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18話「庭へ」
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襲撃事件について耳にした時にはかなり焦った。
善人である彼が傷つけられたことが衝撃的であったし、胸が痛くて、いろんな意味でただただ辛かった。
絶望の海に突き落されたかのようで。
暗闇に沈み込むかのようで。
ただ、それでも、生きてきたから今日がある。
あの暗闇を越えたからこそ今があり、この穏やかで幸せな時間もあるのだ。
第三者から見ればどうでもいいようなそれほど重要ではない話題で言葉を交わせる幸せ。それは生きていてこそ感じられるもの。絶望に海に落とされようとも、どれだけ涙を流そうとも、懸命に這い上がればいつかはきっとたどり着ける場所なのだと今は理解できる。
時に悲しいことや辛いことが起こるというのも人生だ。……当然、そういったことはできれば起こらないでいてほしいものだが。ただ、そういったことが一切ない人生、なんていうものはきっとないのだろう。いや、この世に絶対は存在しないから、もしかしたらそういう人生もあるのかもしれないが。けれども、もしそういう人生があったとしても、それは稀な例だろう。
「マリエさん、お花はお好きですか」
「そうですね」
「じゃあ庭の散歩しません?」
「素敵ですね。ぜひ。今の時期だとどのようなお花が咲いていますか」
「すみません……実はあまり詳しくなく」
「殿下はお花はあまりお好きでないのですか? だとしたら無理して気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
「いえ。好きでないというわけではありません。ただ……申し訳ありません、恥ずかしながら予習不足でした……」
柔らかな空気の中で言葉を交わして、笑ったり、様々な表情を浮かべたり。
なんてことのない時間だけれどとても愛おしい時間。
「今から先に行って勉強してこようと思います」
「真面目な方ですね」
「いや、もう、本当に恥ずかしいです……。勉強不足という罪を今から償うにはこれしかありませんので……」
「一緒に行って勉強すれば良いのではないですか?」
「えっ」
「私も特別詳しいわけではないですし、だからこそ聞いてみたところでしたので。お互い詳しくないのなら、一緒に学べば良いと思います。効率的でもありますし、共に学ぶ仲間がいる方が楽しい学びになりそうですし」
そこまで言ってから、圧が強すぎたかな、と小さく後悔する。
「……すみませんでした、偉そうなことを言ってしまって」
ただラムティクは不快感を抱いてはいなかったようで。
「いえ。むしろありがとうございます。共に学ぶという提案は素敵なものでしたし、フォローまでしていただいてしまって、感謝ばかりですよ」
そんな風に返してくれた。
「マリエさん、一緒に庭へ行ってくださいますか?」
「それはもちろんです」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ、です」
ラムティクが生き延びてくれて本当に良かった。
今は強くそう思う。
「わあ……! とっても綺麗な庭」
二人で庭へ出た。
ほぼ同時に思わず素直な感想を口から出していた。
「嬉しいお言葉をありがとうございます」
「何だか良い香りがします」
「腕のいい庭師が管理してくれているので」
「そうなんですね」
ラムティクと隣り合って庭を歩く。
「緑が綺麗です」
「マリエさん、着眼点が渋いですね」
「……そうですか?」
「花ではなく敢えて緑へ目を向けるところが」
「変だったらすみません」
「いえ、変ではありません。素敵な感性です。今、とても、尊敬しています」
それから私たちは庭の管理者に会った。そして庭園の木々や花について話を聞かせてもらった。知識が浅い私でもとても聞きやすいと感じるような話し方をしてもらえたので、一つ一つの話をしっかりと理解することができた気がする。細やかに対応してくれた管理者には感謝の気持ちでいっぱいだ。
善人である彼が傷つけられたことが衝撃的であったし、胸が痛くて、いろんな意味でただただ辛かった。
絶望の海に突き落されたかのようで。
暗闇に沈み込むかのようで。
ただ、それでも、生きてきたから今日がある。
あの暗闇を越えたからこそ今があり、この穏やかで幸せな時間もあるのだ。
第三者から見ればどうでもいいようなそれほど重要ではない話題で言葉を交わせる幸せ。それは生きていてこそ感じられるもの。絶望に海に落とされようとも、どれだけ涙を流そうとも、懸命に這い上がればいつかはきっとたどり着ける場所なのだと今は理解できる。
時に悲しいことや辛いことが起こるというのも人生だ。……当然、そういったことはできれば起こらないでいてほしいものだが。ただ、そういったことが一切ない人生、なんていうものはきっとないのだろう。いや、この世に絶対は存在しないから、もしかしたらそういう人生もあるのかもしれないが。けれども、もしそういう人生があったとしても、それは稀な例だろう。
「マリエさん、お花はお好きですか」
「そうですね」
「じゃあ庭の散歩しません?」
「素敵ですね。ぜひ。今の時期だとどのようなお花が咲いていますか」
「すみません……実はあまり詳しくなく」
「殿下はお花はあまりお好きでないのですか? だとしたら無理して気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
「いえ。好きでないというわけではありません。ただ……申し訳ありません、恥ずかしながら予習不足でした……」
柔らかな空気の中で言葉を交わして、笑ったり、様々な表情を浮かべたり。
なんてことのない時間だけれどとても愛おしい時間。
「今から先に行って勉強してこようと思います」
「真面目な方ですね」
「いや、もう、本当に恥ずかしいです……。勉強不足という罪を今から償うにはこれしかありませんので……」
「一緒に行って勉強すれば良いのではないですか?」
「えっ」
「私も特別詳しいわけではないですし、だからこそ聞いてみたところでしたので。お互い詳しくないのなら、一緒に学べば良いと思います。効率的でもありますし、共に学ぶ仲間がいる方が楽しい学びになりそうですし」
そこまで言ってから、圧が強すぎたかな、と小さく後悔する。
「……すみませんでした、偉そうなことを言ってしまって」
ただラムティクは不快感を抱いてはいなかったようで。
「いえ。むしろありがとうございます。共に学ぶという提案は素敵なものでしたし、フォローまでしていただいてしまって、感謝ばかりですよ」
そんな風に返してくれた。
「マリエさん、一緒に庭へ行ってくださいますか?」
「それはもちろんです」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ、です」
ラムティクが生き延びてくれて本当に良かった。
今は強くそう思う。
「わあ……! とっても綺麗な庭」
二人で庭へ出た。
ほぼ同時に思わず素直な感想を口から出していた。
「嬉しいお言葉をありがとうございます」
「何だか良い香りがします」
「腕のいい庭師が管理してくれているので」
「そうなんですね」
ラムティクと隣り合って庭を歩く。
「緑が綺麗です」
「マリエさん、着眼点が渋いですね」
「……そうですか?」
「花ではなく敢えて緑へ目を向けるところが」
「変だったらすみません」
「いえ、変ではありません。素敵な感性です。今、とても、尊敬しています」
それから私たちは庭の管理者に会った。そして庭園の木々や花について話を聞かせてもらった。知識が浅い私でもとても聞きやすいと感じるような話し方をしてもらえたので、一つ一つの話をしっかりと理解することができた気がする。細やかに対応してくれた管理者には感謝の気持ちでいっぱいだ。
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