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2.遭遇 一
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……聞こえるか? おい?
誰かが呼んでいる。
……おい?
ここには何もない。
僕はいない。存在しない。
誰も僕を知らない。誰も僕を気にしない。
おい……
「おい!」
はっと我に返った晴久は、自分が呼ばれていることに気づいた。
意識が朦朧としていて体が動かない。目の前がぼんやりとして焦点が合わない。
商業ビルに囲まれた鉄道駅前のペデストリアンデッキ広場だ。電光掲示板やビルを彩るネオンの光を浴びながら流れてゆく人々の片隅で、晴久はベンチに座っていた。
歩道も周辺の飲食店も賑やかさを増す平日十九時過ぎは、夜の活気に満ちた時間だ。
「聞こえているか?」
顔を上げた晴久は、声の主と目が合った。
確か、ベンチの隣で電話をしていた人だ。
三十代半ばだろうか。気難しそうなサラリーマン風の男は、迷惑そうにもう一度「聞こえているか」と尋ねた。
顔が、近い。
息遣いまで感じる距離で、黒い瞳が晴久の怯えに困惑している。
晴久は、自分が男の肩に頭を寄せてもたれかかり、黒いジャケットをつかんでいることを理解した。
「うわっ。すみません、人違いです、間違えました!」
自分でも何が人違いかわからない。気が動転していた。
ばっとベンチから立ち上がると、逃げるようにその場を離れようとした。だが、足がもつれてそのままベンチに倒れ込む。
意識が戻りきっていない状態に混乱が拍車をかけて、思考がまとまらない。
男が肩と腕を支えてくれたのはわかる。自分が男に寄りかかっているのもわかる。周りが騒がしくなってきたのもわかった。
かなり派手に転んだようだ。
「大丈夫?」
「救急車呼びます?」
周りにいた何人かが男に訊いている。
「おい、大丈夫か? どうする?」
今度は男が晴久に訊いた。
「大丈夫……です。ちょっとフラフラしただけです。なんでもないですから」
完全に支えられながら晴久は答えた。
「そうか。でも、周りが騒がしくなっているぞ」
男はのんびりと言った。
晴久と男の周囲で心配そうに見守る人がちらほらといる。その後ろで、事情がわからずこちらを覗く人、何かあるのかと通りすがりに視線を送る人……注目を浴びているのは確かだ。
「大丈夫ですか? 顔色悪そうですよ」
親切そうな女性が晴久の肩に手を触れた。
その瞬間、晴久の体がこわばった。
しまった!
反射的に手を払いのけようとしたのを意思で抑えつけ、謝意だけは伝えようとしたのを男の言葉が遮った。
「いや、大丈夫です。知り合いですから」
「あら? あなた、ひょっとして……」
「人違いです」
その声に遠くからの視線がさらに集まる。
「え?」
「あれって……」
何やら男の方にも注目が集まり始めている。
男は晴久の耳元に顔を寄せた。
「歩けるか? とりあえずここを離れる」
小声で話すと晴久を抱えるようにして立ち上がらせた。
「君も一緒に来るか?」
男は晴久に確認した。
「はい。行きます」
まだぼんやりとした頭で、晴久はとりあえず返事をしていた。
状況が全くわからないけれど、周囲の目は気になる。目立つことはしたくない。この場を離れた方が良さそうだ。
誰かが呼んでいる。
……おい?
ここには何もない。
僕はいない。存在しない。
誰も僕を知らない。誰も僕を気にしない。
おい……
「おい!」
はっと我に返った晴久は、自分が呼ばれていることに気づいた。
意識が朦朧としていて体が動かない。目の前がぼんやりとして焦点が合わない。
商業ビルに囲まれた鉄道駅前のペデストリアンデッキ広場だ。電光掲示板やビルを彩るネオンの光を浴びながら流れてゆく人々の片隅で、晴久はベンチに座っていた。
歩道も周辺の飲食店も賑やかさを増す平日十九時過ぎは、夜の活気に満ちた時間だ。
「聞こえているか?」
顔を上げた晴久は、声の主と目が合った。
確か、ベンチの隣で電話をしていた人だ。
三十代半ばだろうか。気難しそうなサラリーマン風の男は、迷惑そうにもう一度「聞こえているか」と尋ねた。
顔が、近い。
息遣いまで感じる距離で、黒い瞳が晴久の怯えに困惑している。
晴久は、自分が男の肩に頭を寄せてもたれかかり、黒いジャケットをつかんでいることを理解した。
「うわっ。すみません、人違いです、間違えました!」
自分でも何が人違いかわからない。気が動転していた。
ばっとベンチから立ち上がると、逃げるようにその場を離れようとした。だが、足がもつれてそのままベンチに倒れ込む。
意識が戻りきっていない状態に混乱が拍車をかけて、思考がまとまらない。
男が肩と腕を支えてくれたのはわかる。自分が男に寄りかかっているのもわかる。周りが騒がしくなってきたのもわかった。
かなり派手に転んだようだ。
「大丈夫?」
「救急車呼びます?」
周りにいた何人かが男に訊いている。
「おい、大丈夫か? どうする?」
今度は男が晴久に訊いた。
「大丈夫……です。ちょっとフラフラしただけです。なんでもないですから」
完全に支えられながら晴久は答えた。
「そうか。でも、周りが騒がしくなっているぞ」
男はのんびりと言った。
晴久と男の周囲で心配そうに見守る人がちらほらといる。その後ろで、事情がわからずこちらを覗く人、何かあるのかと通りすがりに視線を送る人……注目を浴びているのは確かだ。
「大丈夫ですか? 顔色悪そうですよ」
親切そうな女性が晴久の肩に手を触れた。
その瞬間、晴久の体がこわばった。
しまった!
反射的に手を払いのけようとしたのを意思で抑えつけ、謝意だけは伝えようとしたのを男の言葉が遮った。
「いや、大丈夫です。知り合いですから」
「あら? あなた、ひょっとして……」
「人違いです」
その声に遠くからの視線がさらに集まる。
「え?」
「あれって……」
何やら男の方にも注目が集まり始めている。
男は晴久の耳元に顔を寄せた。
「歩けるか? とりあえずここを離れる」
小声で話すと晴久を抱えるようにして立ち上がらせた。
「君も一緒に来るか?」
男は晴久に確認した。
「はい。行きます」
まだぼんやりとした頭で、晴久はとりあえず返事をしていた。
状況が全くわからないけれど、周囲の目は気になる。目立つことはしたくない。この場を離れた方が良さそうだ。
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