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13話「褒められ過ぎると恥じらいが」
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「ねえ王子さま」
「何ですか?」
「王子さまはどうしてこんな普通の子どもたちと遊んでくれるの?」
じゃんけんをしている途中、子どもたちの中の一人がそんな風に問いを放った。
「なぜ……ですか」
「偉い人なんでしょ? 普通の子どもと遊ばなくちゃならない理由なんてないと思うんだけど。何か式典なわけでもないし、儀式的な意味があるわけでもないと思うし」
「そうですね、あまり考えてみたことはありませんでしたが……」
子どもというのは時に鋭い質問を放つことがある。きっと純真だからこそ純粋に疑問に感じるのだろうが。本能からか否か定かではないけれど、時に、彼ら彼女らは鋭さのある視点を持って言葉を発する。
また、大人であれば聞きづらいようなことも聞いてしまえるというのも、子どもならではの興味深い点だろう。
ある程度の年齢になれば人は遠慮というものを覚える。そうなれば発せる問いというのも自然と範囲が狭まってくるもの。これはさすがに聞けないな、といった質問も発生するのだ。それは人間という生き物に理性があるからこそで、悪いことではないのだけれど。ただ、抱いた疑問をすべて発してしまうことは不可能となるので、必然的にやり取りにも縛りが発生してくる。そしてそれは時に物事における柔軟性を失わせるのだ。
「マリエさんの行いを知り、その偉大さを感じたから――ですかね」
「偉大さ?」
「はい。自分のお子さんだけではなく地域のお子さんとであっても迷わず遊べる心の広さ、それはとても偉大なものだと思うのです」
「そっかぁ。確かに、お姉ちゃんは優しいもんね。すごいことだよね」
女の子が言えばラムティクは笑顔になって数回ゆったりと頷く。
あまりにも真っ直ぐに褒められるものだから胸の内に少々恥じらいが生まれてしまった。
「はい、本当にそうだと思います」
「みんなお姉ちゃんのこと大好きだよ」
「ですよね。尊敬します。マリエさんは本当に偉大な方です。やはり皆さんもそのように思っているのですね」
何だろうこの空気……。
「「「うんだいすきー!」」」
褒められ過ぎて心がムズムズする。
「良いことですね」
「王子さまもぉ、お姉たまにぃ、惚れたのねぇ?」
「えっ!?」
「惚れた顔してるわぁ。でもぉ、まぁ、分からないことはないわねぇ。ここにいる子たちぃ、みぃ~んなそうだからぁ。お姉たまはぁ、とぉ~っても魅力的な人だからぁ、高貴な人であってもぉ、惚れちゃうのは当たり前ねぇ」
「あ、い、いや……そういう、意味、では……」
「照れてるわねぇ! うふっ。照れてるぅ! んもぉ、照れちゃってぇ、偉大なる殿下と言ってもぉ、可愛いわねぇ」
もはや何をどう言えば良いやら分からない。
「おい! 次の遊びしようぜ!」
「かけっこがいい」
「ええーっ。かけっこはもう昨日やったじゃん。それよりおすもうがいいよ」
「またかよ! お前ワンパターンすぎだろ!」
「おすもう奥深くて楽しいよ」
「けどさー……あんなん異国の文化だし……」
「コラ! 悪く言わない! 異国の文化だからこそ新鮮で楽しいんだよ!」
「……そんな怒るなよな」
やがてじゃんけん大会は終わりを迎え、お相撲が始まっていく。
お相撲というのはこの国の文化ではない。
一説によれば、東国で有名な格闘技に似た競技らしい。
ふくよかな人たちが押し合ったり動いてかわしたりといった競技らしいが、私は本物を見たことはない。ただ、シンプルな競技ゆえに子どもにも分かりやすく、各国で徐々に人気になりつつあるのだとか。
また、本物は迫力も凄いらしい。
場が賑やかになってくる。
子どもたちが実際にお相撲を開始したからである。
「マリエさんはお相撲見たことありますか?」
少し離れたところから子どもたちを見守っていると、ラムティクが話しかけてきた。
「ありません」
「そうですか。シンプルなようで奥深さもある、実に興味深い競技ですよね」
ラムティクは穏やかな表情で話を続けている。
「殿下は見られたことがあるのですか?」
「はい、少しだけですが」
「そうなんですか……! それは驚きました。この国ではまだまだ珍しいじゃないですか、お相撲」
いつか見てみたいな、なんて思うのは、仲良しなラムティクと話しているからだろうか。
「確かにそうですね」
「文化交流か何かですか?」
「ああ、はい、それが近いですね」
「どんな感じでしたか? 迫力が凄いと聞きますが」
「迫力ありましたよ」
「やはりそうなのですね、気になります……!」
「いつか一緒に見てみたいですね」
「そうですね――って、い、一緒に!? それは、その、私は高貴な人間ではありませんので」
「何ですか?」
「王子さまはどうしてこんな普通の子どもたちと遊んでくれるの?」
じゃんけんをしている途中、子どもたちの中の一人がそんな風に問いを放った。
「なぜ……ですか」
「偉い人なんでしょ? 普通の子どもと遊ばなくちゃならない理由なんてないと思うんだけど。何か式典なわけでもないし、儀式的な意味があるわけでもないと思うし」
「そうですね、あまり考えてみたことはありませんでしたが……」
子どもというのは時に鋭い質問を放つことがある。きっと純真だからこそ純粋に疑問に感じるのだろうが。本能からか否か定かではないけれど、時に、彼ら彼女らは鋭さのある視点を持って言葉を発する。
また、大人であれば聞きづらいようなことも聞いてしまえるというのも、子どもならではの興味深い点だろう。
ある程度の年齢になれば人は遠慮というものを覚える。そうなれば発せる問いというのも自然と範囲が狭まってくるもの。これはさすがに聞けないな、といった質問も発生するのだ。それは人間という生き物に理性があるからこそで、悪いことではないのだけれど。ただ、抱いた疑問をすべて発してしまうことは不可能となるので、必然的にやり取りにも縛りが発生してくる。そしてそれは時に物事における柔軟性を失わせるのだ。
「マリエさんの行いを知り、その偉大さを感じたから――ですかね」
「偉大さ?」
「はい。自分のお子さんだけではなく地域のお子さんとであっても迷わず遊べる心の広さ、それはとても偉大なものだと思うのです」
「そっかぁ。確かに、お姉ちゃんは優しいもんね。すごいことだよね」
女の子が言えばラムティクは笑顔になって数回ゆったりと頷く。
あまりにも真っ直ぐに褒められるものだから胸の内に少々恥じらいが生まれてしまった。
「はい、本当にそうだと思います」
「みんなお姉ちゃんのこと大好きだよ」
「ですよね。尊敬します。マリエさんは本当に偉大な方です。やはり皆さんもそのように思っているのですね」
何だろうこの空気……。
「「「うんだいすきー!」」」
褒められ過ぎて心がムズムズする。
「良いことですね」
「王子さまもぉ、お姉たまにぃ、惚れたのねぇ?」
「えっ!?」
「惚れた顔してるわぁ。でもぉ、まぁ、分からないことはないわねぇ。ここにいる子たちぃ、みぃ~んなそうだからぁ。お姉たまはぁ、とぉ~っても魅力的な人だからぁ、高貴な人であってもぉ、惚れちゃうのは当たり前ねぇ」
「あ、い、いや……そういう、意味、では……」
「照れてるわねぇ! うふっ。照れてるぅ! んもぉ、照れちゃってぇ、偉大なる殿下と言ってもぉ、可愛いわねぇ」
もはや何をどう言えば良いやら分からない。
「おい! 次の遊びしようぜ!」
「かけっこがいい」
「ええーっ。かけっこはもう昨日やったじゃん。それよりおすもうがいいよ」
「またかよ! お前ワンパターンすぎだろ!」
「おすもう奥深くて楽しいよ」
「けどさー……あんなん異国の文化だし……」
「コラ! 悪く言わない! 異国の文化だからこそ新鮮で楽しいんだよ!」
「……そんな怒るなよな」
やがてじゃんけん大会は終わりを迎え、お相撲が始まっていく。
お相撲というのはこの国の文化ではない。
一説によれば、東国で有名な格闘技に似た競技らしい。
ふくよかな人たちが押し合ったり動いてかわしたりといった競技らしいが、私は本物を見たことはない。ただ、シンプルな競技ゆえに子どもにも分かりやすく、各国で徐々に人気になりつつあるのだとか。
また、本物は迫力も凄いらしい。
場が賑やかになってくる。
子どもたちが実際にお相撲を開始したからである。
「マリエさんはお相撲見たことありますか?」
少し離れたところから子どもたちを見守っていると、ラムティクが話しかけてきた。
「ありません」
「そうですか。シンプルなようで奥深さもある、実に興味深い競技ですよね」
ラムティクは穏やかな表情で話を続けている。
「殿下は見られたことがあるのですか?」
「はい、少しだけですが」
「そうなんですか……! それは驚きました。この国ではまだまだ珍しいじゃないですか、お相撲」
いつか見てみたいな、なんて思うのは、仲良しなラムティクと話しているからだろうか。
「確かにそうですね」
「文化交流か何かですか?」
「ああ、はい、それが近いですね」
「どんな感じでしたか? 迫力が凄いと聞きますが」
「迫力ありましたよ」
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「そうですね――って、い、一緒に!? それは、その、私は高貴な人間ではありませんので」
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