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第三章 『子猫』を拾いました
魔力が高いってどのぐらい?
しおりを挟む「なんで、話してくれたんですか?」
「それはソフィア様がご質問なさったのではありませんか」
それはそうなんだけど。
使用人たちは絶対に教えてくれなかったし、お義父さまだって教えてくれなかった。
オリヴァーさんは不思議そうにしているが、私にとってはその質問を返してくれたことが不思議で仕方ない。
「ああ。この屋敷の者たちはどうやら過保護みたいなので、知らなくても無理がないかも知れません。だからこそ、知らなくてはいけない。俺はそう思ってます」
オリヴァーさんってしっかりした考えを持ってるのね。
私自身、知りたいと思っていたこと。
教えてくれるのはとても助かる。
子供だからまだ知らなくて良いとか、そんなことを言わない彼に好感を持てる。
知らないと困るのは私自身なわけで、この屋敷にいる人たちは私を子供扱いしていて、そういうことを話してくれなかった。
逆に可愛がられてたと考えることも出来たけど、知らないといけないことを先延ばしにされていて困っていたのは事実。少しでも知れて本当に良かった。
そういえば、オリヴァーさんってアレン王太子殿下の護衛騎士。
失礼かもしれないけど、強そうなイメージないのよね。
「オリヴァーさんって、殿下の護衛騎士様.....なのですよね? 誰かの推薦でしょうか?」
オリヴァーさんは小柄で力が強いようには見えないし、なによりも体格がいい相手に勝てるのかって考えると、とても不安になる。ただ、彼の腕前を見てないからなんだけど。
「いいえ、推薦ではありません」
そう言ったオリヴァーさんは私に短剣を見せてきた。
それは、二頭のドラゴンの模様が入った短剣だった。
私はその短剣をはじめて見たが、二頭のドラゴンの模様は見たことがあった。
「竜騎士の証」
「はい。その通りです」
竜騎士は、竜と縁が深い者。この世界のドラゴンとは、精霊を示す。
竜騎士になった人は、何体ものドラゴンを使役していると聞く。なりたくてなれるものではないし、数少ないからかなり貴重な人物なのだと、ノア先生が言っていた。
オリヴァーさんって凄い人なんだな。
「それならキースさんも竜騎士なのですか?」
「はい、そうですよ。ほとんどの王族の護衛騎士は竜騎士です」
ほとんどが竜騎士!?
数少ないってどのぐらい少ないのよ!?
私が想像していたのは指で数える程度。でも王族のほとんどの護衛騎士が竜騎士だと聞かされれば、私が思っていたよりも多いのかも知れない。
でもそれじゃあ、あの騎士の家系でも竜騎士と関わりがあるのかしら。
クリスタ家。ノエルがお世話になっている貴族。
そういえば、クリスタ家に、攻略対象キャラが一人いたわね。双子の妹を溺愛している彼。
ゲームでは、悪役令嬢のソフィアは彼とはあんまり関わりがない。関わりを持たないくせにクリスタ家の伝統行事に巻き込まれてソフィアは死んでしまう。
一番可哀想な死に方ですよ。いくら悪役令嬢だからってこの扱いは酷いと思ったのは、私だけじゃなかったらしく、ネットで検索してみればちょこっと炎上騒ぎになっていた。すぐに落ち着いたけど。
彼ルートの死亡フラグを回避するには一切関わらないのが良いと思っている。そもそも、嫌われてるしね。理由は分からないけど、最初から嫌われていた。
一体、彼になにをしたら嫌われるのだろうか。
「ドラゴン、見たいですか?」
「え.....?」
竜騎士だと知りかなり驚いていたことが、ドラゴン見たさに好奇心な目を向けているのだと勘違いさせてしまったらしく、オリヴァーさんはクスリと笑って私に聞いてきた。
ごめんなさい。驚きつつも内心は違うことを考えてました。
確かドラゴンは精霊だから、気性が荒い存在だと誰かに……。
「いいえ、気性が荒いのでしょう。なら、私は遠慮します」
「よくご存知で。あんまり知れ渡っていないのですが」
気性が荒いと手懐ける自信が無い。そもそも手懐けるつもりはないんだけど。
オリヴァーさんは驚いた顔をしている。
正直、私も驚いていた。今まで精霊のことはあまり教わっていない。竜騎士のことに関しても必要最小限のことしか教わっていないのだから。
「私自身、誰から教わった情報なのかは覚えてませんが、精霊は気性が荒いと」
私は誰にそのことを教わったのだろう……?
「精霊。ああ、そうか。ドラゴンは確かに精霊ですが、ドラゴンは、小さな精霊が集まって進化した姿とも言われています。精霊の主みたいなものでしょうか。精霊の中でも魔力が高い存在なんです。俺たち竜騎士は、ドラゴンと呼んでいます。精霊は謎深い生き物ですし、俺も知らないことがまだまだ多いんです。ソフィア様ならドラゴンも懐くと思いますが、個人差もありますから、見たくなったらいつでも言ってください。ただ、特別な訓練をしている竜騎士と違って、普通の人には精霊は裸眼だと見えにくいので、特別な加工をした眼鏡をかけてもらいますけど」
私はなにも言わず、頷いた。
そんな日は、一生来ないことを願うわ。
見たいか見たくないかで聞かれると、見たいよ! ものすごく見たい!
でもね、ドラゴンですよ。しかも気性が荒い!
下手すれば死ぬんじゃないかって思うの。隣に竜騎士はいるけども、万が一のことを考えるととても怖い。
魔力が高いってどのくらい?
私ならってなに!?
余計に怖いんだけど!
ゲームの世界とはいえ、ソフィア・デメトリアスの人生は一度きり。死んだら最後。
前世がほとんど引きこもりだったもの。それが今ではすごく後悔してる。あの時にああすれば良かった、こうすれば良かった。そんなことをたまに考えてしまう。
「少し肌寒くなってきましたね。中に入りましょうか」
オリヴァーさんは結界を解いた。
「あっ、あの。結界はいつ直るんでしょうか?」
「ああ。今、取り組んでおります。ですが、数日ぐらいはかかりますね」
「そうですか」
私は、オリヴァーさんを包んでいた結界を見て、屋敷に張られている結界が心配になった。
「気付くのが早くて助かりました。結界が消えてから気付いた貴族様が、文句を言いに来ることが少なくないんです」
それは……お疲れ様です。
早く結界が直れば良いのに。そうすれば、多分護衛はしなくて済む。
王太子殿下の護衛をしてる人がなぜ私の護衛に付いたのかは謎だけど、結界が弱くなったから私の護衛をしているのだと思う。
守られてばかりというのは、とても気持ちが良いものでは無い。
早く、魔法を覚えて強くなりたい。
守られる存在じゃなく、守る存在として。
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