転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第93話 埋められる的

次はリネリア嬢の番だ。リネリア嬢の訓練の様子も他の3人で見物するようだ。メイドが運んできた水の入ったカップを手にしながら囲いの外に3人並んで中の様子を見ている。

リネリア嬢が緊張した面持ちで弓と矢を手にして囲いに入った。じわじわと前に進む。

前の3人の時と同じように騎士が小さい檻から背びれイタチを囲いの中に出した。

背びれイタチは地面に転がった後、追い立てられてリネリア嬢がいる方に飛ぶように向かっていく。

「キャッ！」

リネリア嬢は叫びながら既に構えていた弓を引いたが、矢は外れて背びれイタチの後方に飛んでいった。騎士がすぐにフォローに入って、リネリア嬢に飛びかかろうとする背びれイタチを盾で弾く。

騎士達が槍の柄や盾で、何度か背びれイタチを打ち付けたり追いやったりして、何度かリネリア嬢が弓を引く機会を作ったけれどなかなか矢が当たらない。

リネリア嬢が息を切らして泣きそうな顔になってきた。囲いの外の騎士が囲いの中の騎士に声をかけた。

「おい、魔獣が動かないようにしろ。」

盾を持っていた騎士が背びれイタチを盾で地面に押さえつけた。詠唱を唱え始める。

「土よ。雄大なる大地の精霊よ。我に力を貸したまえ。この魔獣を地に繋ぎ止めたまえ。」

ふわっと魔法陣が浮かんで消える。
騎士が盾を離すと、背びれイタチの身体の後ろ半分が地面に埋め込まれていた。背びれイタチがジタバタと前半身をくねらせて暴れているがその場から動けなくなったらしい。キィキィ高い声が響く。

「さあ、どうぞ。」
「あ……、はい！」

冷静な様子の騎士に促されて、リネリア嬢はハッとした顔をして弓を構えた。

「動けなくしてあるので、もっと近づいても大丈夫ですよ。」
「はい。」

リネリア嬢は頷いてゆっくりと数歩前に進み出た。地面に固定されている背びれイタチに狙いを定めゆっくりと弓を引いた。
矢が逸れた。リネリア嬢は一瞬固まったけど、騎士に再度促されて弓を引いた。

何本か目の矢が命中したようだ。
背びれイタチが短い鳴き声を上げた。リネリア嬢は目を輝かせて三人を振り返った。

「あ、当たった！」
「お見事！」
「お見事です！」

殿下達も騎士達もリネリア嬢に拍手をしていた。

このまま一人ずつ順番に続けるのかなと思ったら、その次からは男子組、女子組に分かれてそれぞれ討伐訓練を進めルようだ。

リネリア嬢の順番になった時は、常に背びれイタチを地面に埋め込むようにしたらしい。

リネリア嬢も繰り返しているうちに慣れてきたのか命中率も上がって行った。

しばらくの間、二つの土造りの囲いの中で行われている訓練を兄上と並んで見物していた。

でも……、暇だ。

狩り場の案内だけし終えたら、後の訓練のサポートとかは騎士の人の仕事で僕も兄上も特にすることはないんだよね。
それなら狩場の場所を伝えるだけで、自由にさせてくれたら良いんだけどなぁ。