転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第169話 上達

ガタンガタンと的場の方から音が聞こえた。目を向けると的の位置の辺りから魔法陣が浮かび上がった。
どうやら新しい的を設置しているようだ。
シェリル嬢が的の前に緊張した様子で立っていて、じっと的を見つめている。

「再配置終わりました！」

ハロルド君の風魔法が当たって的の位置が少しズレたのかな。的の位置を直していたようだ。
騎士達が的の側を離れると、シェリル嬢が右手を前に突き出した。

「水よ。流麗なる水の精霊よ……」

畑に水を撒くように水が出た。的の根元に降り注ぐ。

「水よ！」

二発目は、バケツを振り回して中の水を飛ばしたみたいな状態になった。

「ああー、また外れたわ！」
「シェリル、落ち着いて」
「ええ」

シェリル嬢が深呼吸をしてから三発目に放った水魔法は、バシャーンと的に降りかかった。

「当たった…かしら？」
「確認します！」

騎士が的に向かって駆けていく。的の前に立ってじっと的を観察していた。
騎士が的を指差した。

「的が水に濡れています！水魔法によるものかと！」
「え！当たってたのね！よかった！」

水魔法が当たったというか、水魔法で出た水の水飛沫がかかったって感じではあった。的に届いたから多分合格ラインなんだろう。
前に見た時より威力が増していると思う。

シェリル嬢は剣を使うのが好きっていうイメージだったけど、角兎狩りの時とかも、魔法も使って訓練をしていたのかな。

シェリル嬢が使った後の的は、位置を直す必要はなかったみたいだけど、布で水飛沫を拭く必要があったようだ。
リネリア嬢も水魔法を使うからね。
拭いておかないと、リネリア嬢の水魔法なのかが分かりにくいんだろう。

リネリア嬢は手を挙げて、三人を振り返った。

「わ、私、魔法と弓の両方を試したいのですけど……」

ちょっと遠慮がちなオドオドした口調で言う。ネイサン殿下がニコニコしながら頷いた。

「いいんじゃないか？そもそもこれは練習だし、魔法も弓も存分に試すと良いと思うよ」
「ありがとうございます。では、最初は弓で、二本目からは魔法にします」
「あれ、一セットのうちで両方ってことだったんだね。いいよ、どうぞ」

リネリア嬢がお辞儀をして、弓を手にして的の前に立った。
矢は的の手前に落ちてしまった。でも背びれイタチ狩りの時よりも遠くに飛ぶようになったと思う。

矢が的に当たらなかったことを悔しがっている感じでもなく、淡々と弓と矢を台の上に置いて手を前に突き出す姿勢をとった。

「水よ。流麗なる水の精霊よ。我に力を貸したまえ……」

リネリア嬢はゆっくりと詠唱をした後、一呼吸くらいの間を開けて魔法を発動させた。

水の玉が弧を描いて飛んでいく。バシャン！

リネリア嬢が放った水の玉が的の下部分に当たった。

「当たりましたわ！」
「凄いじゃない！リネリア！」

リネリア嬢とシェリル嬢がはしゃいだ声を上げた。パチパチと殿下とハロルド君が拍手をする。

三発目は的を外したけれど、詠唱で噛むこともなかったし、詠唱をしっかり言い終わってから、落ち着いて魔法を発動するようにしているようだった。