お手をどうぞ、王女殿下」


優しい笑みに誘われるように、アレクサンドラはその手を握る。


中庭の花が植えられている区画まで案内すると、その広さと咲き誇る花々の美しさにミレイナリエとイザークは感嘆の声を上げた。


「美しいだろう?」


誇らしげなライオネルに、ダイスヒル家の二人は嬉しそうに頷く。


人見知りの激しいフリードリヒは、ライオネルの側にくっ付いたまま黙っている。

緊張が解けたのか、アレクサンドラとイザークは、手を繋いで二人で庭園の奥の方へと行ってしまった。


慌てて追いかけようとしたミレイナリエは、だがそこで、僅かに眉を顰めて立ち止まる。


「どうした?」


ライオネルが問いかけても、ミレイナリエは何でもないと頭を振った。


だが、走るのを止めてゆっくりと歩き始めたのを見て、ある事に気づく。


「足が痛いのか?」
「・・・っ」
「ケガをしたのか?」
「い、いえ。そうではなくて・・・」


否定はするも、先ほどよりも更にゆっくりとした歩みになのは明白で。


ライオネルは急いで辺りを見回し、ベンチを見つけるとそこに座らせた。


「侍女を呼ぶから、ケガしたところを見てもらえ」
「お、お待ちください。本当にケガではないのです」
「だが」


どうしてだろう。

どう見ても歩き辛そうにしているのに、頑なにケガを認めようとはせず、侍女を呼ぶのも嫌がっている。


途方にくれたライオネルは、振り向いてフリードリヒを見た。


フリードリヒも心配そうに、ベンチに座るミレイナリエを見下ろしている。

すると。


「・・・です」


蚊の鳴くような声が聞こえた。


「え?」
「筋肉痛・・・みたい、です」


ライオネルとフリードリヒは目を丸くした。


「「きんにく、つう?」」


ミレイナリエは、こくりと頷く。

恥ずかしいのか、顔を両手で覆っている。


「先ほど、長く礼の姿勢を取っていたので・・・多分そのせいかと・・・」


・・・あ。


双子の脳裏に、先ほどの光景が蘇った。

二人が呆けていたせいでカーテシーを取り続け、終いには子鹿の様に足をプルプルさせながら頑張っていた姿を。


--- 僕たちのせいじゃないかっ!---


「え、と、その、すまない」
「あの、ご、ごめんなさい」


恥ずかしさの余り真っ赤になって俯くミレイナリエに向かって、双子の王子は深々と頭を下げた。


これに慌てたのはミレイナリエだ。


「王子が頭を下げてはダメです」
「だが」
「でも」

「大丈夫です。すぐに治りますから」
「だが」
「でも」


どれだけ大丈夫と言っても聞かない二人に、ミレイナリエは少し考える素振りを見せ、それからにっこりと微笑んだ。


その笑顔に目の前の双子がぴしりと固まった事にも気づかず、ミレイナリエは口を開いた。


「ではお詫びの品をくださいませ」
「「お詫びの品?」」
「はい。そこの庭園から、花を一輪わたくしにください。それで許しますわ」


二人は顔を見合わせ、それから庭園の中へと入って行った。

そして暫くして戻って来る。
一輪の花を手にして。


「・・・綺麗ですね」


ライオネルは紫のカンパニュラ。
フリードリヒは白のダリア。


花をそれぞれの手で受け取り、ミレイナリエは嬉しそうに笑った。


「ふふ、ありがとうございます。では、お詫びの品を受け取ったのですから、もうわたくしに謝ってはダメですよ?」


その笑顔を前に、双子の王子は真っ赤な顔でこくこくと頷きを返す事しか出来なかった。


ライオネルとフリードリヒが5歳、ミレイナリエが6歳。


これが二人の王子の初恋である。

 
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