転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
320 / 334
第2章

第320話 目印をつける

しおりを挟む
デインの街に入って行った馬車は、街の門からまっすぐ続く道を進んで行った。
広い道の両脇に灰色の石造りの建物が建ち並ぶ。
ジロス村は農村って感じだったけど、デインみたいなのは都市っていうのかな。規模が大きくて人が多い。脳裏の光景で見た場所に近い雰囲気だ。

馬車は途中で道を曲がり、少し狭い道で泊まった。看板に「空きあり」の表記。宿屋のようだ。
男達とネロ君が馬車から荷物を持って降りてくる。

馬車は止まったし、全員馬車の外に出たので識別情報をつけるチャンスだ。
手元の表示ボードの表示を大写しにして、識別情報を付与する場所を探す。

「ちょ、何してんだ?」
「識別情報を転写するんだよ。馬車降りちゃったらどこに行くか分からなくなっちゃうでしょ」

僕が黒ローブの一人を大写しにしたら、兄上が焦ったように言った。黒ローブ達は今はローブを脱いでいて、その中の一人の男性は無精髭の生えた割れた顎がはっきり写っている。

「痛いから人にはやらないんじゃなかったのか?」
「持ち物に付与すれば良いでしょ。鞄とか革鎧とか……」

顎が二つに割れた元黒ローブは今は革鎧を身につけている。冒険者っぽくしているのかな。馬車の荷台から大きい鞄を取り出していた。鞄の素材は皮を使っているみたいに見える。鞄か革鎧に狙いを定めようかなと思っていたら、兄上が言う。

「ああ……、重い鞄は宿に置いて行って持ち歩かないかもしれないぞ。革鎧も黒ローブ姿になったら身につけてないかも」
「え、じゃあ。どうしよう……」
「靴は? 嵩張るから替えを持ち歩かないかもしれないし」
「靴だね」

兄上に言われて、黒ローブの靴を大写しにして狙いを定めた。
識別情報の転写をしようとした瞬間、黒ローブの靴が何かに遮られた。

「あ」

何かと思ったら、鞄だ。ちょうど足元に置くタイミングだったらしい。

「鞄に付与しちゃった……。まあ、良いか。靴にも……」

早くしないと宿屋に入っちゃうので、すぐにやり直して靴に識別情報を付与した。
付与する識別情報は多めに準備しているから問題ない。迷うより早く済ませてしまおうと思って、もう一人の黒ローブの男の靴やら剣帯やらに転写した。こっちはモミアゲが濃い。ネロ君の靴にも転写する。

ピクンッ

識別情報を転写した途端、ネロ君が足をピクッと動かした。気づかれた?

ネロ君は足元を見つめ、識別情報を付与した方の靴を履いた足を持ち上げて足首を撫でた。

『おい!ネロ!モタモタするな』
『あ、はい』

ネロ君は靴の履き心地を確認するように爪先を地面にトントンと軽く叩きつけた。
大写しにしていた表示では、靴底が剥がれかけて踵が少し顔を出しているのが見えた。

ボロボロの靴だから、雷魔法の転写の衝撃が足に伝わっちゃったのかもしれない。

もしかして、この街で靴を買い換えちゃったりするかな……?
一応念の為、他の持ち物にも識別情報をけておこう。革鎧の腰の辺りと、腰から下げている皮の水筒にも識別情報を転写しておいた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...