乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十章⠀深紅の魔術士

絶対的な癒しと光属性の魔法

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 音の移り変わりが緩い、穏やかな曲調。

 なんだか懐かしい。とても好きだった曲と歌詞。

 それにしても、その声の主はとても歌唱力があるんだなぁ。

 一体誰が歌っているんだろう.....。

 魅了される。歌い方まであの人……、

 声優アーティストの皐月さつきくんにそっくり。

 林を抜けると、外灯に照らされてそこに居たのは、茶色の短髪で紅い色の瞳をした男性。

 私は一瞬で理解した。ノエルが言っていたのは、彼のことかもしれない。

 ヒロインにも若干似ている。兄か、弟か……。

 だけど、兄弟は居ないはず。ならノエルが言ったように同姓同名という可能性もなくはないよね。

 歌ってる人物が誰なのかわかったから気付かれる前に退散しよう。

 そう思って元来た道を戻ろうとしたら何も無い地面につまづいて声を上げてしまい、彼に気付かれた。

「誰?」

 あれ……?

 この声……。

 どこかで聞いたことがあり、記憶を遡ったら医務室で私のことを推しだと言っていた人だ。

「あっ.....」

 どうしよう。

 ヒールを手で持ち、足が土で若干汚れている。
 こんなはしたない姿を見られてしまい、ものすごく引いたに違いない。

 居ないと思ってた前世の記憶持ちかもしれない彼には接し方を考えようと思ってたのに。

 今回だって、声の主を確認したらすぐに会場に戻ろうとしていた。

 なんでこんなところでつまづくのかな。

 私のドジ……。

「美しいお嬢さん。こんな所に一人で来るのは感心しませんね。オオカミに食べられても知りませんよ」

 そそくさと元来た道を戻ろうとしたら話しかけられてしまった。

 無視は出来ないから、仕方がない。ササッと挨拶して会場に向かおう。

「デメトリアス公爵家のソフィアと申します。綺麗な歌声でしたから聴き惚れてしまいました」

 うん、嘘はついてない。本当に見惚れてしまったんだから。

「……」

 彼は私を頭の天辺から足の爪先まで見たあと、納得したように頷いた。

「ルイーズ男爵家のクロエと申します。これも何かのご縁です。よろしかったらお話しませんか?」

 なんだろう。この人の視線が……とても痛い。

「すみません。余計に警戒されてしまいましたね。足の傷を治させてください」
「え……」

 あっ、靴擦れした場所。

「い、いえ。大丈夫ですのでお気になさらず」

 近付いてくるクロエ様を警戒して、距離を取ろうとしていたらグギッと足首を捻ってしまった。

 バランスを崩した私は当然地面に倒れるはずなのだが、クロエ様に手を引かれ倒れることはなかった。

「……心臓に悪い」
「すみません」

 倒れそうになった私を咄嗟に支えようと手を引いてくれたのだろう。

 焦った表情をしていた。

 クロエ様は深くため息をつき、私を横抱きした。

「え!?⠀下ろしてください」
「何を言ってるんですか。捻ったのでしょう。無理をしたら余計に酷くなります」
「で、ですが……」

 私を近くのベンチに下ろしたクロエ様は捻った足に触れると温かな光が捻った所を癒してくれた。

 その力はまるで……。

「深紅の魔術士……」

 ヒロインにしか使うことが出来ない絶対的な癒しと光属性の魔法の力。

「あなたは……何者なんですか」
「もう、気付いてるかと思いましたが……。勘は鈍いようだ。では、皐月さつきは聞き覚えがあるのではありませんか」

 皐月……?

 声優アーティストの?

 それとも……陰暦五月のこと?

「分かりません」

 何者なのか分からない以上、心を許しちゃいけない。

「歌を聴いていても?」
「何が言いたいのでしょうか」

 確かに、歌詞も曲調も聞き覚えがある。でもそんなはずがないじゃない。

 あるはずない。

 信じたくなんてない。

 あっ、そうだわ。きっとファンの子よね。やだ、私ったら変な勘違いするところだった。

 なんでもかんでも自分の都合が良いように考えるのは私の悪い癖だね。

 クロエ様はそっと靴擦れした所に触れる。

「貴方も転生者なのでしょう。行動がとても悪役とは思えない」

 私は息を呑んだ。

 この人は、なんで初対面にも関わらずそんな衝撃的なことを話すの?

 下手をすれば変人だと、気がおかしくなったのかと嘲笑われてもおかしくはないわ。

 なのになんで……、確信したかのように。

「やっぱりそうでしたか。口調と雰囲気が全然違うのだから、気付きますよ。それに皐月という言葉に反応した。この世界には存在しない言葉だというのに」

 温かな光で傷を負った所を癒し終わると私を見た。

「それに貴方は、嘘が下手なようだ。素直な方なのですね」
「……、あなたはどうしてこんなにハッキリと」
「確信したからです。そんな短期間で何がわかるかと言われると回答に困ってしまいますが」

 クロエ様はそっと私の手を握る。

「そうですね。強いて言うなら、貴方が好きだから……とでも言っておきましょうか」

 この人は私を推しだと言っていた。
 推しならよく見てるはずだから、すぐに違和感に気付いたんだ。

「えっと、あなたは声優の皐月さんのファンなのですか?」

 大人気声優の皐月。
 男性からも女性からも人気が高い。

 皐月さんは『クリムゾン⠀エイジ』のアレン・ミットライト役も演じていたわよね。

 クロエ様は驚いたように目を丸くしたあと、お腹を抱えて笑いだした。

「いやいや、違う違う。本人だよ」

 ああ、そうか本人か。

 …………?

 はいぃぃぃぃぃぃぃ!?

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