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第十章⠀深紅の魔術士
黒く禍々しいもの
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やらかしてしまった気がする。
久しぶりに会った義弟に全力で泣きつく義姉……。
関係を知らない貴族たちは声をひそめて言いたい放題だった。
初日に何やってるのよ。私……。
まだまだ初日は終わらないんだけどね。
これからパーティなんだよ、どうしようだよ。
ノエルに謝ったら、笑って許してくれたけどきっと呆れてる。
その後、落ち込んでる私の手をずっと放さずに一緒に寮まで連れて行ってくれた。
優しすぎる。本当に良い子。
寮では、二人一室となっている。貴族生徒と使用人が利用する。
ノエルと別れたら、アイリスと共に寮内の一室を借りた。
一室がとても広い。トイレやお風呂、更には小さな厨房も備わっている。もはや家なのでは?⠀と、思ってしまうほどだ。
さすがは貴族。
と、言いたくなるような豪邸。
青と白が基準の部屋のようだ。
私はアイリスにソファに座らせられ、背もたれに寄りかかると顔を上に向かせられた。
自然と背もたれの上に頭を置くような形となった。
濡れたタオルを顔に乗せ、瞼を冷やしている。
「ふふっ。ノエル様とお会い出来て良かったですよね」
「ま、まぁ……そうなんだけど」
アイリスは泣いてた理由を聞くことはしないでなるべく明るい話題を切り出した。
きっと気遣ってのことだろう。
「んー……ねぇ、アイリス。友人ってさこんなにも辛い気持ちになるんだね」
「どうしました?」
「たいしたことじゃないんだけど、……友人なんて出来たことなかったからどう接していいのかよくわからなくて。触るとドキッとしたり……それと同時に息が出来ないぐらいの苦しさがあって」
「それって、王太子殿下のことでしょうか?」
ストレートに言うものだから、私は恥ずかしくなって口篭ってしまった。
アイリスは続けて話し出す。
「その答えは、ソフィア様が気付かないといけませんからね。でもこれだけは言えますよ。自分に嘘をついてはいけない」
「それってどういうこと?」
顔に乗せてあるタオルを取るとアイリスを見る。
アイリスはとても悲しそうに苦笑した。
「……誰かの幸せのために自分に嘘をついて、感情に蓋をしてはいけない。それは周りや自分自身が傷ついて、結果として誰も幸せにはなれません」
「???」
「ソフィア様にも、時期が来れば分かりますよ。今はまだつぼみ……と、いったところでしょうから」
「んー??⠀うん?」
アイリスはクスリと笑って「身支度しましょうか」と言って慣れた手つきで私の身支度を手伝う。
ーー答えは自分で見つけろ。という意味なのかな?
まぁ、気になることは他にもあるんだけど。
多分、それは……相談してみた方が良さそう。ノア先生とシーアさんに。
殿下に不審な点があったらすぐに連絡してと言われたんだから。
身支度が終わると、一人にしてほしいとアイリスに告げる。
一人になった部屋で通信用の魔導具を取り出した。
魔力を魔導具に集中すると光りだし、美形な男性が立体化して現れた。
青く長い髪。水色の瞳。モノクルをつけているその男はノア・マーティン。私の魔法の先生でもあり、皇帝の命令で私を監視している。
監視といっても四六時中一緒じゃないんだけどね。
ノア先生のことだ、私になにかあった時にすぐに駆けつけられるようにどこかに細工をしてそうだな……。
「お久しぶりです。ノア先生……えっとシーアさんは?」
〈彼女なら寝てます。起こしますか?〉
「いえ、大丈夫です。ノア先生とシーアさんに聞いてほしいことがあったんですが」
〈そういうことですか。私だけで良かったら聞きますよ。話してください〉
「……はい」
私はゆっくりと話し出した。
殿下に触れたらある映像が流れたことを。
〈なるほど。そんなことが……、それでその映像を見たソフィア様は途端に息が苦しくなったと〉
「はい、変なんです。私はあの場所には初めて来たのに……、知らないはずなのに。それに、私が……私が恨めしそうに睨んでいた」
いや、正しくは知っている。だけどそれはゲームの話。実際には初めてで知らない場所なんだ。
〈……少し、気になることがあるのです。以前、殿下の夢の世界に入ったのですが……黒く禍々しいものが邪魔をしていたんです。その話を聞きますと殿下の中にソフィア様が居る……ということになりますよね。元々ソフィア様が二つの人格を持っていて、何らかの形で殿下の中に入っていったと考えてはいるのですが〉
「もう一人の?」
〈はい。詳しくはわかってないのですけど、その可能性は高いかと〉
もう一人……。それってゲームのソフィア?
これ、ノア先生に伝えていいものか。でも気になったことはなんでも話してほしいって言われたし。
うーむ……。もしもゲームのソフィアだったら、私だけの問題じゃなくなってる気がする。
殿下も巻き込まれちゃってるし。
それに何回も同じ夢を見る。それはループ状態になってるんじゃないのかなって私は思ってしまった。まだ確信はないんだけど……。
「今から言うことを信じてくれますか?」
〈……内容にも依りますが、努力してみます〉
「……私はその子を知っていると思います。もしかして、ですが……確信はないのですが、殿下の夢、そして私が見たソフィアは」
私は自分の胸に手を当てた。
「私の中に元々あった人格で、魂だと思います」
〈それは……?〉
「……なんて言ったらいいのでしょうか。殿下の夢に現れてるのは前の私なんです」
我儘で傲慢すぎる悪役令嬢のソフィア。
その魂が殿下の中にあるんだったら……?
殿下を慕っていた悪役令嬢のことだ、タダでは死なない。どんな手を使ってても欲しいものは手に入れなくては気が済まないのだから。
死ぬ間際に殿下になにかしたんじゃ……。
〈前の?⠀おかしいですね。公爵家に引き取られてからソフィア様を見ていましたが、憎悪むき出しな態度は一度もありませんし、覚えてないかもしれませんが、引き取られる前もたまに会っていましたがとても良い子でしたよ〉
「そんな……前から!?」
正直、覚えてない。小さい頃の記憶がごっちゃになってて、どれも曖昧なのだから。
〈極度の緊張状態で別人格が出てくる事例はありますけど、人格が移動するなんて聞いたことがない〉
ですよねぇ……。
私も無いよ。でも、それしか思いつかない。
「や、やっぱり、有り得ないですよね」
〈いや、調べてみます。もしかしたら、双子という可能性もありますからね〉
「双子……そうですよね。お願いします」
〈はい。ですが、殿下になにかありましたらすぐにご連絡を。恐らく……殿下は呪われています〉
その言葉を聞いて、息を呑んだ。
呪い……。
有り得なくはない。悪魔との契約してるんだから。
死ぬ直前、呪った?
人を呪えば穴二つということわざがあるように、人を呪うと自分にも返ってくる。
それってつまり……悪役令嬢であるゲームのソフィアと殿下は常に同じ時間を生きている?
何回も同じ人生を……。死は訪れるけど、また同じ時間を繰り返している……のかな。
分からないけども。
ダメだ、混乱する。後で頭の中を整理しないと。
〈では、失礼します。これからまだ調べなくてはいけないのがあるので〉
そう言うと魔導具の光が消え、立体化したノア先生も消えていく。
パーティまでの時間、私は悪役令嬢のことを考えていた。
きっと避けては通れない道かもしれない。
向き合う日は絶対に来る。
そう思った。
久しぶりに会った義弟に全力で泣きつく義姉……。
関係を知らない貴族たちは声をひそめて言いたい放題だった。
初日に何やってるのよ。私……。
まだまだ初日は終わらないんだけどね。
これからパーティなんだよ、どうしようだよ。
ノエルに謝ったら、笑って許してくれたけどきっと呆れてる。
その後、落ち込んでる私の手をずっと放さずに一緒に寮まで連れて行ってくれた。
優しすぎる。本当に良い子。
寮では、二人一室となっている。貴族生徒と使用人が利用する。
ノエルと別れたら、アイリスと共に寮内の一室を借りた。
一室がとても広い。トイレやお風呂、更には小さな厨房も備わっている。もはや家なのでは?⠀と、思ってしまうほどだ。
さすがは貴族。
と、言いたくなるような豪邸。
青と白が基準の部屋のようだ。
私はアイリスにソファに座らせられ、背もたれに寄りかかると顔を上に向かせられた。
自然と背もたれの上に頭を置くような形となった。
濡れたタオルを顔に乗せ、瞼を冷やしている。
「ふふっ。ノエル様とお会い出来て良かったですよね」
「ま、まぁ……そうなんだけど」
アイリスは泣いてた理由を聞くことはしないでなるべく明るい話題を切り出した。
きっと気遣ってのことだろう。
「んー……ねぇ、アイリス。友人ってさこんなにも辛い気持ちになるんだね」
「どうしました?」
「たいしたことじゃないんだけど、……友人なんて出来たことなかったからどう接していいのかよくわからなくて。触るとドキッとしたり……それと同時に息が出来ないぐらいの苦しさがあって」
「それって、王太子殿下のことでしょうか?」
ストレートに言うものだから、私は恥ずかしくなって口篭ってしまった。
アイリスは続けて話し出す。
「その答えは、ソフィア様が気付かないといけませんからね。でもこれだけは言えますよ。自分に嘘をついてはいけない」
「それってどういうこと?」
顔に乗せてあるタオルを取るとアイリスを見る。
アイリスはとても悲しそうに苦笑した。
「……誰かの幸せのために自分に嘘をついて、感情に蓋をしてはいけない。それは周りや自分自身が傷ついて、結果として誰も幸せにはなれません」
「???」
「ソフィア様にも、時期が来れば分かりますよ。今はまだつぼみ……と、いったところでしょうから」
「んー??⠀うん?」
アイリスはクスリと笑って「身支度しましょうか」と言って慣れた手つきで私の身支度を手伝う。
ーー答えは自分で見つけろ。という意味なのかな?
まぁ、気になることは他にもあるんだけど。
多分、それは……相談してみた方が良さそう。ノア先生とシーアさんに。
殿下に不審な点があったらすぐに連絡してと言われたんだから。
身支度が終わると、一人にしてほしいとアイリスに告げる。
一人になった部屋で通信用の魔導具を取り出した。
魔力を魔導具に集中すると光りだし、美形な男性が立体化して現れた。
青く長い髪。水色の瞳。モノクルをつけているその男はノア・マーティン。私の魔法の先生でもあり、皇帝の命令で私を監視している。
監視といっても四六時中一緒じゃないんだけどね。
ノア先生のことだ、私になにかあった時にすぐに駆けつけられるようにどこかに細工をしてそうだな……。
「お久しぶりです。ノア先生……えっとシーアさんは?」
〈彼女なら寝てます。起こしますか?〉
「いえ、大丈夫です。ノア先生とシーアさんに聞いてほしいことがあったんですが」
〈そういうことですか。私だけで良かったら聞きますよ。話してください〉
「……はい」
私はゆっくりと話し出した。
殿下に触れたらある映像が流れたことを。
〈なるほど。そんなことが……、それでその映像を見たソフィア様は途端に息が苦しくなったと〉
「はい、変なんです。私はあの場所には初めて来たのに……、知らないはずなのに。それに、私が……私が恨めしそうに睨んでいた」
いや、正しくは知っている。だけどそれはゲームの話。実際には初めてで知らない場所なんだ。
〈……少し、気になることがあるのです。以前、殿下の夢の世界に入ったのですが……黒く禍々しいものが邪魔をしていたんです。その話を聞きますと殿下の中にソフィア様が居る……ということになりますよね。元々ソフィア様が二つの人格を持っていて、何らかの形で殿下の中に入っていったと考えてはいるのですが〉
「もう一人の?」
〈はい。詳しくはわかってないのですけど、その可能性は高いかと〉
もう一人……。それってゲームのソフィア?
これ、ノア先生に伝えていいものか。でも気になったことはなんでも話してほしいって言われたし。
うーむ……。もしもゲームのソフィアだったら、私だけの問題じゃなくなってる気がする。
殿下も巻き込まれちゃってるし。
それに何回も同じ夢を見る。それはループ状態になってるんじゃないのかなって私は思ってしまった。まだ確信はないんだけど……。
「今から言うことを信じてくれますか?」
〈……内容にも依りますが、努力してみます〉
「……私はその子を知っていると思います。もしかして、ですが……確信はないのですが、殿下の夢、そして私が見たソフィアは」
私は自分の胸に手を当てた。
「私の中に元々あった人格で、魂だと思います」
〈それは……?〉
「……なんて言ったらいいのでしょうか。殿下の夢に現れてるのは前の私なんです」
我儘で傲慢すぎる悪役令嬢のソフィア。
その魂が殿下の中にあるんだったら……?
殿下を慕っていた悪役令嬢のことだ、タダでは死なない。どんな手を使ってても欲しいものは手に入れなくては気が済まないのだから。
死ぬ間際に殿下になにかしたんじゃ……。
〈前の?⠀おかしいですね。公爵家に引き取られてからソフィア様を見ていましたが、憎悪むき出しな態度は一度もありませんし、覚えてないかもしれませんが、引き取られる前もたまに会っていましたがとても良い子でしたよ〉
「そんな……前から!?」
正直、覚えてない。小さい頃の記憶がごっちゃになってて、どれも曖昧なのだから。
〈極度の緊張状態で別人格が出てくる事例はありますけど、人格が移動するなんて聞いたことがない〉
ですよねぇ……。
私も無いよ。でも、それしか思いつかない。
「や、やっぱり、有り得ないですよね」
〈いや、調べてみます。もしかしたら、双子という可能性もありますからね〉
「双子……そうですよね。お願いします」
〈はい。ですが、殿下になにかありましたらすぐにご連絡を。恐らく……殿下は呪われています〉
その言葉を聞いて、息を呑んだ。
呪い……。
有り得なくはない。悪魔との契約してるんだから。
死ぬ直前、呪った?
人を呪えば穴二つということわざがあるように、人を呪うと自分にも返ってくる。
それってつまり……悪役令嬢であるゲームのソフィアと殿下は常に同じ時間を生きている?
何回も同じ人生を……。死は訪れるけど、また同じ時間を繰り返している……のかな。
分からないけども。
ダメだ、混乱する。後で頭の中を整理しないと。
〈では、失礼します。これからまだ調べなくてはいけないのがあるので〉
そう言うと魔導具の光が消え、立体化したノア先生も消えていく。
パーティまでの時間、私は悪役令嬢のことを考えていた。
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