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第1章
第35話 妄想は不敬?
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「今はどんな場面を考えてたんだ?」
「レオノールさん。」
「ああ、昨日の。あの人、侯爵令息らしいぞ。ライラック侯爵家の次男だって。」
「そうなの?兄上どこで知ったの?」
「昨夜の夕食の時に、チラッと話題に出たのを聞いたんだ。ライラック侯爵家の次男が王宮騎士として同行してきてるって。
屋敷に泊まるように誘ったけど、町の宿屋に行ってしまったってさ。レオノールさん、ライラック小隊長って呼ばれてただろう?」
「そうだったね。」
「ネイサン殿下も、レオノールさんのこと気にしてたよ。」
兄上は、屈んでブーツの紐を結び、履き心地を確認するように軽くジャンプした。「走ろう」と目で促してきたので、一緒に走り出す。
「……それで……、どんな場面だったんだ?ライラックさんの事で思い浮かんだのは。」
軽快なペースで走りながら兄上は前を向いたまま、話の続きをする。
「えーと……。レオノールさんは、第一夫人のお母さんを守る為に、わざと侮られるように振る舞っているんだって。」
「はあ?いきなり複雑だな。それで……?」
「レオノールさんのお兄さんは第二夫人の子で、第二夫人は、お兄さんを後継にしたくてレオノールさんやレオノールさんのお母さんをよく思っていないみたい。」
「ほう……。」
「『殿下』はそのことを知っていて、何とかしてあげたいみたいだった。」
「殿下って……、ネイサン殿下?」
「ううん。もっと年上。……第一王子殿下かも?」
「はっきりしないのか?それで、殿下はどうしたんだ?」
「婚約者以外の令嬢に夢中で、側妃にしたいんだって。」
「……は?」
「それを聞いてレオノールさんが呆れた顔したところで終わった。」
「うーん、よく分からないなぁ。」
兄上は途中からチラチラと周囲を見回しながら走って、離れの裏側の、物置小屋の陰になるような位置まで移動した。
立ち止まって、ふぅーっと深く息を吐いてから僕の方を見た。
「クリス……。妄想なのか、『何か見えちゃった』のかわからないけど、殿下の話とか不敬になりそうだから気をつけろよ。話す場所とか、話す相手とか……」
「うん?」
「わからないか? 知らない人が聞いたら、クリスがこの国の王子殿下を批判しているみたいに思うかもしれないんだ。」
「あー……。側妃にしたい人がいるって言うと不敬なの?」
「そうではないんだけど。話題に出しただけで、批判しているって思われるかもしれないってこと。」
「……そうか……。」
「わかってたのか?」
「うん。」
王族の話はしない方が良いってことだよね。
殿下が側妃を娶ることを考えていることをレオノールさんが呆れたって言ったのも良くなかったかもしれないけど。
レオノールさんは側妃を娶ること自体が良くないとか考えてたわけではないと思う。妄想の中のレオノールさんのことだけどね。
レオノールさんの家では、第一夫人と第二夫人の関係が良くなくてレオノールさんは辛い立場でいる。そんなレオノールさんのことを心配しているという殿下が
第一妃と側妃の仲を全く考慮しないで将来娶ろうとしている様子に引いちゃったんだと感じた。
ああ、知らない人が聞いた時、僕が王族のことを批判していると思われるだけじゃなくて、レオノールさんまで悪いと思われてしまったら大変だね。
勝手に浮かんできた妄想なんだけども。
他人に話す時は気をつけよう。
そんなことを考えながら兄上について歩いていると、視界の端に猫ちゃんが歩いているのが見えた。目で追っていると、立ち止まってチラリと此方の方に顔を向けた。
そして、タタタっと走っていってしまった。可愛いなぁ。
猫ちゃんを追いかけていって撫でたい気持ちもあるけど、多分撫でさせてはくれないんだろうとか考えながら兄上の後ろを歩く。
暫く歩くと、訓練場までたどり着いた。
「案内前に訓練するの?」
「ああ、点検も兼ねればちょうど良いだろう。」
訓練場の奥の方に魔法や弓の練習をする的を設置する場所がある。
土を盛り上げた土台に、木の棒に的を打ちつけたものを突き立てる。
その的に向かって弓を射る。矢が当たった途端に的が後ろに吹っ飛び、土台の土がばらけ飛んだ。
「レオノールさん。」
「ああ、昨日の。あの人、侯爵令息らしいぞ。ライラック侯爵家の次男だって。」
「そうなの?兄上どこで知ったの?」
「昨夜の夕食の時に、チラッと話題に出たのを聞いたんだ。ライラック侯爵家の次男が王宮騎士として同行してきてるって。
屋敷に泊まるように誘ったけど、町の宿屋に行ってしまったってさ。レオノールさん、ライラック小隊長って呼ばれてただろう?」
「そうだったね。」
「ネイサン殿下も、レオノールさんのこと気にしてたよ。」
兄上は、屈んでブーツの紐を結び、履き心地を確認するように軽くジャンプした。「走ろう」と目で促してきたので、一緒に走り出す。
「……それで……、どんな場面だったんだ?ライラックさんの事で思い浮かんだのは。」
軽快なペースで走りながら兄上は前を向いたまま、話の続きをする。
「えーと……。レオノールさんは、第一夫人のお母さんを守る為に、わざと侮られるように振る舞っているんだって。」
「はあ?いきなり複雑だな。それで……?」
「レオノールさんのお兄さんは第二夫人の子で、第二夫人は、お兄さんを後継にしたくてレオノールさんやレオノールさんのお母さんをよく思っていないみたい。」
「ほう……。」
「『殿下』はそのことを知っていて、何とかしてあげたいみたいだった。」
「殿下って……、ネイサン殿下?」
「ううん。もっと年上。……第一王子殿下かも?」
「はっきりしないのか?それで、殿下はどうしたんだ?」
「婚約者以外の令嬢に夢中で、側妃にしたいんだって。」
「……は?」
「それを聞いてレオノールさんが呆れた顔したところで終わった。」
「うーん、よく分からないなぁ。」
兄上は途中からチラチラと周囲を見回しながら走って、離れの裏側の、物置小屋の陰になるような位置まで移動した。
立ち止まって、ふぅーっと深く息を吐いてから僕の方を見た。
「クリス……。妄想なのか、『何か見えちゃった』のかわからないけど、殿下の話とか不敬になりそうだから気をつけろよ。話す場所とか、話す相手とか……」
「うん?」
「わからないか? 知らない人が聞いたら、クリスがこの国の王子殿下を批判しているみたいに思うかもしれないんだ。」
「あー……。側妃にしたい人がいるって言うと不敬なの?」
「そうではないんだけど。話題に出しただけで、批判しているって思われるかもしれないってこと。」
「……そうか……。」
「わかってたのか?」
「うん。」
王族の話はしない方が良いってことだよね。
殿下が側妃を娶ることを考えていることをレオノールさんが呆れたって言ったのも良くなかったかもしれないけど。
レオノールさんは側妃を娶ること自体が良くないとか考えてたわけではないと思う。妄想の中のレオノールさんのことだけどね。
レオノールさんの家では、第一夫人と第二夫人の関係が良くなくてレオノールさんは辛い立場でいる。そんなレオノールさんのことを心配しているという殿下が
第一妃と側妃の仲を全く考慮しないで将来娶ろうとしている様子に引いちゃったんだと感じた。
ああ、知らない人が聞いた時、僕が王族のことを批判していると思われるだけじゃなくて、レオノールさんまで悪いと思われてしまったら大変だね。
勝手に浮かんできた妄想なんだけども。
他人に話す時は気をつけよう。
そんなことを考えながら兄上について歩いていると、視界の端に猫ちゃんが歩いているのが見えた。目で追っていると、立ち止まってチラリと此方の方に顔を向けた。
そして、タタタっと走っていってしまった。可愛いなぁ。
猫ちゃんを追いかけていって撫でたい気持ちもあるけど、多分撫でさせてはくれないんだろうとか考えながら兄上の後ろを歩く。
暫く歩くと、訓練場までたどり着いた。
「案内前に訓練するの?」
「ああ、点検も兼ねればちょうど良いだろう。」
訓練場の奥の方に魔法や弓の練習をする的を設置する場所がある。
土を盛り上げた土台に、木の棒に的を打ちつけたものを突き立てる。
その的に向かって弓を射る。矢が当たった途端に的が後ろに吹っ飛び、土台の土がばらけ飛んだ。
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