乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第九章 私にとっての【推し】とは?

友達として仲良くしてくれませんか?

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 ちょっ、やばい!!!!

 えっ……、どうしよう!!?

 でででで殿下の手が、息遣いがぁ!!?

 落ち着け、私。今は興奮してる場合じゃない。だってとんでもないことしてしまったんだから。

 私のドジで殿下の唇を奪ってしまうという大事件が起こったのだから。

 土下座して謝ったら、殿下は楽しそうにしてるのがものすごく怖い!!!

 ああーーっ!!?

 どうしよう。楽しそうに耳元で囁かれたり、いろいろされてるけども。

 内心穏やかじゃない!! 胸が高鳴るし、なによりも……あんな最低なドジをしたというのに許すんだよ!!?

 自分の頬が赤くなってるのがわかる。ダメだ。落ち着け。

 興奮しちゃうと、いろいろな意味でいけない気がする。

「あの、不躾な質問で恐縮ですが、どうして優しくするのでしょうか? 私は、殿下に優しくされるような人間ではありません」
「キミは、自分の評価を下に見すぎているんだね。……婚約を申し込んだ理由もわかってなさそうだね」
「それは……私が変な令嬢だから」
「それだけじゃないよ。前も言ったよね。キミは虹色の鳥に似ていると」

 虹色……フォーゲルのことか。神話に出てくる鳥。

「それが?」
「王族にしか入れない図書館があってね、そこには虹色の鳥の神話があるんだ。一般に知られている話じゃなくて、王族しか知らない物語だ」
「それと私と、なんの関係が?」
「……その物語はね、虹色の鳥が人々の願いを叶えながら旅をする話なんだ。虹色の鳥は、少しドジなところがあるんだけど何回も失敗しながらも願いを叶えようとする姿勢が愛らしい神話だ。けど、そのドジには理由があるんだ。……キミに似てると思った。理由があったんだろう? 最初の婚約破棄宣言」
「そ、れは……。私が早とちりで」
「その言い訳は初対面なら簡単に信じただろうけど、キミの性格はだいたい把握しているよ。早とちりで、そんな命知らずなことできる?」
「私は感情よりも行動が先に出てしまいます。その結果です」
「おかしな話だ。あの時は絶対に感情からだった」

 虹色の鳥に似ているとは、私の性格面のことなんだろう。

 殿下は、私の性格を見極めていた?
 なら、婚約破棄宣言を許したのも、私がどういう人間かを確かめるため?

 決めつけるのではなく、ちゃんと見てどういう人間かを長い目で見ていた。そういうことでいいのかな。

「……殿下はなぜ、そこまで」
「知りたい?」

 殿下は私の髪に触れる。

 ああ、ダメ。『逃げたい』とものすごく思ってしまった。

 向き合わないと。そう思うのに……逃げたいだなんて。

「……キミが」

 ーードクンっと、胸が高鳴る。

 あまりにも胸が苦しくてギュッと思いっきり目を瞑る。

 ……そして、感じたのは額に僅かな痛みだった。

「からかうと面白いから」

 痛みで目を開けると、殿下は子供のように無邪気に笑っていた。

 さっきの痛みはデコピンされたのだとすぐに気付いた。

 ……ちょっと痛い。

 ひりひりする額を抑える。

 殿下はソファに腰を下ろす。
 私は、床でいつでも土下座する体勢でいる。

 座っていいなんて、許されてないもん。

「まぁ、冗談はこのぐらいにして、虹色の鳥に似ているのはもう一つある。それはキミの名だよ」
「私の名前?」
「……虹色の鳥にしか使えない魔法がある。それは光属性の魔法。『ソフィア』と呼ばれている」
「ですが、ソフィアという名は良く名前に使われますよ。名前が似てるからって」

 私が知っている神話には、フォーゲルが魔法を使えるなんて、聞いたことがない。
 どうやら、殿下が読んだ神話のフォーゲルは魔法を使えていたらしい。

「まぁ、そうなるよね。……だけどね、その魔法は人を幸せに導くんだ。それはなぜか。虹色の鳥が神の使いだから。その魔法を使うと悪人だろうが、必ず優しくなれる」
「……はぁ?」
「ん~~。その反応はわかってないね。ソフィア嬢と関わった人は優しい心を持つってことだよ。だから、似てるんだ」
「そ、そんなことは!!」

 嬉しいけど、いくらなんでも褒めすぎ!!

 それを殿下が最初っから思ってたなんて、そんなはずないんじゃないかな。
 出会いが……アレだったからね。

 勘が鋭い人ではあるけど、そんな能力があるなんて。

「あるだろう? 実際に、マテオ殿がその例だ」

 殿下は立ち上がり、私の前でしゃがむ。 

 そっと私に手を伸ばしてきた。

「キミが……怖がってる理由がなんとなくわかったよ」

 ボソッとつぶやく殿下の声は私の耳には届かない。

 首を傾げていると殿下はクスリと笑った。

「出会い方を……最初、順番を間違えたんだ。キミも、俺も。初めまして、俺はアレン・ミットライト。ミットライト王国の第一王子です。俺と友達として仲良くしてくれませんか?」
「あっ……私は」

 なにを躊躇っているんだろう。

「大丈夫。求婚の件は一旦忘れてくれ」

 これは、そうそう無いチャンスじゃない。

 友達なら、死亡フラグにならないんじゃないかな。

 ……ちゃんと向き合わないと。

 もう、逃げたくない。

「私はソフィア・デメトリアスと申します。……はい、ふつつか者ですがよろしくお願いします」

 殿下の手を取るとグイッと引っ張られて強引に立たされた。

「その言葉、勘違いしちゃうから、あんまり使わないでくれると嬉しいな」

 殿下は私の腰に手を回し、耳元で囁く。

 あれ、『推し』ってこんなに距離が近いものだったっけ……。

 ーービクッと。

 思わず反応してしまったが、次の瞬間、静電気みたいなのが全身を駆け巡った。

 そして突然の頭の中に浮かぶイメージ。

 それは、鬼の形相で睨んでくる私自身。ツリ目なだけに睨むとかなり怖い。

 口パクで何かを訴えているが、不思議と読み取れた。

『手・を・だ・す・な』

 ゾクッとした。
 なんで私自身にそんなことを言われないといけないんだろう。それに……イメージ内の私はゲーム本編の、悪役令嬢みたいな。

「ソフィア嬢?」
「いえ、なんでもありません」

 今の……なに?

 嫌な感じ。



 その後、シーアさんに事の詳細を話すとよく眠れると言われている特別なハーブを殿下に渡した。調べものが出来たとノア先生と共に出かけて行った。

 それからは何事もなく平和な日々を過ごし、学園に入学する日が来てしまった。






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