転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第2章

第321話 追跡時間が長くなってきた

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ネロ君は馬車から荷物を下ろすと、再び御者台に乗って馬車を宿の裏手に運んで行った。

『おう、部屋は空いているか?』

顎が割れている黒ローブに表示を切り替えると、宿の人に尋ねている声が聞こえてきた。
他の二人も表示するように魔道具を操作していたので、声を聞いただけだ。

とりあえず、四面ある壁のうち、一面を「位置表示」の魔道具の表示用にして、残りの三面に黒ローブ達のそれぞれの姿を
表示した。何箇所にも識別情報の付与したのを一度全部表示してみたら、多すぎた。
靴とか鞄だとかを中心にそれぞれ四つの角度からの絵が表示されていて、部屋の壁が黒ローブ達の情報で一杯になってしまった。

「……一つに絞らないか?最低限、居場所さえ追えれば良いだろ」
「そうだね……」

一旦、靴に付与した識別情報だけを表示するようにした。更に四つの角度から写すのをやめて一つの角度だけにしたら
かなりスッキリした。識別情報を発しているのが靴だからか、視点がちょっと下からになる。

宿屋の二階の部屋に行っていた黒ローブの男達が、大きな麻袋を背負って降りてきた。
ガチャガチャと音がする。
宿の裏手で馬に水を与えていたネロ君が、宿屋の前に戻ってきて合流した。
顎が二つに割れた黒ローブが、背負っていた麻袋をネロ君に差し出した。ネロ君は麻袋を両手で受け止めようとしたが、麻袋が重かったのか、「うっ」と呻いてから麻袋を地面に置いてしまう。

『気をつけろ。瓶を割っちまったらコトだぞ』
『こいつに持たせたら落としかねないだろうが』
『チッ!使えねぇな』

顎が割れている黒ローブは、舌打ちしてネロ君に手渡した麻袋を取り上げた。

ネロ君はしゅんとした様子で俯いた。

『急ぐぞ。日が暮れちまう』

モミアゲの黒ローブが言うように宿の外に出ると、影がかなり長くなり、暗くなってきていた。

「まあ。もうこんな時間だわ」

母様が窓の外の様子を見て言う。川の光景を写し始めたのは、昼間の明るい時間帯だったのにいつの間にか時間が経っていたようだった。

「夕食の時間になったら、貴方達は食堂に行きなさい」
「え?父上と母様は?」
「彼らの行動が落ち着くまではここで見ているわ」

母様はそういうとクルリと僕の方に向き直った。

「クリス。後で良いんだけど、この『監視装置』を他の部屋に移動させて欲しいの」
「監視装置?」
「この魔道具のことよ」
「『追跡魔道具四号君』だよ」
「そう。……名前は良いのだけど、クリスの部屋をずっとこの状態にしておくわけにはいかないでしょう?

夜だって落ち着いて眠れなくなっちゃうわよ」
「……そうかも」

黒ローブ達の行動がひと段落したくらいのタイミングで、「追跡魔道具四号君」を移動させることになった。
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