無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定

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真の武人の強さ。

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 王都ラスクルにあるミルフィナンドド伯爵家の屋敷に到着した一行は、たくさんの使用人達に出迎えられて屋敷内に入った。

「久しぶりだな、セバス」
「元気そうです安心しましたわ」
「セバ爺。久しぶりなのです」
「はい。お久しぶりにございます。旦那様、奥様、お嬢様もお元気そうで何よりにございます」

 黒のタキシードを着た老人はセバスチャンという執事らしい。
 しかし、ヒューブは眉を寄せた。
 いや、目を瞠いてじっと見つめた。

(この人、爺ちゃんにそっくりだ)

 そう。
 ミルティナンド伯爵家の執事のセバスチャンさんの顔がヒューブの祖父と瓜二つだったのだ。
 ヒューブが自分を見つめている事に気付いたのだろうセバスチャンさんは、

「クライスト名誉騎士爵様ですかな?」

 と笑顔を見せるが、ヒューブは黙ったままでじっと顔を見つめている。
 これに気付いたミルフィナンド伯爵様やレイナ夫人も「どうしたのだろう?」という顔をしている。

「…バングルロッド・バイセルン」

 どうしたのだと聞こうとしたミルフィナンド伯爵様の前に呟いた言葉にセバスチャンさんがカッと目を瞠いた。
 その反応をみたヒューブが、

「聞き覚えがあるのですね?」
「ど、どこでそ「あるんですね?」」

 セバスチャンさんの言葉を遮って、腰の剣に手を伸ばした。
 ミルティナンド伯爵様もレイナ夫人もミーシアお嬢様もヒューブからじわじわと溢れ出す殺気に小さく震え出した。

「ク、クライスト名誉騎士爵様。お名前をお伺いしても?」
「ヒューブ。ゲーゲンヒューバー・バイセルンだ」
「ツッッ!!??君が兄さんの!?」
「「「「「『兄さん?』」」」」」

 全員ビックリした。
 まさかヒューブがセバスチャンさんのお兄さんと知り合い…というか、話しの流れからすると息子か孫なのだろう。
 ミルフィナンド伯爵様が何か言おうとするも、セバスチャンさんがヒューブに近付くのが早かった。

「ヒューブ。兄さ「寄るな、卑怯者!!」」

 近付くセバスチャンさんに紫電一閃。
 腰の剣を抜き打ちに抜き放った斬撃を躱すのが一瞬でも遅かったらセバスチャンさんの首は胴体からさよならをしていただろう。

「その剣はーーッ!?」
「爺ちゃんの形見だ」
「形見?ではやはり兄さんは…?」
「惚けるな!!貴様が逃げたせいで爺ちゃんは、いや、爺ちゃんだけじゃない。父さんも母さんもナターシャも、村の人達全員が死んだんだ!モンスター達に殺されたんだ!!貴様のせいだぞ、腐れ外道がっ!!」

 ヒューブが生まれた村は「アビス村」といって、今から八年前、ヒューブがまだ五歳の時に発生した『モンスターの大進撃スタンビート』で滅びてしまったのだ。
 村から近い場所にダンジョンがあったので、それなりに賑わいのある村だったが、ダンジョン目当ての冒険者も含めた村人達が僅か三日間でモンスター共に一人残らず食い殺されてしまったのだ。
 近くの街までは歩いて十時間、馬で走ればたったの四時間で着く距離にあったので、スタンビートが発生したと同時にヒューブの祖父のバングルロッドはセバスチャンさんに隣りの街に救援を頼みに走らせたのだが、セバスチャンは帰ってこなかった。援軍の兵士はおろか、一人の冒険者も来なかった。

「爺ちゃんは、俺達は、救援が来るのを待っていたんだ!必ず助けが来ると信じて戦っていたんだ!一人また一人と死んでいく中で、待って待って待ち望んでいたんだ!必ず助けが来ると信じてだ!それなのに助けは来なかった。ただの一人も来なかった!皆んな死んでいったよ。爺ちゃんは最後の最後までアンタを信じてたんだ!」

 血を吐くような慟哭に、セバスチャンさんだけでなく、伯爵様達も痛々しげな顔をする。

「…そうか。君はアビス村の生き残りだったのか」
「ええ、そうです。この腐れ外道に見捨てられた地獄の生き残りですよ」

 伯爵様とセバスチャンさんは静かに土下座した。

「申し訳なかった。セバスが戻れなかったのは私のせいなんだ」

 伯爵様は滔々と当時の事を語り出した。
 別荘のあるロッグル街に来ていた時、ミーシアお嬢様が急な病に倒れてしまい、神官や薬師に治療をしてもらっていたが病が癒える事はなく、余命半年と診断されて絶望の淵に立たされていた時、治癒魔法の使い手として名の売れていたセバスチャンさんが街に現れたので、有無を言わせずに無理矢理連行してきて治療させた。その治療で全ての魔力を消費してしまったので、セバスチャンさんは魔力枯渇に陥り、意識を失い、気が付いたのは五日後の事、アビス村が滅んだ後だった。
 村が滅んだと聞いたセバスチャンさんは失意のドン底に落ち、今にも自殺しそうだったので、伯爵様がお詫びと感謝を込めて召し抱えたのだとか。

「テメェの娘一人のために村人八十三人を見殺しにしたってのか」
「申し訳もない」
「ザっけんな、クソ野郎!ぶっ殺してやる!」

 ヒューブは伯爵様の首を刎ねようとしたが、刀を寸止めした。

「こ、殺さないのかね?」
「テメェらが死んで爺ちゃん達が生き返るわけじゃなし。それに…」
「それに?」
「爺ちゃんも同じ事をしただろうからな」

 ヒューブは刀を収めてミーシアお嬢様に目を向けた。

「八十三人もの村人の命と引き換えに助かったんです。強く立派に生きるんですよ?無駄死になんてしたら絶対に許しませんからね」

 そう言うヒューブは、オーガキングも裸足で逃げ出さんばかりの形相だったのが、一転して慈愛に満ちた顔をしていた。言外に「この子に罪は無い」と言っているのだ。
 伯爵様とセバスチャンさんが床に額を擦り付けて微動だにしないのへ、

「怒るのに疲れました。出来れば休みたいのですが?」

 と、当てがわれた部屋に案内してくれと言って笑った。
 許されたわけじゃない。
 仕方がなかったんだと理解しただけの事だ。
 それは誰の目から見ても同じ事だった。
 その気丈の強さに誰もが武人たる者の真の強さを感じ取っていた。
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