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第七章 友人、とは?

あの時は、断罪されてもおかしくなかったのに

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 友人はどうやって作るものなのか、わからなかったから咄嗟にアイリスに聞いてしまった。

「友達……ですか?」

 アイリスは困惑しながら私に聞いてきた。

 どうしてそんなに困ったような表情になってるのか、わからない。

 変なこと聞いてないよね。
 また空回りなことしたり、言動が目立つことはないと思いたいけど。

「わ、私……変なこと言ったの、かな?」
「変と言いますか……、ご友人でしたらイアン様がいらっしゃるかと」
「イアン様? 確かに以前よりは仲良くなったような気もするけど」
「以前に、仲良くなりたいとおっしゃいましたよね。それはご友人になりたいからだったのかと」

 言われてみれば、そう捉えることも出来るけど。
 仲良くなりたいと思ったのは、イアン様の気持ちを理解したかったから。

 でもそれは……。

「友人になりたいとかじゃなくて」
「も、もしかして親しい間柄になりたいとか!?」
「そうでもなくて」
「なら……、あっ!? もしかしてイアン様をペットにしようと!?」
「なんでそうなる!!?」
「違いますか。ではなんなのですか?」
「えぇっと」
「もしや、ソフィア様がペットになりたいと!? いけませんよ。そんなお戯れを……。一体誰が教えたのです!?」
「なんでそんな思考になるのか、知りたいんだけども……」

 アイリスが慌てだしたと思ったら次に頬を赤く染めている。

 コロコロと表情が変わるアイリスは可愛らしいけど、反応に困る。

「……も、申し訳ありません。取り乱しました」
「謝らないで。私がはっきり言わないのがいけないんだから」

 私は深呼吸してから話しだした。

「イアン様とは友人じゃないの。知人よ」

 だって、友人なんておかしいじゃん。

 イアン様を殺しかけたのよ。あの人は優しいから気にしてないと言ってたけど、あれは嘘だろう。

 あんなことして許せるなんて、あるわけない。

 イアン様はきっと私を試してる。

 あの失態からどう立ち直れるのかどうかを。

 それはイアン様だけじゃなく、アレン殿下も同じ考えだろう。

 あの時は、断罪されてもおかしくなかったのに、なんで殿下が許したのか不思議だったけど、今ならなんとなくわかる。

「……そうでしょうか」

 アイリスが口を開いた。

「知人なのに、ソフィア様に稽古をつけるのでしょうか? ソフィア様のためにお菓子を作ったり、教えたりするのでしょうか?」
「試してるのよ。私は……貴族の血が流れてないし、品定めでもしてたんでしょ」
「なにを試す必要があるんでしょうか」
「だっ、だって、おかしいよ! 私、沢山迷惑かけたんだよ!?」

 アイリスはなにかを考えはじめたかと思えば納得したように小さくため息をついた。

「でしたら、ご本人に直接聞きましょう」
「えっ!?」

 なぜそうなる!!?

  
 ーーーーーーーー

【アイリス視点】

 ソフィア様は、良い意味でおかしな人だと思う。

 私みたいな侍女でも下に見ることなく接してくれる。
 使用人は下僕だと思う人がほとんどだというのに。

 あの時と変わらない。

 ソフィア様は覚えてないでしょう。

 養子に出される前に一度だけ、私はソフィア様と出会ってる。

 ボロボロになっている私に「お姉ちゃん、これあげるね」と笑ってパンをくれたあの日。

 道行く人々は、迷惑そうに睨んでるだけだったのにソフィア様だけが私に微笑みかけてくれた。

 最愛の人に裏切られ、肉体的にも精神的にもボロボロだった私の心に、ソフィア様の優しさがどんなに嬉しかったことか。

 ソフィア様が忘れても私は忘れない。

 でもまさか、お仕えできるなんて思わなかったけれど。

 それに、ソフィア様は気付いてないかもしれないけど、あなたのその優しさにたくさんの人が救われてる。

 それはイアン様だって同じ。

 以前に、ソフィア様のことを聞いたらイアン様は照れ笑いして「あいつ、猫だった俺を庇ったんだ。悪いヤツではないんだろ。……ホント、変なやつだよな。剣術の稽古だって、才能がないのをわかってるクセに毎日飽きずにやってるし」

 なんて、言っていたのですよ。
 家畜同然な猫を飼えないか真剣に悩むソフィア様にイアン様は心を揺さぶられたんだろう。

 なによりも、才能が無くても、自分の限界をわかっていても諦めない心は、ソフィア様の良いところでもある。

 イアン様も素直じゃない性格だから本音は隠すだろうけど、あとはソフィア様がお決めになること。

 友人という存在がわからないのなら、これから知っていけば良いだけなのだから。


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