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第六章 皇帝陛下の思惑
どこまでもネガティブなのは、私の悪い癖
しおりを挟む頭がボーッとする。
ダメダメ。今寝ちゃうのは。
マテオ様を膝枕してる状態なので眠るわけにはいかない。
相手は一度、私を殺そうとしていたんだから。
油断は出来ない。膝枕を許したのだって、マテオ様の機嫌を損なわないためなんだもん。
オリヴァーさんは休んでるって聞くし、私一人でどうにかなるとは思えない。
「眠い?」
「え、そんなことないですよ!」
「眠そう」
「い、いえ。そんなことは」
「そういえば疲れてるって言ってたっけ。俺はもうそろそろ行くけど」
そう言うとマテオ様は上半身を起こした。
「俺がいるから? それとも悪夢を見るから眠れない?」
「い、いえ。えっと……」
どうしよう。図星だからなにも言えない。
「あっ、ちょっと待ってて……ください」
マテオ様は、何かを思い出したようにぎこちない敬語を使いながら寝室を出ていった。
そもそも、私に敬語を使う時にぎこちないのは、プライドが邪魔してるのかもしれない。
他の人と話す時は、普通に敬語でも違和感ないもの。
普通でいいって言ってるのに、今は貴族じゃないからという理由で敬語を使ってるみたいだけど、その敬語もたまになんだよねぇ。
なんだかなぁ。
しばらくしてからマテオ様が戻ってきた。
手に何かを持っている。
「装飾品なんだけど、吉夢(ナイト・アンジュ)。良い夢を天使が運んでくれるようにって、願いを込めて作られてるんだ」
見せてきた装飾品は、天使をイメージした置物だった。
白い翼を広げ、祈りを捧げている。
「どうしたんですか? その置物」
「両親が持たせてくれたんだ。幸せになれますようにって、願いを込めて」
それは、本当の両親だよね。ベネット夫妻じゃないだろうから。
「そんな大切なものを?」
「持っててほしい。それと……、この前はやりすぎた」
この前って落とし穴の件だよね。
謝るのは私の方なんだけど、マテオ様なりに反省してるんだろうな。
「私も謝らなければなりません。マテオ様の気持ちを考えていませんでした」
そう、私はずっとマテオ様を避けてた。
ずっとベッドから動けなかったのもあると思うけど、それは私の言い訳ね。
「どうしても気まずくて避けていました。それが良くなかった。腹立ちましたよね、同じ屋敷にいるから余計に」
「どうしてそう思う?」
「マテオ様の気持ちを一番理解してるつもりだったから、避けていればいいと。嫌いな人と話すとストレス溜まるし、マテオ様は私のことが……」
「嫌いなのでしょう?」と、言いかけてやめた。
なにを言ってるんだろう。
前よりは距離が縮まったと思いたいのに。
自分から距離を置くようなことを言いかけてしまったのが、情けない。
人間関係のマニュアルが欲しい。
いや、その人の取扱説明書(トリセツ)が欲しい。
どこまでもネガティブ。
私の悪い癖。
良くないね、こういうの。
「ああ、違う。避けてたことじゃなくて、自分に対してイライラしてた。確かにソフィア様が羨ましいし、妬んでいたのは事実。だけど、ソフィア様と自分を重ねると、同じ魔術士の子供なのにこうも違うんだなって。そのイライラをソフィア様にぶつけてた。俺の自己中心的な態度だったのに、否定することなく向き合ってくれた。……嬉し、かった」
「マテオ様」
「ありがと」
マテオ様は頬を赤く染めて、不器用ながらもお礼を言う。
私が口を開いたとほぼ同時にノック音がした。
アイリスの声がしたので返事をする。
扉を開けて入ってくるアイリス。
マテオ様はアイリスに一礼してから出ていこうとしたが立ち止まって私を見た。
「俺、嫌いじゃない……ですよ。ソフィア様のこと」
それだけ言い残し、去っていった。
嫌いじゃない……かぁ。
あっ、あれ。おかしいな。
悲しくないのに、辛くないのに、涙が出てきた。
涙が溢れて止まらない私を見たアイリスは慌てふためいた。
「え!? ど、どうしたんですか!?」
「ち、違うの!! その、なんていうか」
「……良かったですね」
アイリスは何かを察したのか、優しく微笑んだ。
私は勢いよく首を上下に振った。
鏡を見なくてもわかる。自分がニヤついているということに。
泣きながらニヤついてるって変だけど、これは嬉し泣きなのだろう。
正直、私にこんな日が来るとは思わなかった。
『嫌いじゃない』って言われただけでこんなに嬉しいなら、『好き』って言われたらもっと嬉しいんだろうな。
それは、恋愛という意味じゃなくて、友達として。
でも友達ってどうすれば出来るんだろう。
「ねぇ、アイリス。友達ってどうすれば出来ると思う?」
「………はい?」
アイリスはポカンとしていた。
私、そんな変なこと言ったっけ?
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