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第五章 庭師『クラレンス』
指輪の意味
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「俺、あいつ苦手なんだよなぁ」
紅茶を飲んだあと、イアン様は告白してきた。
あいつって誰?
「あいつ。なんだっけ……、庭師の」
「クラレンスさん?」
「そう! そいつな」
そういえば、クラレンスさんは故郷に帰って、戻ってきたんだよね。
以前よりも雰囲気が違う気はするけど……。
特に気にならないけどなぁ。
「なにかあったんですか?」
「あったというよりも……、あいつお前のことを気にしすぎてんだよ。庭で稽古中の時もあいつは薔薇を手入れするフリをしながらお前を見てた」
「そうなんですかぁ……え?」
イアン様は愚痴りたいのかと思って聞いてみたら、予想外の言葉が返ってきて戸惑った。
待って、どういうこと!?
「それを言うなら侍女たちも私を見守ってくれてますし、オリヴァーさんだって」
「そういうことじゃなくて、そのクラレンスとかいう奴、殺気立ってんだって」
「え、まさか、なにかの間違いでは?」
「いや、間違いじゃない。お前、あいつには気をつけろよ」
気をつけろって言われても……。
庭に出れば顔を合わすし、挨拶だって笑顔で返してくれる。
殺気なんて感じたことがない。
それに、なによりも。
故郷のお土産としてジュエリーボックスを貰った。
殺意がある相手にお土産として買ってくる?
いや、買ってくるか……。
ただ疑問なことといえばジュエリーボックスはかなりの高級品なはずなのに、クラレンスさんが買ってこれたのかということ。
たまたま半額になってたって言ってたけど、半額になってても買える品物ではない。
クラレンスさんを疑うわけじゃないけど、念のために聞いてみようかな。ホント、念のために。
「これやる。まじないを刻んである指輪。一回だけ身を守ってくれるから、肌身離さず持ってろ」
イアン様はそう言って懐から指輪を取り出した。
それはピンキーリングのようだった。
プラチナの可愛らしい天使の翼をイメージした模様の間にはダイヤモンドがはめ込まれている。
この世界では、天使は『魔除け』なんだっけ。
負を祓う力があるとか。
日本だと天使って『幸せ』の象徴なのに、なんだか変な感じ。
私はイアン様からピンキーリングを受け取った。
「ありがとうございます」
「おう!」
猫の姿のイアン様とは最悪な出会い方はしてない。けど、人に戻った時のイアン様との出会いが最悪だった。
とんでもなくやらかしたあの事件。今ではこうして笑いあえるのが信じられない。
一歩間違えればゲーム本作と同じになるところだったんだもん!
イアン様と関わらないようにしようと思ってたのに深く関わってしまっている。
死亡フラグ大丈夫かな……、まだまだ先なのにそれが心配。
イアン様の好感度を上げといた方が……。いや、逆に好感度が下がりそう……。
そうじゃなくても好感度が下がってる気がするのに。
イアン様が広い心の持ち主だから、普通に会話出来てるんだから。
んー……、どうしたものか。
「ソフィア様」
「なんで……むぐ!?」
不意にイアン様に呼ばれたから返事をした瞬間、強引に口になにかを押し込んできた。
サクッとした食感と口いっぱいに広がる濃厚なバターの風味が堪らなく思わず笑みが零れた。
「心配すんな。この屋敷に俺がいる以上、俺がお前を守ってやるし、オリヴァーもいるしな」
ニカッと笑ったイアン様は私がクラレンスさんに殺意を向けられていることを不安に思ったのかと勘違いして元気付けようとしてるんだろう。
クラレンスさんは人に殺意を向けるような人ではない。クラレンスさんのことはなにも不安になってはいない。
イアン様は私よりもクラレンスさんと接したことないからまだわからないだけだ。
私の不安はイアン様の好感度がこれ以上、下がらないかということ。
せっかく太りだしたのにハードな稽古で痩せてしまった。
自分で選んだ道だけど、へこむ。
おかげさまで殿下には「美しさに磨きがかかったね」なんてお世辞を言われるはめに。
それを聞いた侍女たちは顔を赤くしてうっとりしていた。
殿下はとても心が広い。
失礼な態度をとった私に対してお咎めがなかったり、優しく笑いかけてくれる。
ただ、その笑顔に隠れた素顔が読み取れないからとても怖いけど。それが態度に出てしまって傷つけてしまった。
気の利いた言葉なんて分からないから、正直に話そう。多分その方がいい気がする。
さて、
イアン様が肌身離さず持ってろって言ってたから、無くさない様にと右手の小指にピンキーリングをはめることにした。
確か、『大切な人』への贈り物に指輪が定番なのよね。
……良かった。贈り物に菊の花とかじゃなくて。
まぁ、リングの方がまじないを込めやすかったんだろうな。
指輪の意味なんて関係なしに。
だって指輪は、好きな人に贈るものだと私は思ってる。
イアン様は絶対、私に好意なんて向けてないし……。
私もそういった目で見てないからお互い様か。
「大丈夫です。私、信じてますから」
イアン様は「お、おう」と軽く返事をして、顔を背けた。
顔を背けてしまって表情がよく見えないが、耳が赤く染まっていたので私は熱でもあるのではと心配になった。
近くにいる侍女を呼ぼうとしたら、イアン様に止められた。
紅茶を飲んだあと、イアン様は告白してきた。
あいつって誰?
「あいつ。なんだっけ……、庭師の」
「クラレンスさん?」
「そう! そいつな」
そういえば、クラレンスさんは故郷に帰って、戻ってきたんだよね。
以前よりも雰囲気が違う気はするけど……。
特に気にならないけどなぁ。
「なにかあったんですか?」
「あったというよりも……、あいつお前のことを気にしすぎてんだよ。庭で稽古中の時もあいつは薔薇を手入れするフリをしながらお前を見てた」
「そうなんですかぁ……え?」
イアン様は愚痴りたいのかと思って聞いてみたら、予想外の言葉が返ってきて戸惑った。
待って、どういうこと!?
「それを言うなら侍女たちも私を見守ってくれてますし、オリヴァーさんだって」
「そういうことじゃなくて、そのクラレンスとかいう奴、殺気立ってんだって」
「え、まさか、なにかの間違いでは?」
「いや、間違いじゃない。お前、あいつには気をつけろよ」
気をつけろって言われても……。
庭に出れば顔を合わすし、挨拶だって笑顔で返してくれる。
殺気なんて感じたことがない。
それに、なによりも。
故郷のお土産としてジュエリーボックスを貰った。
殺意がある相手にお土産として買ってくる?
いや、買ってくるか……。
ただ疑問なことといえばジュエリーボックスはかなりの高級品なはずなのに、クラレンスさんが買ってこれたのかということ。
たまたま半額になってたって言ってたけど、半額になってても買える品物ではない。
クラレンスさんを疑うわけじゃないけど、念のために聞いてみようかな。ホント、念のために。
「これやる。まじないを刻んである指輪。一回だけ身を守ってくれるから、肌身離さず持ってろ」
イアン様はそう言って懐から指輪を取り出した。
それはピンキーリングのようだった。
プラチナの可愛らしい天使の翼をイメージした模様の間にはダイヤモンドがはめ込まれている。
この世界では、天使は『魔除け』なんだっけ。
負を祓う力があるとか。
日本だと天使って『幸せ』の象徴なのに、なんだか変な感じ。
私はイアン様からピンキーリングを受け取った。
「ありがとうございます」
「おう!」
猫の姿のイアン様とは最悪な出会い方はしてない。けど、人に戻った時のイアン様との出会いが最悪だった。
とんでもなくやらかしたあの事件。今ではこうして笑いあえるのが信じられない。
一歩間違えればゲーム本作と同じになるところだったんだもん!
イアン様と関わらないようにしようと思ってたのに深く関わってしまっている。
死亡フラグ大丈夫かな……、まだまだ先なのにそれが心配。
イアン様の好感度を上げといた方が……。いや、逆に好感度が下がりそう……。
そうじゃなくても好感度が下がってる気がするのに。
イアン様が広い心の持ち主だから、普通に会話出来てるんだから。
んー……、どうしたものか。
「ソフィア様」
「なんで……むぐ!?」
不意にイアン様に呼ばれたから返事をした瞬間、強引に口になにかを押し込んできた。
サクッとした食感と口いっぱいに広がる濃厚なバターの風味が堪らなく思わず笑みが零れた。
「心配すんな。この屋敷に俺がいる以上、俺がお前を守ってやるし、オリヴァーもいるしな」
ニカッと笑ったイアン様は私がクラレンスさんに殺意を向けられていることを不安に思ったのかと勘違いして元気付けようとしてるんだろう。
クラレンスさんは人に殺意を向けるような人ではない。クラレンスさんのことはなにも不安になってはいない。
イアン様は私よりもクラレンスさんと接したことないからまだわからないだけだ。
私の不安はイアン様の好感度がこれ以上、下がらないかということ。
せっかく太りだしたのにハードな稽古で痩せてしまった。
自分で選んだ道だけど、へこむ。
おかげさまで殿下には「美しさに磨きがかかったね」なんてお世辞を言われるはめに。
それを聞いた侍女たちは顔を赤くしてうっとりしていた。
殿下はとても心が広い。
失礼な態度をとった私に対してお咎めがなかったり、優しく笑いかけてくれる。
ただ、その笑顔に隠れた素顔が読み取れないからとても怖いけど。それが態度に出てしまって傷つけてしまった。
気の利いた言葉なんて分からないから、正直に話そう。多分その方がいい気がする。
さて、
イアン様が肌身離さず持ってろって言ってたから、無くさない様にと右手の小指にピンキーリングをはめることにした。
確か、『大切な人』への贈り物に指輪が定番なのよね。
……良かった。贈り物に菊の花とかじゃなくて。
まぁ、リングの方がまじないを込めやすかったんだろうな。
指輪の意味なんて関係なしに。
だって指輪は、好きな人に贈るものだと私は思ってる。
イアン様は絶対、私に好意なんて向けてないし……。
私もそういった目で見てないからお互い様か。
「大丈夫です。私、信じてますから」
イアン様は「お、おう」と軽く返事をして、顔を背けた。
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近くにいる侍女を呼ぼうとしたら、イアン様に止められた。
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