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第1章
第1話 魔獣狩りは日課です
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薮をかき分けたら、木の根元に色取り取りのキノコが生えているのを見つけた。
僕は嬉しくなって思わず拳を小さく突き上げた。
色鮮やかな素材は絵の色材になる。何を描こうかなとあれこれ思いを巡らす。
夜が迫り始めた空のような深く蒼い色。鳥の魔獣のトサカみたいなちょっと派手な赤。
青みがかった灰色のキノコは見た目が短く刈った毛皮みたいで、裏庭で時々見かける猫を思い出させた。
あの灰色の猫さん、描こうかな。
「毒は……、やっぱりあるのか……。」
じっと見つめていると毒かどうかは何となくわかる。意外にも派手な赤のキノコは無毒。
蒼いキノコはちょっと毒ってことだけがわかった。沢山食べたらお腹を壊したりする感じのやつ。
灰色のはかなりの毒だ。猫さん描くの無理かなぁ。
「クリス!ぼけっとするな!そっち行ったぞ!」
茂みの先の沼の辺りにいる兄、ローレンの怒鳴るような声が聞こえてきた。
ガサガサと激しい音を立てながらこちらに向かって茂みをすごい勢いで這ってくる鈍い色の背中がチラリと見えたの身構え、右手のひらに魔力を集めた。
「ギュー!」
絞り出すような声を上げながら、突進してきたオオトカゲに右手を振り上げて風刃をぶつける。しかしオオトカゲが直前でジャンプしてきたので、風刃はオオトカゲの背中を掠めて尻尾の先を切っただけだった。
「おっと……。」
横に飛び退いて、オオトカゲの突進から逃れる。風刃が外れるのは想定内だ。
でも飛び退いた先にあった木にちょっとぶつかった。痛い……。
オオトカゲは僕が避けた先に設置していた網に頭から突っ込んでいく。四隅を木に括り付けていた網がオオトカゲの進行を止める。
「ギュー!」
無闇に近づくと危ないのでしばらく様子を見ていると、オオトカゲは網から抜けられないらしくて身を捩って暴れている。
回り込んでオオトカゲの斜め前から近寄る。オオトカゲは尻尾の攻撃が要注意なのだ。風刃で尻尾の先は切れているけど急に振り回されたらまだ危険な長さは十分残っている。
「ギュギュー!!」
僕が近づいたのを察知してオオトカゲが唸り声をあげてさらに暴れる。槍を構えてタイミングを測る。オオトカゲの首が僕がいる方と反対側に動き、首の部分が晒されたタイミングでオオトカゲの首に槍を突き刺した。
「ギューー!!」
オオトカゲは一際大きく唸り声を上げた。
「やったか?」
茂みをかき分けて、ローレン兄上が姿を見せた。
「まだ。何か、『やったか』って言われると逆に失敗しそう……。」
オオトカゲは身を捩って暴れている。僕は槍を持つ手に力を込めて更にグッと押した。振り飛ばされないように両足を踏ん張り槍を両手で押さえながらローレン兄上を振り返った。
「トドメ刺してよ。」
「いや、お前が一人で狩った方が良くね?」
「そももそも最初に追い立ててくれたんじゃないの?」
「勝手に逃げてっただけだよ。」
そんな話をしているうちにオオトカゲの動きがだんだん鈍くなってきた。
「ギュ……。」
唸り声も弱々しくなったので、片手で槍をしっかり掴みながらもう一方の手で風刃をオオトカゲの首の傷口あたりに叩きつけた。
オオトカゲは首から血を流し、少しの間ピクピクと体を震わせた後、動かなくなった。
「ギュッ!」
ビクンとオオトカゲの身体が跳ねた。オオトカゲの首に突き立てている槍の柄がグッと動く。もう一度風刃を放った。さらにもう一度。
「……。」
オオトカゲが静かになった。
そして槍を伝わるように何か熱いものが流れてきてオオトカゲの息の根を止めたことがわかる。
「ふぅ~。」
「やったな。」
「うん。」
魔獣を倒すと、いつもこんな風に何か熱いものが流れてくる感触がある。魔獣に残っていた魔力が流れてくるんだろうと以前父上が言っていた。
沢山、魔獣を倒すと自分自身の魔力や腕力が向上するらしい。ローレン兄上が僕一人で狩れと言っていたのも、魔力が流れてくるのが分散しないように配慮してくれていたということだと分かっている。
「……兄上ありがとう。次は兄上の番だね。」
「いや、俺はもうあっちで3体倒したぜ。」
「え?いつの間に?」
「お前がぼけっとしてる間にだよ。さあ、解体しようぜ。」
ローレン兄上は、鞄から引っ張り出した布で剣を拭うと、拭き終わった布を僕に差し出した。布の半分だけ使っていて、残り半分は綺麗な状態だ。
僕は水魔法で槍の先の血を洗い流してから、
受け取った布の綺麗な部分を使って水分を拭く。布で拭くだけだとベタつくんだもの。
兄上の剣も水で洗い流そうかと訊いたけど、すぐまた使うからと言われた。
僕が槍の先を拭いている間に兄上は茂みの向こうの沼の方に戻って行く。
バチャと水音がしたので沼地から仕留めた獲物を引き摺り出しているのだろう。
僕は嬉しくなって思わず拳を小さく突き上げた。
色鮮やかな素材は絵の色材になる。何を描こうかなとあれこれ思いを巡らす。
夜が迫り始めた空のような深く蒼い色。鳥の魔獣のトサカみたいなちょっと派手な赤。
青みがかった灰色のキノコは見た目が短く刈った毛皮みたいで、裏庭で時々見かける猫を思い出させた。
あの灰色の猫さん、描こうかな。
「毒は……、やっぱりあるのか……。」
じっと見つめていると毒かどうかは何となくわかる。意外にも派手な赤のキノコは無毒。
蒼いキノコはちょっと毒ってことだけがわかった。沢山食べたらお腹を壊したりする感じのやつ。
灰色のはかなりの毒だ。猫さん描くの無理かなぁ。
「クリス!ぼけっとするな!そっち行ったぞ!」
茂みの先の沼の辺りにいる兄、ローレンの怒鳴るような声が聞こえてきた。
ガサガサと激しい音を立てながらこちらに向かって茂みをすごい勢いで這ってくる鈍い色の背中がチラリと見えたの身構え、右手のひらに魔力を集めた。
「ギュー!」
絞り出すような声を上げながら、突進してきたオオトカゲに右手を振り上げて風刃をぶつける。しかしオオトカゲが直前でジャンプしてきたので、風刃はオオトカゲの背中を掠めて尻尾の先を切っただけだった。
「おっと……。」
横に飛び退いて、オオトカゲの突進から逃れる。風刃が外れるのは想定内だ。
でも飛び退いた先にあった木にちょっとぶつかった。痛い……。
オオトカゲは僕が避けた先に設置していた網に頭から突っ込んでいく。四隅を木に括り付けていた網がオオトカゲの進行を止める。
「ギュー!」
無闇に近づくと危ないのでしばらく様子を見ていると、オオトカゲは網から抜けられないらしくて身を捩って暴れている。
回り込んでオオトカゲの斜め前から近寄る。オオトカゲは尻尾の攻撃が要注意なのだ。風刃で尻尾の先は切れているけど急に振り回されたらまだ危険な長さは十分残っている。
「ギュギュー!!」
僕が近づいたのを察知してオオトカゲが唸り声をあげてさらに暴れる。槍を構えてタイミングを測る。オオトカゲの首が僕がいる方と反対側に動き、首の部分が晒されたタイミングでオオトカゲの首に槍を突き刺した。
「ギューー!!」
オオトカゲは一際大きく唸り声を上げた。
「やったか?」
茂みをかき分けて、ローレン兄上が姿を見せた。
「まだ。何か、『やったか』って言われると逆に失敗しそう……。」
オオトカゲは身を捩って暴れている。僕は槍を持つ手に力を込めて更にグッと押した。振り飛ばされないように両足を踏ん張り槍を両手で押さえながらローレン兄上を振り返った。
「トドメ刺してよ。」
「いや、お前が一人で狩った方が良くね?」
「そももそも最初に追い立ててくれたんじゃないの?」
「勝手に逃げてっただけだよ。」
そんな話をしているうちにオオトカゲの動きがだんだん鈍くなってきた。
「ギュ……。」
唸り声も弱々しくなったので、片手で槍をしっかり掴みながらもう一方の手で風刃をオオトカゲの首の傷口あたりに叩きつけた。
オオトカゲは首から血を流し、少しの間ピクピクと体を震わせた後、動かなくなった。
「ギュッ!」
ビクンとオオトカゲの身体が跳ねた。オオトカゲの首に突き立てている槍の柄がグッと動く。もう一度風刃を放った。さらにもう一度。
「……。」
オオトカゲが静かになった。
そして槍を伝わるように何か熱いものが流れてきてオオトカゲの息の根を止めたことがわかる。
「ふぅ~。」
「やったな。」
「うん。」
魔獣を倒すと、いつもこんな風に何か熱いものが流れてくる感触がある。魔獣に残っていた魔力が流れてくるんだろうと以前父上が言っていた。
沢山、魔獣を倒すと自分自身の魔力や腕力が向上するらしい。ローレン兄上が僕一人で狩れと言っていたのも、魔力が流れてくるのが分散しないように配慮してくれていたということだと分かっている。
「……兄上ありがとう。次は兄上の番だね。」
「いや、俺はもうあっちで3体倒したぜ。」
「え?いつの間に?」
「お前がぼけっとしてる間にだよ。さあ、解体しようぜ。」
ローレン兄上は、鞄から引っ張り出した布で剣を拭うと、拭き終わった布を僕に差し出した。布の半分だけ使っていて、残り半分は綺麗な状態だ。
僕は水魔法で槍の先の血を洗い流してから、
受け取った布の綺麗な部分を使って水分を拭く。布で拭くだけだとベタつくんだもの。
兄上の剣も水で洗い流そうかと訊いたけど、すぐまた使うからと言われた。
僕が槍の先を拭いている間に兄上は茂みの向こうの沼の方に戻って行く。
バチャと水音がしたので沼地から仕留めた獲物を引き摺り出しているのだろう。
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