転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第57話 スライム河原

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屋敷から町に入り、行列で町の通りを抜けて町を出る。しばらく進んで林を抜けるとサワサワと水が流れる音が聞こえてきた。川が見えてきて、兄上が案内しようとしていた場所が何処だったのかが判った。

スライム河原と僕と兄上が呼んでいる川の辺りだ。

呼び名の通り、河原のゴツゴツとした石の隙間にスライムが現れる場所だ。
ここのスライムは動きがゆっくりだから、確かに狩りの訓練には向いていると思う。流石兄上!

川で魔魚も釣れるから、バーベキューとかもできる場所だ。……バーベキューしたいなぁ。天気良いなぁ。河原でやるバーベキューって最高なんだよなぁ……。

僕がバーベキューに想いを馳せている間に殿下達は馬車から降りた。川沿いのスロープになっている通路を通って河原に降り立った。

「……あれは……、もしかしてスライム……か?」

石の陰でモゾっと動くスライムが見えたのだろう、眩しそうに目を細めて見ていた殿下がつぶやくように言った。

「ええ~?スライムってかなり初心者向けって聞いたわ。」
「初心者だから訓練に来たのではないか?」

ネイサン殿下はスライムを初めて見たようだ。モゾモゾした半透明な茶色い生き物を不思議そうに見ている。殿下の言葉を聞いて、シェリル嬢が声を上げた。
シェリル嬢は狩りの対象がスライムだと不満みたいだ。ハロルド君がシェリル嬢を諌めるように言う。
ハロルド君は冷静だな。

「………。」

リネリア嬢は唇を少し尖らせてちょっと不安げにスライムの方を凝視している。大丈夫かな……。嫌になって帰っちゃったりしないだろうか。

僕がヒヤヒヤして殿下達の様子を伺っていると。兄上が殿下達に向かってキリッとした態度で口を開いた。

「ここは、スライム河原と呼ばれていて、何種類かのスライムが居ます。比較的動きが遅いので、狩りやすいかと思います。
スライムを狩る時のコツは「狩りの指導は我々が。」」

兄上の言葉を遮って若い騎士が一歩前に出てきた。兄上がせっかく喋っているのに。

「サルタナ、話の途中で割って入るのは失礼だぞ。」

ゴーシュさんが若い騎士に注意をした。若い騎士は、ハッとした様子で兄上にぺこりと頭を下げた。

「あ、失礼しました。」
「……いいえ。どうぞ、狩りの方法の説明をしてください。」

兄上は何でもない様子でサルタナと呼ばれた騎士に返事をして、殿下達にぺこりとお辞儀をし、ゴーシュさんにも会釈をして後ろに下がった。兄上、説明やめちゃったよ。言うこと考えてたんだと思うのになぁ……。

「では……。」

サルタナさんはそのまま続けて狩りの方法の説明を開始する様子だ。
サルタナさんが片手を上げると遠巻きに見ていた騎士達の中から数人がサルタナさんの方に駆け寄って行った。
見覚えがある人達がいる。ジャンさん達だ。パウロさん、ベルンさんも居る。

サルタナさんがジャンさんの上司なのかな。それじゃあ、サルタナさんが角兎を食べたがっていた人?無事、角兎を食べたんだろうか。

兄上が僕の方に歩いてきた。じーっと兄上の表情を見つめていると、ボフッと頭の上に手を置かれた。

「どうした?」
「説明遮られたら嫌じゃなかった?」
「指導や護衛は俺の役割じゃないし、騎士の人達も仕事をしているだけさ。」

せっかく用意した案内の内容を途中で遮られて兄上は怒っていたりしないだろうかと思ったんだけど、兄上はなんでもなさそうな様子だ。兄上が良いなら、別に良いんだけど……。
兄上と二人で並んで、殿下達の様子を眺めていたら、後ろから聞き覚えのある声で話しかけられた。

「こんにちは。昨日ぶりね。」

振り向くと、レオノールさんが居た。レオノールさんが毒に倒れた様子が脳裏に浮かんだ時のことを思い出して、ちょっとビクッとしてしまった。

でも目の前のレオノールさんは、普通に元気そうだった。
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