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4話「意外な展開に」
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その日の子どもたちとの遊びは無事終わりを迎えた。
夕暮れ時に解散になる。
それはいつものことだ。
当たり前だがある程度の時間になれば子どもたちはそれぞれの家庭へと帰らなくてはならない。
そして私も家に帰った。
帰宅した私の姿を目にした母はほんの少し気を遣ったような顔をしたけれど、柔らかな声で「お子さんたちと遊んでいたの?」と尋ねてくる。私はいつものように頷いた。すると母は安堵したように表情を僅かに緩めて「元気にしてた?」と平和的な問いを放つ。それに対して私は「ええ、皆元気そうだった」と答える。
「夕食、できてるからね」
「ありがとう母さん」
そんなあっさりとしたやり取りをして、一旦自室へと戻る。
その時の私は少し前向きになっていた。
だからダットとの件でのショックにそこまで縛られてはいなかった。
婚約破棄。それは確かに辛さのあるもので。突然だったからなおさら。傷ついたし、不快だったし、様々な感情が胸の内に渦巻いていたことは事実。ただそれでも今は、すべてを失ったわけではないのだから、と考えることができている。
両親は大切に思い愛してくれる。
子どもたちも好いてくれている。
……そうだ、失っていないものは確かにある。
婚約者がいなくなったことが何だというのか。
手にできているものはまだあるのに。
私というものの大部分を喪失したような気になって何が生まれるというのか。
目を向けるべきは失っていないものだろう。
それこそが最も尊いものなのだから。
さて、明日からもまた、元気に遊ぼう。
決意を新たに。
一歩を踏み出す。
そんな夜となった。
あれからも子どもたちの相手は続けている。
ダットらによる身勝手な婚約破棄から一週間と少し。時の流れとはあっという間だ。本当に。時間というものは、時に、驚くほど早く流れていく。
そんな中、少々の進展もあった。
勝手過ぎる婚約破棄に怒っていた父は、ダットらに慰謝料の支払いを求めるべく動いてくれていたのだが、その点に関して動きがあったのだ。
というのも、二人から慰謝料を取れそうな流れになってきたのである。
父にはそこそこ凄い人脈がある。日頃敢えて自慢することはないが、である。なのでそういったことに詳しい人もいた。その人に協力してもらいながら父は動いていた。で、ようやく話が進んできたのだ。
ダットとアレンティーナは苦し紛れの抵抗を続けているようだが、世の中そんなに上手くいくものではない。
それに、父は「あいつらに好き放題させるのは嫌だ、だから徹底的にやってやる」と言ってくれている。なので父はとことんやるはずだ。面倒臭いからもうやめた、などと言い出すようなことはないだろう。
ダットらに逃げ場はない。
彼らには罪がある。
そしてそれはいつか必ず償わなければならないものだ。
どんなに逃げても、どんなに抵抗しても、無駄。
――そんなある日。
「この家にお嬢さまはいらっしゃいますか」
平凡な朝。
見知らぬ男性がやって来た。
男性は対応する父に「街の子どもさんたちの相手をなさっているお嬢さまは恐らくこの家のお嬢さまですよね?」と尋ねる。父は怪訝な顔。しかし男性は落ち着いていて、冷静に「私は王城からの遣いです」と自身の立場について説明した。それでもまだ怪しむ父に対して身分証を呈示。それによって父はようやく怪しむ心を僅かに緩めた。
「それで、娘に話とは何でしょうか」
「王子殿下よりお言葉がありまして」
「な……で、殿下!?」
「はい」
「また、どうして、なぜうちに……」
父は珍しく動揺していた。
「お嬢さまはいつも子どもさんの相手をなさっていますよね」
「あ、ああ、はい」
「そのお姿に殿下は感動なさったのです」
「感動……?」
「噂でそういった話を耳にされた殿下は調査員を派遣されました。で、その結果、噂が事実であると確認された。そうして、お嬢さまの行いに深く感動なさったのです」
夕暮れ時に解散になる。
それはいつものことだ。
当たり前だがある程度の時間になれば子どもたちはそれぞれの家庭へと帰らなくてはならない。
そして私も家に帰った。
帰宅した私の姿を目にした母はほんの少し気を遣ったような顔をしたけれど、柔らかな声で「お子さんたちと遊んでいたの?」と尋ねてくる。私はいつものように頷いた。すると母は安堵したように表情を僅かに緩めて「元気にしてた?」と平和的な問いを放つ。それに対して私は「ええ、皆元気そうだった」と答える。
「夕食、できてるからね」
「ありがとう母さん」
そんなあっさりとしたやり取りをして、一旦自室へと戻る。
その時の私は少し前向きになっていた。
だからダットとの件でのショックにそこまで縛られてはいなかった。
婚約破棄。それは確かに辛さのあるもので。突然だったからなおさら。傷ついたし、不快だったし、様々な感情が胸の内に渦巻いていたことは事実。ただそれでも今は、すべてを失ったわけではないのだから、と考えることができている。
両親は大切に思い愛してくれる。
子どもたちも好いてくれている。
……そうだ、失っていないものは確かにある。
婚約者がいなくなったことが何だというのか。
手にできているものはまだあるのに。
私というものの大部分を喪失したような気になって何が生まれるというのか。
目を向けるべきは失っていないものだろう。
それこそが最も尊いものなのだから。
さて、明日からもまた、元気に遊ぼう。
決意を新たに。
一歩を踏み出す。
そんな夜となった。
あれからも子どもたちの相手は続けている。
ダットらによる身勝手な婚約破棄から一週間と少し。時の流れとはあっという間だ。本当に。時間というものは、時に、驚くほど早く流れていく。
そんな中、少々の進展もあった。
勝手過ぎる婚約破棄に怒っていた父は、ダットらに慰謝料の支払いを求めるべく動いてくれていたのだが、その点に関して動きがあったのだ。
というのも、二人から慰謝料を取れそうな流れになってきたのである。
父にはそこそこ凄い人脈がある。日頃敢えて自慢することはないが、である。なのでそういったことに詳しい人もいた。その人に協力してもらいながら父は動いていた。で、ようやく話が進んできたのだ。
ダットとアレンティーナは苦し紛れの抵抗を続けているようだが、世の中そんなに上手くいくものではない。
それに、父は「あいつらに好き放題させるのは嫌だ、だから徹底的にやってやる」と言ってくれている。なので父はとことんやるはずだ。面倒臭いからもうやめた、などと言い出すようなことはないだろう。
ダットらに逃げ場はない。
彼らには罪がある。
そしてそれはいつか必ず償わなければならないものだ。
どんなに逃げても、どんなに抵抗しても、無駄。
――そんなある日。
「この家にお嬢さまはいらっしゃいますか」
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見知らぬ男性がやって来た。
男性は対応する父に「街の子どもさんたちの相手をなさっているお嬢さまは恐らくこの家のお嬢さまですよね?」と尋ねる。父は怪訝な顔。しかし男性は落ち着いていて、冷静に「私は王城からの遣いです」と自身の立場について説明した。それでもまだ怪しむ父に対して身分証を呈示。それによって父はようやく怪しむ心を僅かに緩めた。
「それで、娘に話とは何でしょうか」
「王子殿下よりお言葉がありまして」
「な……で、殿下!?」
「はい」
「また、どうして、なぜうちに……」
父は珍しく動揺していた。
「お嬢さまはいつも子どもさんの相手をなさっていますよね」
「あ、ああ、はい」
「そのお姿に殿下は感動なさったのです」
「感動……?」
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