乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第九章 私にとっての【推し】とは?

夢とは、曖昧なもの。それなのに……【アレン視点】

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「夢という曖昧なものに確信を持って言えないが、俺はキミを殺したのではないか」

 なにを言っているんだ? 俺は。

 こんなとち狂ったことを言葉にした自分にドン引きした。

 それは、心の奥底に眠っていた一つの仮説だったんだから。すぐにそれは無いとしまい込んだはず。

 ーーそれなのに、

 なぜソフィア嬢を目の前にしてあんなことを口走ったんだ。

 訂正しようとしても……次から次へと閉じ込めていた感情が言葉として出ていく。

 違う。そうじゃない!!

 なにかおかしい。

 口を開けば、思ったこととは違う言葉が出てしまう。

 ソフィア嬢は上擦った声だ。そこで疑問に思った。

 動揺しているような声。しかも挙動不審なんだ?

 これではまるで、俺の仮説が正しいとでも言っているみたいだぞ。

 今日寄ったのは、ソフィア嬢の闇属性のこと。

 魔法のことはオリヴァーから報告受けているが、直接見たかったのだが……。

 落ち着け。この屋敷に来る前のことを思い出せ。

 記憶を巡らせてみる。

 朝、寝不足な俺にキースが『我が家系に代々伝わる秘薬』だと無理やり飲ませられた薬。

 もしかして、あれが原因か!?

 そういえば、飲ませられたあと、「副作用がありますけど、可愛らしいので問題ないですよぉ~」みたいなことを言われたな。

 寝不足気味で頭痛も酷かったため、心配して薬を飲ませてくれたのだろうが。

 可愛いの基準が理解出来ない。

 これが可愛いのか!!?

 そのおかげで朝よりはだいぶ楽ではある。

 今、俺とソフィア嬢だけで助かった。こんな恥じた言動は見せられない。
 ソフィア嬢には誰にも言わないように口止めしとかないとな。

 ーーそれにしても、ソフィア嬢は前よりも綺麗になったな。

 前に「綺麗になったね」と褒め言葉のつもりで言ったのに微妙な反応されたっけ。

 ならば、なになら喜ぶ? 彼女はなにが嬉しい??

 菓子が好きだと聞いたから、たくさん食べても太らない菓子をプレゼントしたこともあった。

 喜ぶと思ったんだ。太ることは女性にとっては天敵のようなものなのだから。

 ちょっとふくよかにもなられてたし。

 それなのに彼女は微妙な反応だった。

 近くでソフィア嬢の反応を見れば、なにかわかるかも知れない。

 そう思って隣に座ったのだが……。

 ソフィア嬢がとんでもない行動をしてきたんだ。

 顔を近付かせてきた。なにか言いたそうに口を開いたかと思ったら、倒れ込んできた。

 咄嗟に手を伸ばした俺だったが、次の瞬間……唇に柔らかいものが当たった。

 ソフィア嬢は顔を青ざめて勢いよく飛び退くと土下座して謝罪してきた。

 唇に触れた柔らかいもの……それはソフィア嬢の唇だった。

 ……あっ、まずい。

「頭を上げて」

 俺は出来る限り優しく言うと、ソフィア嬢が恐る恐る頭を上げて俺を見た。

 涙目で見上げてるものだから、『誘っている』と思われても仕方がない。

 本人は無意識なのだろうけど。そんな可愛い反応されるといじめたくなってしまう。

 しゃがんでソフィア嬢の顎を持ち上げる。

「大丈夫。俺は怒ってない。ただ……そんなに怯えてるとイタズラしてしまいたくなるよ」

 そっと耳元で囁く。

 これも薬の副作用だ。悪く思わないでくれ。

「あ、あああの!? えっと、お手柔らかにお願いします!」
「……念の為に聞くけど、なにを意味してるのかわかってる?」
「わ、わかってます!! その……、傷をつけるなら目立たない所にお願いします!」

 傷……? 聞いといて良かった。

「そういう意味じゃなかったんだけど、ソフィア嬢らしいな。変な令嬢だ」

 変な令嬢だ。

 ……甘く囁いてもそういう意味で捉えないのがソフィア嬢だ。

 むしろ意外な発想で驚いたが、それもまた面白いが。

 だけどソフィア嬢。

 俺をなんだと思ってるんだい?

 利用するために婚約を申し込んだはずが……、こんな可愛い反応されると本気で落としてしまいたくなる。

 それに……。

 ソフィア嬢が傲慢な態度になってほしくない。

 夢で見たソフィア嬢のような。

 そう願うよ。





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