この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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「‥あの、サイラス様?」

カロクは、自身をきつく抱きしめたまま動かなくなってしまったサイラスに声をかける。聞き間違いでなければ、可愛いと言われた気がする。その言葉に、ジワジワとカロクの頬が淡く染まった。

「‥‥このまま連れて帰りてぇな。」

ポツリと落とされる言葉に、今度こそカロクの頬は真っ赤に染まった。

「その、嫌ではないのですか‥?」

カロクが問う。
すると僅かに顔を上げたサイラスの灰青の瞳が、カロクを捉えた。その瞳は、いつになく嬉しそうに細められている。初めて見るサイラスの瞳に、カロクの鼓動がドキンと跳ねた。

「嫌なわけがないだろう。」

ニカリと無邪気にサイラスが笑う。
まるで少年のようなその笑顔に、カロクの心臓はドキドキと忙しなく脈を打った。鼻歌まで歌いそうな、そんな嬉しそうなサイラスを見たのは初めてだ。
カロクは落ち着かなくなって、視線を落とす。

「俺を取り上げられたら魔王に堕ちる、か。ハハッ、すげぇ殺し文句。」
「さ、サイラス様‥ッ」

改めて口にされると羞恥心がわきあがり、カロクは咎めるようにサイラスの名を呼んだ。

「こんな気持ちは初めてだ。
なぁ、カロク。俺はお前といると色んな感情を知る事が出来る。」

そう言ってサイラスが笑う。

「だがな、タガが外れて困るのはお前だけじゃない。むしろ、危険なのは俺の方だ。

お前は気づいていないが、俺はお前が思っているほど出来た人間じゃない。」

そう言ってサイラスは、カロクを背中から抱き直すとその耳に唇を寄せた。

「今の俺は、あの家庭教師と同じだ。お前を閉じ込めて、穢してやりたいとそう思っている。」
「‥‥ッ!!」

フッ、と吐息と共に吹き込まれたサイラスの言葉に、ゾクリとカロクの背が粟立った。
不意に不穏な空気を纏うサイラスに、黒鳶がギッ、とサイラスを睨む。しかしサイラスは気にすることなく、真っ赤に染まったカロクのその耳に自らの唇を寄せた。

「卒業するまでは、と思ってはいるが、お前が俺に色んな感情を与えるから、俺の方こそタガが外れそうになる。」

ゆっくりと唇で外耳を辿り、その下に下がる耳朶を食む。

「なりふり構わずお前を攫って、この腕の中に閉じ込めて。ベッドの上にお前をぬい止めて、その体ごと全てを奪いたくなる。」
「‥‥っ」

熱を帯びたサイラスの言葉が、カロクの鼓膜を震わせる。ヌルりと熱い粘膜が耳朶を這い、ジンッと甘く痺れるような快感が項をかけた。

「お前の滑らかな肌を舐めて、しゃぶって、グズグズに溶かして。お前自身が触れたことのない奥の奥まで、俺で満たしてやりたくなる。」
「は‥‥ッ」

下腹に添えられたサイラスの大きな手が、何かを教え込むかのようにグッと僅かに力が込められる。たったそれだけの事なのに、カロクはその言葉の先を想像してヒュッ、と息を飲み込んだ。

そんなカロクの様子に、サイラスはフッと苦笑を漏らす。期待と羞恥に震えるその体を、サイラスは恐怖と勘違いしたようだ。

「まぁそういう事だから、あまり俺を煽ってくれるな。」

そう言ってスッ、と離れようとするその指先をカロクは咄嗟に捕まえる。

「カロク‥?」

サイラスが問うようにその名を呼ぶ。
しかしカロクはそれに応えず、黒鳶へと視線を流した。

「黒鳶、戻れ。」

そんな主の命令に、黒鳶は不服そうに顔をしかめながらも闇に解けるようにその姿を霧散させた。カロクの意図が分からず、サイラスは首を傾げる。
しかしカロクはサイラスと視線を合わせぬまま、捕まえたその指先をキュッ、と握った。ドクドクと逸る鼓動は、まるで鼓膜のすぐ側で鳴っているようだ。けれど、このまま何も言わなければ、サイラスはまた大人の顔で離れていってしまうだろう。

「サイラス様‥」

カロクがゆっくりと視線をあげる。パチリとかち合うその視線に、サイラスは思わず怯んだ。
熱の灯った碧眼は甘く潤み、複雑に反射する7つの光がちらちらと欲を誘う。ほんのりと淡く染まった目元で、強請るように見つめられれば、サイラスの理性はぐらりと揺れた。

サイラスは決して鈍い男では無い。カロクの何かを期待するようなその瞳が、何を求めているのかぐらい理解出来る。

「‥‥ダメだ。卒業まではしないと、そう言っただろう?」

サイラスが言う。

「僕もう、子供じゃないよ?」

カロクはそう返すと、捕まえた指先に自身の指先を絡ませる。そのままゆっくりと辿るように手首へと指先を這わせると、そのままそのしなやかな指先を包む黒革の手袋の中へと自らの指先を侵入させた。

「子供だと思っていないから問題なんだ。」

サイラスが言う。
しかし焦らすように手甲を這いながら手袋を外そうとするカロクの指先を、制止する動きはない。

「‥外してよ。僕ばかり、ずるい。」
「‥‥ッ」

そう言ってカロクは手袋の隙間から除く手のひらに、自らの唇を近づける。そのままゆっくりと唇を押し付けてサイラスの硬い手のひらの感触を楽しんでから、舌先を差し出してチロリと舐めた。

「‥カロクッ。」

サイラスが咎めるようにその名を呼ぶ。
しかしカロクは意に介せず、もう一方の手で手袋を摘むようにして外すと、掌から指先へとその薄い舌を這わせた。

香り立つようなカロクの色気に、サイラスは思わず視線を伏せる。幼い頃に見たそれとは比較にならぬ妖艶さを纏うカロクに、サイラスはまんまと中心を熱くしてしまっている自身に苦笑した。仕方ない、と言い訳をする。触れなければ、この場を収めることは出来ないだろうと。

「いつの間にそんな事覚えたんだか‥。」

サイラスが言う。
オーヴァンへの言い訳は後で考えよう、とサイラスは吹っ切ると、指先を辿るその唇を割開き、口腔内へとねじ込んだ。

「‥‥なら、予行練習としようか。」

その耳元に、低く落とす。
いつになく艶っぽいサイラスの声色に、カロクはコクリと唾を飲み込んだ。
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