転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第2章

第323話 年配の黒ローブ

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扉が開くと、挨拶の声のようなものもなく、ササっと黒ローブ達が扉の奥へと消えていく。

姿が見えなくなっちゃったので表示を近距離に変えたら、室内の様子が見えた。木箱が置かれた棚が幾つも並んでいる。倉庫みたいな場所かな。

扉が閉まり、ガチャリと施錠をする音が響いた。

『……ここまで来たってことは、実験は成功して川の毒水を採取してきたってことだな?』

ちょっと掠れたようなおじいさんのような声。近距離だと足元ばかりが映し出されていて顔までよく見えない。
もっと目線の高い位置にある識別情報をと思って、表示する識別情報を切り替えた。
ネロ君の革鎧に付与した識別情報から位置を取得したら、新たな黒ローブが表示範囲に姿を表した。口髭を蓄えていて痩せている。年配の男性だ。

『いや……。
河原に魔魚が大量に転がっていたので毒が発生して広がったようには見えたが、黒く爛れた魔魚や魔獣は見当たらなかった。一応、川の水は採取してきたが……』

黒ローブが麻袋を掲げた、カチャカチャと瓶がぶつかり合っているような音が聞こえた。

『はあ? 目的の毒ができていないのに、川の水を採取してきたのか?』
『どの程度の毒なのか、調査は必要だろうがよ』
『はあ、……まあ良いだろう。瓶は預かっておく』

年配の黒ローブが麻袋を受け取り、中から一つ小瓶を取り出した。
蓋を開け、中を覗き込んでいる。

『微毒か……。良い線は行っていたようだ』
『微毒が良い線なのか?』
『呪いの毒の前段階といったところだ』

年配の黒ローブのフードの下の口の端がニヤリと吊り上がる。

『では、実験は成功していたのか?』
『いや、ここから呪いの毒に変化する方法がまだ解明されていないのだ』
『それでは、前段階とは言えないんじゃないのか』
『古文書に、そのような記載があったのだ』

年配の黒ローブは、小瓶に入った液体を見て「微毒」と言った。「毒鑑定」のスキルを持っているのかな。

年配の黒ローブと話をしているのは顎が割れている男だけで、モミアゲの男とネロ君は黙って立っているだけだ。

『アンスでは回復傾向になっているらしいが、もう一度毒を撒きに行くのか?』
『それはまだ決まってない。回復したのは、どっかの商人が薬を運んできたからのようだ。解毒剤を飲んで効いたのなら、毒だったと気づかれている可能性がある。警戒している可能性がある』
『解毒剤か。その商人は毒だって気づいたってことか?』
『それもわからん』

シャル叔父さんの話をしているようだ。シャル叔父さんに持って行ってもらったのは「栄養剤」で、解毒剤として運んでいったわけじゃなかったんだけどな。結果的に、毒から回復してきたら、解毒剤って思われるは当然かもしれないけどね。

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