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第十章⠀深紅の魔術士

高めのヒールを履いたら歩きにくくて困ります。

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 夜会の会場に入る。

 人生初めてのパーティに一人で行くのはなかなか勇気がいるものだ。

 ノエルを誘ったけど、先に行っててって言われたから渋々来たんだけど。

 知らない人達が多くて戸惑ってしまう。

 前世でも友達を作ってなかったし、どう接していいのか分からないというのが今の現状だ。

 今世は、友達は出来たけど……、友達と言っていいものか。

 夜会だけあって、令嬢たちのドレスは、大人っぽい色味だった。
 昼間に出会った令嬢や令息たちは皆、学園で指定された制服をきていた。だけど、着ている服が違うだけでここまで雰囲気が変わるものなのかって思った。

 私の着ているドレスも大人っぽい。

 ボレロ風の薔薇柄のレーストップスが白よりの灰色で首元には大きめなリボン。
 赤紫のフィッシュテール風なスカート。

 上下が繋がってないように見えるが、上衣とスカートが一続きになっている。

 スカートが下に向かって幅が広がっていき前後で丈の長さが異なるスソのデザインとなっているからとても可愛らしい。

 悪役令嬢らしいキツめな目付きなのもあり、大人っぽいドレスを着ても違和感がない。

 三つ編みとお団子を合わせた髪型。まるで結婚式にお呼ばれした時以上の気合いの入れ方で、パーティに参加するって大変なんだなって学んだ。

 パンプスだってそう。ヒールが高めで歩きにくい。気を許すと転んでしまいそうになる。

 ヒールは苦手でいつも丈が短いのを好んで履いてるから、姿勢良く歩くのなんて無理。

 何回か老人のような歩き方をしていて、その度に周りにいる貴族に心配される。

 話しかけないで!⠀と、思わず言ってしまいそうになるのをグッと堪えてニコッと微笑みながら大丈夫だと告げる。

 でも何故か、ドン引きしたようにそそくさと去っていくのよね。
 おかげさまで、私の周りには誰も居ない……というか、なんか避けられてる??

 アイリスは寮で待機している(侍女や使用人は参加出来ない)状態だし、誰かに気兼ねなく助けを求められないのは困る。

「ソフィア様!?」

 不意に名前を呼ばれて振り向くとイリア様が驚いた表情をして、見ていた。
 その横にはイアン様が。

 イリア様は緑と黒のフリルデザインのパフスリーブのドレスを着ていた。

 ポニーテールなんだけど、三つ編みと組み合わせた髪型をしていた。

 天使だ。素直にそう思う。

 イアン様は、白いブラウス、赤いジャケットとベストにズボン。高級感がある金色の模様が全体を際立たせている。

「老人のような歩き方とかなり眉間に皺を寄せて相手を威嚇している令嬢がいると噂されてたのですが……。まさかソフィア様だったとは」
「え!?⠀い、威嚇!!?」

 この目か。ツリ目だからそう思われちゃうのか!!?

 威嚇してなかったんだよ!!?

 だから話しかけてきた貴族たちは皆ドン引きしてたのかぁ。

 ごめんねぇぇぇ!!!⠀違うんだよぉぉ!

「違くて……ヒールが履きなれてないと言いましょうか」
「普段から丈が高いヒールって履きますでしょ。何を今更」

 丈が高いヒールを履くのは当たり前。そうなんだよね。正論なんだよ。

「ヒールはどうしても苦手で……。丈が短いヒールを履いてるんですよね」
「そうだったのですね」

 この子もドン引きしたのかな。

「なんて可愛らしい!!」
「引か……ないのですか?」

 イリア様も他の人と同様にドン引きして離れるのかと思ってた。
 それどころか、目をキラキラさせて近寄ってきたのだ。

「引く?⠀どうしてですか。誰だって得意分野と苦手分野がありますでしょう?⠀その苦手分野をどうするのかは自分次第ですわ。ソフィア様は苦手にも関わらず丈が高いヒールを履いている。それは苦手分野から逃げずに向き合ってる証拠じゃないですか」

 イリア様は私に近付いて小声で言う。

「それにほら、見てくださいよ。他のご令嬢の足元。丈が短いヒールを履いている方もいるのですよ」

 そう言われて、足元を見る。

 確かにそうだ。

 丈が高いヒールを履いている人が多いけど、丈が短いヒールを履いている人もそこそこいる。

「だからソフィア様は凄いんですよ」

 と、フォローしてくれた。

 ……そうか、短いヒールを履いても良かったのか。
 知らなかったんだよ。こういう場は丈が高いヒールを履くものだと思い込んでたから。

 短いヒールを履いても大丈夫なら、そうしてたのに!!

 アイリスも言わなかっ……いや、私の言い方が間違えてた気がする。

 丈が高いヒールがいい。って言ってしまったんだ。

 それは違うんだよと、知らなかったんだよって伝えるためにイリア様の顔を見ると嬉しそうにしているものだから何も言えなくなってしまった。

 そんなキラキラした目で私を見ないで……。

 悲しくなるから!!

「あっ、そうですわ。ここはお兄様の出番!!⠀さぁさぁ、あとはお若い方同士で……、ムフフ」

 今まで何も言わなかったイアン様の後ろをイリア様はグイグイ押して、楽しそうに言う。

 お見合いに同行している親のセリフだなって思いながら苦笑した。

「あっ、えっと……」
「?」

 イリア様はそそくさと去っていくし、イアン様は照れくさそうに目を泳がせている。

 もしかして……、

「あっ、わかりました!!⠀甘い洋菓子が食べたいのですね。男性ですから、食べづらいですよね。色んな人達が集まってるところでなんて」
「えっ、いや。そうじゃなくて!」
「大丈夫です。取ってきますから」

 私は、ヨレヨレした動きで立ち去った。本当、このヒールは歩きにくい。

 影で変な令嬢というあだ名がつきそう。

 グイッといきなり腕を掴まれたので、驚いて振り向くとマテオ様が居た。

 マテオ様は驚いて少し焦ったような表情をしていた。

「体調……悪いのかと思って」
「違うんですよ!!⠀ちょっと履きなれないヒールを……」
「足痛めた?」
「いや、まだ大丈夫だと思いますが」

 大人びて、色気が増したマテオ様。最初に会った時よりも雰囲気はだいぶ落ち着いていた。

「まだ?⠀見せてみて」
「ほ、本当に大丈夫です!!⠀ご心配なく」
「大丈夫なわけないじゃん。そんな老人みたいな歩き方しといて」
「う……」

 何も言えない。

 でも見て!

 周りの令嬢の目がとても怖いんだよ!!

 めっちゃくちゃこっちを睨んでるんだよ!!

 なんで初日からこんなに目立っちゃうの!!?

 もうやだー。ひきこもりたい……。

「マテオ殿、ご苦労さま。あとは俺にまかせて」

 マテオ様が私に触れようとした時に、その手をアレン王太子殿下がガシッと掴んだ。

 白く尻尾のあるジャケットと白いベストにズボン。

 白馬の王子様のような身なりでドキッと胸が高鳴った。

 推しが目の前にいるとどうしても戸惑ってしまう。

 本当、困る。


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