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第四章 『対話』する方法を見つけました!
貴族に蹴りをくらわす令嬢なんて、聞いたことがない【イアン視点】
しおりを挟むデメトリアス家の客室のソファで紅茶を飲んでいた。
静かな部屋でのんびり過ごすのはいつぶりだろうか。
少しの間、滞在することになったのはいいが、自分の家が恋しいと思ってしまう。
それに、リアが心配だ。
リアというのは、俺の双子の妹。イリア・クリスタ。俺は愛称で呼んでいる。
歳の近い異性、ノエル様が滞在しているんだ。兄として心配するのは当然のこと。
断じて、ホームシックではない。
ノエル様といえば以前、ノエル・デメトリアス様が自分の姉のことを楽しそうに話してるのを思い出した。
はじめに聞いた時はそんな令嬢はいるわけがないだろうと思ったっけ。
偏見かも知れないが、俺の中の令嬢とはおしとやかで上品なイメージが強い。
現にリアがそうなのだから。
ノエル様に聞いたソフィア様は、やらかし令嬢とのこと。
ハプニングの数々を聞いてるとちょっと笑えてくる。
多少盛って話をしてるのかと思ってたけど、この間のソフィア様の行動を思い返せば確かにやらかし令嬢だなと納得してしまう。
油断してしまった俺も悪いんだけど……普通、貴族に蹴りをくらわす令嬢なんて今まで聞いた事なかったから。
それにいくら困惑したからといって、ナイフで斬りつけようとしたのは度胸があるなと思った。
女性の力では男性には敵わない。それなのに自分の身が危ないと思って防衛本能で斬りつけてきたのかと思ったが、違っていた。
彼女は、子猫サイズに体を斬ってしまおうとしたんだ。
心臓を傷つけなければ死なないと思い込んでいたらしい。
あまりのバカさに俺は笑うのを必死に我慢した。
顔がにやけそうだったので「バカじゃねぇの」と、罵ってしまった。
ソフィア様の行動は予想外すぎて困る。予想の遥か上をいく。
でも、不思議とそれも悪くはないと思ってしまう自分がいるんだよな。
周りから勝手に期待され、天才だとおだてられ、その期待に応えられるようにと気を張って生きてきた。
それが辛すぎて悩んでいたある日、この悩みから解放されると思って謎の男からとある薬を受け取ってしまった。
まさか子猫になるとは思わなかったけど。
きっと、帝国でも大慌てなんだろうな。
あとで父様にドヤされる。
「……さて、と」
紅茶のおかわりと菓子を貰いに行こうと部屋を出ようと扉を開けるとゴンッと、鈍い音が聞こえた。
「え!? ソフィア様!」
扉を開けたすぐそこにソフィア様が額を擦りながらちょっと涙目になりながら立っていた。
「あっ……クッキーを、えっと……」
ソフィア様は言いずらそうに口篭り、やたらと目を泳がせている。
綺麗にラッピングしてある袋を大事そうに握っている。
そんなことよりも、
「大丈夫か? 俺の不注意で、ごめん」
「い、いえ。私が注意不足なのがイケないんです。すみません」
そっと額に触れようとしたらソフィア様は慌てて後ろに一歩下がる。
「あ、の。イアン様……お茶しませんか?」
「あ、ああ。構わないけど」
ソフィア様は、さっきまでおどおどしていたのに落ち着いた表情になる。
こいつ、コロコロ表情が変わって面白いな。
ーーーーーーーーー
ーー……これはなんだろうか。
お皿の上には歪な形の菓子が盛り付けられている。
さっきソフィア様が持っていた袋から出してお皿に盛り付けた。
クッキーがどうとかって言ってたけど、これがクッキー?
見えないんだが。
侍女に用意してもらった紅茶を飲む。
歪な菓子には手をつけない。食べていいものがどうかがわからないから。
ソフィア様を見ると少し顔を強ばらせたかと思ったら、必死に笑顔を作って愛想笑いをしている。
ソフィア様は作り笑顔が下手だな。ものすごく不自然だ。
もしかして、毒でも盛ってんのか?
紅茶には盛ってなさそうだし、盛ってるとしたら……歪な菓子だろうな。
さっきからソフィア様もこの歪な菓子を気にしてるから毒じゃないにしろ、なにかあるんだろ。
「その菓子、不思議な形してんのな」
「へ!? あっ、はい。私は普通だと思います!」
「ふぅん」
ソフィア様も紅茶ばかり飲んでいて、菓子には手をつけてない。
普通ならもうとっくに食べてもいいと思うが。
嘘が下手なんだな。
まぁ、わかりやすくて助かるけど。
俺は歪な菓子を一つ掴んでソフィア様の口元に持っていく。
「食べないのか?」
ソフィア様は驚いて目を大きく見開いている。
「ほら、口開けろ」
「い、いえ。あの……え?」
「普通なんだろ? だったら食べれるでしょ」
「いえ、その」
食べないか、やっぱりなにか入ってたのか。
そう思っていたら、ソフィア様は口を開けて俺がソフィア様の口元に持っていた歪な菓子を食べた。
ソフィア様は恥ずかしそうに口を手で押さえている。
これは毒ではない。 じゃあなんだ。というか、食べても平気なのか?
こんな歪な菓子見たことないから、なにか入ってるのかと疑ったが、ソフィア様の反応を見るとなにも入ってはいない……のか。
「おい、お前」
俺はソフィア様の両肩を掴んだ。
「その菓子って」
「あっ。えっと……。私が作ったクッキーなんですが、ダメでしたね」
作った?
こんな歪な菓子が。でも何のために。
ああ、そうか。確かこいつは、王太子殿下のこと好きなんだったか。
この屋敷の侍女達が話してるのをたまたま聞いただけだけど。
ようするに殿下の好感度を上げたくてクッキーを作って女子力をアピールしようとしたが、上手くいかずその失敗作を俺に食べさせようとした。
というところか。
……やってくれるな、俺も舐められたものだ。
大方、見た目通りな味なんだろう。
そう思い、歪な菓子(クッキー)を一つ掴んで食べる。
「……意外にうまいな」
若干硬いが味は悪くはなかった。もう少し工夫すればもっと美味くなりそうだ。
ソフィア様を見れば嬉しそうにしていた。
そりゃあ嬉しいわな。
女って生き物は好きな奴を想って一生懸命努力をするものだからな。
失敗作だろうが、褒められれば嬉しくないはずはない。
……複雑だけど。
「良かったぁ。イアン様って甘いもの好きだから、クッキー焼いたんですが、形がアレだったので……恥ずかしくてなかなか言えなくて」
「は? お前、殿下のためにクッキー作ったんじゃねぇの?」
「?? 違いますけど」
…………。
「お前、そういうことは先に言えよ」
「え? ええ!?」
俺は苦笑した。
ソフィア様はなんでそう言われたのかわからないという表情をしている。
口下手なのか、人見知りなのか……。
どっちにしろ、こいつは変わり者だな。
まぁでも、何かを頑張る姿勢は嫌いじゃないけど。
ソフィア様の手首には包帯が巻かれていた。袖で見えづらいが、きっとたくさん作って、たくさん失敗したんだろう。
俺はリアのために菓子作りをよくするからその大変さがわかる。
男がお菓子作りをしてるって言うと、大抵の人は引くだろう。
でも俺は、剣よりも誰かのためを想いながら菓子を作ってた方が好きなんだよな。
そんな俺の考えは、誰にもわかってもらえないがな。
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