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第三章 『子猫』を拾いました

なんだか仲間外れみたい

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 おかしい。絶対におかしい。

 なにがおかしいのかって。それはもう、この状況でしょうよ。

 ついさっきまで王太子殿下の護衛をやっていた人が、なんで私の護衛をしてるのか。
 私、王族の人間じゃないし、関係者でもないはず。
 殿下が言うには、『とある事件で各地の貴族に護衛をつけている』らしい。
 そのとある事件があったとしても護衛をつけるのかしら?
 しかも、同年代のような容姿をしてるけど、成人はしてるのかな?

 話しかけていいものか、もう少し様子見してみるべきか。

 チラッと、彼を見ると目が合い、彼は瞳を伏せ、頭を下げた。

「申し訳ありません」
「……いいえ」

 さっきからそんな会話が数回。これが『この世界での』普通の反応なんだろうけど、なんというかむず痒い……。
 慣れているようで慣れていなかった。

 ほら、アイリスも困惑してるんじゃと思っていたが、前もって聞かされていたのか、至って冷静。

 困惑してるのは私だけ。

 なにも知らさせていなかったのは、今回のことだけじゃない。
 あの出来事が昨日のことのように思い出して、無性に恥ずかしくなる。

 早朝、なぜか王様と殿下がお見えになったあの日。私はそのことを聞かされていなかった。
 もし、聞かされていたらあんなことにはならなかったんじゃ……って、人のせいにして自分のおかした過ちを軽くしようとする自分の情けなさに呆れてしまう。

 中世ヨーロッパに似た世界だけど、中世ヨーロッパのようにそんなに厳しくはない?

 殿下の護衛なら、なにか知ってるのかも。

「あの、オリヴァーさん。不躾な質問になると思うのですが、よろしいでしょうか?」

 私は思い切って切り出すことにした。
 オリヴァーさんは、眉をひそめたが、それは一瞬の出来事。すぐに笑みを浮かべて頷いた。

「とある早朝のことです。王様と殿下がお見えになった日がありました。その、普通なら私が来訪しないといけないはずなんです。今日のことだってそうじゃないですか。おかしくありませんか? どういうことなのでしょう」

 その疑問を教えて欲しい。それは、ずっと知りたかったこと。
 理由が分からないのに、この世界ではこうなのかと、勝手に一人で納得するような無神経さは残念ながら持ち合わせていない。

「ああ……俺も詳しくは知らないのですが」

 オリヴァーさんの視線がアイリスに向いているのに気付いて、聞かれたらまずいことなのかもと思った私はアイリスに一旦離れるように言うとアイリスは深々と頭を下げて、離れていった。

 今いる場所はテラス。アイリスが離れたとしても、他の使用人達がいる。二人でゆっくり話せる場所はないものか。

 考え込んでいたら、オリヴァーさんが小さな魔導具を取り出した。
 見た目はブレスレットのような形をしている。
 はじめて見る魔導具だ。

「あの、それは?」
「結界を張るんです。その、念の為に」

 そんなものが、あるとは!?

 オリヴァーさんはブレスレットを付けて魔法石に触れると、私とオリヴァーさんの周りに透明な結界が張られた。

「この魔導具は、音を外に漏らさないように作られています。外部からは、結界が張られてるというのは分かりません。ご安心を」
「……そう、なのですね」

 この魔導具を使うということは、やっぱり聞かれると困ることがあるということ。

「では、質問に答えますと、ソフィア様は外には出られないんです」

 出られない?
 それはなぜ?

「それは、皇帝陛下様に許可を貰ったとしてもですか?」
「はい。今は、詳しいことは申し上げられません。早朝に王様、アレン王太子殿下様がお見えになった理由は、ソフィア様がお目覚めになる前に話を終わらせようとしたためです。この屋敷に張ってある結界は他の貴族屋敷に張ってある結界とは少し違うんです」

 どうしよう。言ってる意味がよく分からない。
 なんで私が目覚める前に話を終わらすの? 私に聞かれてはいけないことでもあると言うの? それなら挨拶を済ましてすぐにその場から離れるわ。

「強力な結界を張るために、敷地を見ようと訪れたのです。それは、王様が直に見て頂かないと、他の者が勝手な判断で結界を張ってしまうと処罰されかねませんから。昔、勝手に屋敷に結界を張った者がいまして、その屋敷と結界を張った者は灰になって消えたと言います」
「灰に!?」
「はい。その屋敷内にいる人達の魔力の量によって結界に使う魔力量が変わってきます。その量がわからずに結界を張ると灰になって消えてしまうんです。運良く生き残っていたとしても、処刑は免れません。自分の勝手な行動で多くの人が死にますから」

 屋敷で働いている使用人、貴族。それを考えるとどれぐらいの犠牲なのだろう。
 かなりの大人数なのは間違いないけど、ゾッとする話だ。

「王様は、その魔力量を知ってると?」
「そうですね。王様にしか、使ってはいけない魔導具がありまして、それで判断するんです。ただ、ソフィア様の言ってることは正しいですが、それ相応の理由があります。突然なことで慌てたことでしょうが、全てはソフィア様を思ってのこと」

 『だからわかってほしい』と、そう言いたいのだろう。
 全ては私のため。そんなことはわかってる。

「なんだか仲間外れみたい」

 ボソッと呟いた言葉はオリヴァーさんには届いていなかったようで聞き返してきたが、私は「なんでもない」と言うと、彼は苦笑を浮かべた。


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