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1.プロローグ
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「偶然だな」
駅前ペデストリアンデッキ広場のベンチに座る僕に声をかける時、この男はいつもそう言う。
「こんばんは」
何度目の偶然なのか。もう、わからない。
約束もなく、僕はここで男と出会う。そう、偶然に。
きちんと整えられた艶のある黒髪に、少し気難しそうな相貌。闇をまとったような黒い上下の装い。
すれ違う人が振り返るのは、どこか人を惹きつける存在感があるせいだろう。けれども目が合った瞬間、何者をも拒絶する近寄りがたい雰囲気にたじろぐに違いない。
僕は男の名前を知らない。年も仕事も何も知らない。
きっと僕より十は年上。サラリーマンでないのは確か。僕が仕事帰りの夕刻に寄る駅前で出会う時はいつも、これから仕事だと話すから。
この男は、僕が人を怖がることに気づいている。僕に関心がなさそうなのに、自分から去ることをしない。
たとえるならば、僕が感じる自他の境界線で、背を向けて立っている人。
近づかれることのない安心感が、僕に偶然を重ねさせる。
出会うことは、即ち同意。
静かな波に誘われるまま、ただ流されて深い闇の水底に沈んでいく。
それだけの関係。
二人の遠さは、僕の理想のはずだった──。
駅前ペデストリアンデッキ広場のベンチに座る僕に声をかける時、この男はいつもそう言う。
「こんばんは」
何度目の偶然なのか。もう、わからない。
約束もなく、僕はここで男と出会う。そう、偶然に。
きちんと整えられた艶のある黒髪に、少し気難しそうな相貌。闇をまとったような黒い上下の装い。
すれ違う人が振り返るのは、どこか人を惹きつける存在感があるせいだろう。けれども目が合った瞬間、何者をも拒絶する近寄りがたい雰囲気にたじろぐに違いない。
僕は男の名前を知らない。年も仕事も何も知らない。
きっと僕より十は年上。サラリーマンでないのは確か。僕が仕事帰りの夕刻に寄る駅前で出会う時はいつも、これから仕事だと話すから。
この男は、僕が人を怖がることに気づいている。僕に関心がなさそうなのに、自分から去ることをしない。
たとえるならば、僕が感じる自他の境界線で、背を向けて立っている人。
近づかれることのない安心感が、僕に偶然を重ねさせる。
出会うことは、即ち同意。
静かな波に誘われるまま、ただ流されて深い闇の水底に沈んでいく。
それだけの関係。
二人の遠さは、僕の理想のはずだった──。
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