転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
167 / 334
第1章

第167話 狩り終了

しおりを挟む
屋敷に戻る途中で、町の人に「毒耐性」の飲み物を飲んでもらうことは出来ないかと兄上に相談した。
結構、馬を急がせているから落ち着いて議論はできなかったけど、後で父上や母様に相談してみようっていうことになった。

急ぎ目で屋敷に戻ったけど、もうメイリは昼食を食べ始めているところだった。

「兄様達、遅いわよ」
「あ、メイリ、美味しそうなもの食べてる!」

メイリが食べていたのは、丸く焼いたフカフカのパンを半分に切って、間に魔魚の切り身に味付けをしてから粉を振って油で揚げたものを挟んだものだ。香ばしい美味しそうな匂いが漂っている。

「ちゃんと兄様達の分も用意してくれているわよ」
「やった!」
「わーい!」

揚げた魔魚肉にタルタルソースが掛かっていて、一緒に挟んでいるチーズとシャキシャキしたレタスとの相性も抜群に良い。
僕と兄上が昼食に間に合わないかもしれないって言っていたから、ジャックは急いで食べられるものを用意してくれていたようだ。
食べきれなくても持ち運べる。
でも、凄く美味しくてあっという間に食べ終わってしまった。

「美味しい!いくらでも食べられそう!」
「ゆっくり食べられる時にまた作ってもらおう。さあ、行こう」
「行ってらっしゃい!」

デザートのベリーのタルトは、おやつの時間に食べることにして、訓練場に向かった。

魔魚サンドが美味しかったのでテンションが上がっていたんだけど、訓練場に近づいたら、妙に緊迫したような空気が漂ってきているのを感じて気持ちがトーンダウンする。

朝に訓練場を使っていた時よりも警備の騎士が多い。
入り口に近づいたら知らない騎士にジロリと睨まれてしまった。
別の騎士がその騎士に何か耳打ちした。

「……武器は……所持されてませんね。どうぞ」
「え……」

どうやら、帯剣とかしていたら取り上げられそうな空気だ。剣も槍も「収納」に入っているけど黙っていよう。
武器チェックって感じでジロジロと見られたけど、身体検査まではされなかった。
そもそも訓練場の中には訓練用の剣や弓があるし、形式的なチェックだったのかもしれない。

僕と兄上が訓練場の中に入ってから少しして殿下達が到着した。
僕と兄上の姿を見ると、殿下達が表情を緩めた。

「やあ、午前中は何処かに出かけてたのかい?」
「はい。ちょっと町の知り合いの所に行ってました」

ネイサン殿下が片手を上げて声をかけてくれた。僕と兄上はお辞儀をしてから答えた。泉のことは秘密なので、薬師のおばあちゃんのところに行ったことの話をする。

「そうか。僕らは午前中は座学だったよ。……君達とまた狩りに行きたかったな」

ネイサン殿下が少し寂しそうに微笑んだ。
「狩りに行きたかった」ってことは、もう狩りには行かないってことなんだろうか。
狩り場の案内をしただけで、一緒に狩りをした感じではなかったんだけど、それでも僕と兄上が同行した意義はあったのかな。

「もう、狩りは終了なんですか?」
「うーん……、そうだね。目的だった角兎は狩ったからね……。ね?」

ネイサン殿下は僕の質問に答えると、同意を得るようにハロルド君の方を見た。ハロルド君と隣に居たシェリル嬢が頷いた。リネリア嬢だけは迷ったように視線を彷徨わせていた。

ハロルド君が指先でクイッと眼鏡の位置を直した。姿勢も正して口を開いた。

「……学園の入学試験の対策としては、狩りの体験は十分です。魔法や弓の命中率対策は屋内でもできますし」
「私はもうちょっと狩りをしてみたかった……、けど、面接試験で狩りの事を聞かれても、バッチリ答えられるわ」

シェリル嬢がもっと狩りをしたかったと言うようなことを言いかけたら、ハロルド君がピクっと眉を動かした。

もう狩りは十分ってことにしたいのかな。
「初討伐」のお祝いの宴の前までは、最後の狩りと言うようなことは言っていなかったから、「毒事件」の影響なんだろうなって思う。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...