転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第168話 試験形式の魔法訓練

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殿下達の狩りの訓練がもう終わりってことは、王都や領地に帰るんだろうか。
訊いて良いんだろうか。「帰って欲しい」って言っているみたいになっちゃうかな。
そもそも、元々の滞在予定期間がどの位なのか聞いてなかったなぁ。


話しかけようか迷っているうちに、殿下達は騎士の案内で的場の方に向かっていった。
殿下達の後ろをゾロゾロと騎士の人達の列が続く。僕と兄上は騎士の列の後ろからついて行った。

「それでは試験と同じ形式で実施しましょう」

前の方から声が聞こえるんだけど、騎士の人達の背中が壁になっていて様子が見えない。
どうしたものかと思っていたら、兄上が僕の袖を引っ張った。

的場に向かう通路を離れて、訓練場の壁際に向かう。離れただけでも結構様子が見えるようになったけど、壁際の道具入れの上によじ登って腰を下ろした。
殿下達四人の様子がしっかり視界に入るようになった。

「ここからなら見えるね」
「そうだな」

兄上は的場の方に目を向けたまま返事をした。試験の形式って言っていたから様子が気になるのかな。

騎士が手を上げて合図をするとネイサン殿下が前に出た。

「火よ……。燃え上がる火の精霊よ……」

詠唱の言葉がチラリと聞こえた。ヒュルヒュルと火球が飛び、的の端を掠めた。

「ああ!」
「お見事!的に当たりました!」
「お見事です!以前より威力が増していますね!」
「素晴らしいです!」

ネイサン殿下の残念そうな声の後に、賞賛の声が上がる。ザワザワした声は、ネイサン殿下が手を前に突き出した姿勢をとると静まった。

二発目の火球は的の手前に落ちた。三発目は的を超えて行った。

パチパチと拍手が湧き起こる。

「素晴らしいです!合格基準は的までの距離が届いていることですから、充分満たしています!」

殿下達のすぐ近くにいた騎士が、よく通る声でいうと拍手が鳴り響いた。
拍手している人達に囲まれて、殿下は肩をすくめた。

次はハロルド君だ。

「風よ。吹き荒ぶ風の精霊よ……」

ハロルド君の詠唱と共に、風が的の上方を通過していった。二発目も的を逸れる。

「あああ!」

シェリル嬢が悔しそうな声を上げたのが聞こえた。

「ハロルド、頑張って!」
「ああ」

シェリル嬢の声援にハロルド君が頷いた。すっと手を前に突き出して、スーッと深く息を吸い込んだ。
前に突き出しているハロルド君の肘から手の先までが緑色の魔力で覆われて、徐々に手の先の方に押し出されるように集まっていく。

前の二発より遥かに多めの魔力を帯びて放たれた風が的の上部にあたり、的を大きく揺らした。

「当たったわよね!的が揺れたわ!」

シェリル嬢の嬉しそうな声が響く。

「おお!見事だ。ハロルド!」

パチパチとネイサン殿下が手を叩いた。

「お見事ですわ!」

リネリア嬢も拍手をする。

ハロルド君が黙ってお辞儀をした。
なんだか余り嬉しそうじゃない?それに最初の二発は適当だったみたいに見えた。

「……大変だな……」

ボソリと隣で兄上が呟いたのが聞こえて、僕は兄上の顔を見た。兄上はチラリと僕の方に目線を投げてから口の端を少し上げた。

「参考になるよ」
「風魔法なのに?」

兄上は、火属性が強いから魔法を放つとしたら火球だとかの火魔法だと思う。それなのに参考になるとしたらなんだろう。

「試験の形式って言ってたからな。的を超えたり、的の位置まで魔法が達したら命中じゃなくても合格点だ。
でも、風魔法は的に当たらないと分かりにくいんだよな。的を揺らしたからちゃんと当てたのがわかるし、良い方法だと思う」
「最初の二発は狙ってなさそうだったよね。的の位置は超えてたけど」
「んー……。……試験は一発でもしっかり当たっていれば十分なんだろう」

兄上が、微妙な言い回しをしているような気がする。
声が聞こえそうな範囲に騎士が立っているから、あまり詳しく言いたくないのかな。
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