転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第97話 帰宅と見送り

背びれイタチ討伐の訓練の後半は一人一セットずつだったけど、何度も魔法を撃ち直したりしてたからそれなりに時間はかかっていた。
スケジュール的には想定した時間内だったんだろうか。
屋敷に戻ってきたのは少し日が傾き始めた位の時間帯だった。

訓練の一行にくっついて屋敷の門から入ると屋敷の中がザワザワと慌しいのを感じた。
父上がゲンティアナの騎士達と出かけるところみたいだ。

多分、沼地が荒らされた報告を聞いて、現場を見にいくのだと思う。
父上は狩りで辺境伯様達と早朝から遠出をしていたんだけど意外と早く戻ってきたんだな。

父上達はちょうど出発しようとしたところで兄上や僕を含む殿下達御一行が戻ってきたから、一旦止まったって感じだ。
父上はスラリと身軽に馬から降りて、殿下達に挨拶をした。にこやかに微笑んでいるけど一瞬前はもの凄く緊迫した感じのオーラを放っていたのに僕は気がついていたんだよ。

殿下達が馬車を降りて本館に入っていくのを笑顔で見送った後、父上は僕と兄様の方に顔を向けた。
笑顔なし。厳しい表情。でも怒っているとかではないみたいだ。

「父上、ただいま戻りました。」
「戻りました。」
「……うむ。ご苦労だったな。」

兄上が挨拶をしたので僕も続く。父上は短く頷いた。

「沼地に行かれるのでしたら同行したほうが良いでしょうか？」
「いやいい。場所はわかっているからな。必要があれば後で話を聞く。」
「はい。お気をつけて。」

兄上がお辞儀をしたので僕も頭を下げた。
沼地で見たこととか何か訊かれるかと思ったけど、父上は騎士さん達を連れてさっさと出かけてしまった。

「急いでたのかな。」
「暗くなる前に現場を見たいんだろう。」
「そっか。森は夕方には暗いからね。」

馬を結構なスピードで走らせていく父上達を見送った。父上達は森に調査に行くにしては重装備だったから、多分辺境伯様達と遠出した時の格好のままなんだと思う。大丈夫かな。疲れていないかな。

「……今日は父上と一緒に食事できるかな。」
「今日も難しいんじゃないかな。」
「そっかぁ……。兄上は？夕ご飯一緒に食べられる？」
「うーん……。殿下達との夕食に同席しなくても大丈夫だったらな。……ちょっと訊いてくる！」

兄上は僕の頭にポンと手を置いた後、玄関のところに立っていた母様に駆け寄って行った。母上も父上を見送ってたのかな。
兄上は母様と少し話をしたと思ったら、すぐにこちらに戻ってきた。笑顔で指を立てた。

「離れの食堂で食べて良いって！」
「やった！」

兄上と夕食を食べられるのは嬉しい！メイリもきっと喜ぶ。
兄上も嬉しそうだ。

「そうとなったらジャックの所に行こう。料理をリクエストしたい！」

兄上はそう僕に声がけすると、方向転換して屋敷の中へ向かっていく。ジャックの所ってことは厨房だよね。

ジャックは本館の厨房にいるのかな。
料理人のジャックは、本館の厨房と離れの厨房の両方で調理をしている。だからどちらかの厨房には居るとは思う。
兄上は迷いなく本館の厨房方面に駆けて行く。僕は慌てて兄上の後をついて行った。