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第14話 邪神眼と漆黒の魔龍
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研究室に入った僕たちにクリス嬢は、
「そこに座ってちょうだい」
クリス嬢は部室の床に書かれている魔方陣の上に座るように指をさした。そこには椅子は存在しない。床に直に座れと言うことか?
クリス嬢は部室にある机の上に座り足を組んだ。顔は可愛いが幼児体型のクリス嬢には、そんな座り方をしても全くと言って良いほど色気は感じられなかった。残念……
「私に漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルについて聞きたいと言ったけど?」
クリス嬢はクールビューティーに決めているつもりなのだろうが、幼児体型がそれを許さない。
「ああ、それね。漆黒の魔竜って一体なんなんだ?」
「――!? アレク様は、国王様からそんなことも知らされていないのね」
――!? 僕に知らされていない? この国の伝承や伝説は覚えているが、漆黒の魔竜については明記されていない。
「マルクス。漆黒の魔竜について何か知っていることはないか?」
僕は小声でマルクスに聞いた。
「いや、そんな物聞いたことがないぞ」
マルクスは知らないようだ。
「漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルは遥か昔地上に君臨していた魔竜よ。人々からは厄災と呼ばれ、暗黒の世界に君臨者として恐れられていたわ。しかし、そんなデモンドキル・フューエルに立ち向かった者達もいたわ」
クリスは神妙な面持ちで話し始めた。
「それで、その者達は?」
「――殺されたわ。唯々諾々蹂躙され髪の毛一本も残らなかったそうよ。そして長い年月の果てに一人の勇者が立ち上がったわ。勇者は仲間を率いてデモンドキル・フューエルに挑んだわ」
「ほう、ほう、それで?」
「三日三晩の壮絶な戦いで宿敵漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを倒したわ…… でもその代償は大きかったわ」
「代償?」
「戦いで傷ついた勇者達も漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルと共に命を落としてしまったわ」
「なんですと!?」
「その代償として世界に光が戻り、平和が訪れたの」
「それは知らなかった。何でクリス嬢は漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを知っているんだ?」
「私が…… 勇者の仲間だった召喚士の末裔だからよ」
「そうだったのか……それでクリス嬢。どうして君の左腕に、倒されたはずの漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルが宿っているんだ?」
クリス嬢は僕の質問に答えた。
「全ての原因は私であり、私の責任……」
「一体、クリス嬢に何があったんだ?」
「私の召喚魔法で、漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを誤って召喚してしまったの」
「なんですと!?」
「なんやて!?」
僕とマルクスはクリス嬢のブッ飛んだ中二病発言に驚きを隠しきれなかった。
――クリス嬢は召喚魔法も使える設定になっているのか、これはこれで面白い。
「暴れ狂うデモンドキル・フューエルに、私は手も足も出なかった……」
クリス嬢はそう言って自分の左目に手を当て、
「もう駄目かと思った時、先祖から伝承されていた邪悪な力が、私の左目に覚醒したの」
「ま、まさか…… それは……」
僕は恐る恐る、クリス嬢に尋ねた。
「邪悪な力…… 邪神眼」
「邪神眼!?」
「そう邪神眼。ありとあらゆる命を屠る力よ」
「屠る事が出来るなら、なぜ君の左腕にデモンドキル・フューエルが宿っているんだ?」
「デモンドキル・フューエルの生命力が高すぎて倒しきることが出来なかった…… 私の力が未熟だったから…… それでも邪神眼で弱ったデモンドキル・フューエルを何とか私の左腕に封印することが出来たの」
「それで左腕に包帯を巻いているのか?」
「そうよ。私の力だけじゃどうしてもデモンドキル・フューエルを封じることが出来ないから…… 魔封じを施されている。この包帯を使って内側と外側から封印しているのよ」
「なるほど……」
「もう良いでしょ? もうあなた達に話すことなんて無いわ。私の使命は、この命を使って漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを封印し続けることよ」
「それで良いのか? デモンドキル・フューエルを完全に倒す方法は無いのか?」
「今のところ無いわ。勇者が現れるまで……」
「さあ、話はおしまいよ。研究室から出ていってちょうだい」
クリス嬢はそう言って、僕らを研究室という名のヤベェ部室から追い出されてしまった。
「……………………」
「……………………」
「さっきの話は一体なんだったんだ?」
マルクスは神妙な顔で僕に聞いてきた。
「きっと良くない難病にでもなったんじゃないかな」
彼女の中二病が末期を迎えているのだろう。僕はクリス嬢の中二病は難病であると確信し、あえてマルクスには難病であることを告げた。
「うん、そうだな。きっと難病で心も病んでしまったかもしれないな」
マルクスはクリス嬢が全治することの無い難病であると納得したようだ。
「これから彼女にはこれ以上、近付かない方が良いかも……」
僕が独り言のように小さな声で呟くと、
「だから俺は関わりたくなかったんだ…… 関わるんじゃなかった……」
マルクスもまた独り言のように呟き、自分の勘が正しかったんだと自分に言い聞かせているようだった。
僕らは無言になりながら自分達の教室に戻った。
――最初は熱い中二病の語らいをしようかと考えていたが、ここまでガチの設定だったとは。前世で数多くの黒歴史を刻んで来た僕でもドン引きしてしまった…… ヤベェヤツに会いに行った事の愚かさを身にしみて理解した……
「そこに座ってちょうだい」
クリス嬢は部室の床に書かれている魔方陣の上に座るように指をさした。そこには椅子は存在しない。床に直に座れと言うことか?
クリス嬢は部室にある机の上に座り足を組んだ。顔は可愛いが幼児体型のクリス嬢には、そんな座り方をしても全くと言って良いほど色気は感じられなかった。残念……
「私に漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルについて聞きたいと言ったけど?」
クリス嬢はクールビューティーに決めているつもりなのだろうが、幼児体型がそれを許さない。
「ああ、それね。漆黒の魔竜って一体なんなんだ?」
「――!? アレク様は、国王様からそんなことも知らされていないのね」
――!? 僕に知らされていない? この国の伝承や伝説は覚えているが、漆黒の魔竜については明記されていない。
「マルクス。漆黒の魔竜について何か知っていることはないか?」
僕は小声でマルクスに聞いた。
「いや、そんな物聞いたことがないぞ」
マルクスは知らないようだ。
「漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルは遥か昔地上に君臨していた魔竜よ。人々からは厄災と呼ばれ、暗黒の世界に君臨者として恐れられていたわ。しかし、そんなデモンドキル・フューエルに立ち向かった者達もいたわ」
クリスは神妙な面持ちで話し始めた。
「それで、その者達は?」
「――殺されたわ。唯々諾々蹂躙され髪の毛一本も残らなかったそうよ。そして長い年月の果てに一人の勇者が立ち上がったわ。勇者は仲間を率いてデモンドキル・フューエルに挑んだわ」
「ほう、ほう、それで?」
「三日三晩の壮絶な戦いで宿敵漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを倒したわ…… でもその代償は大きかったわ」
「代償?」
「戦いで傷ついた勇者達も漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルと共に命を落としてしまったわ」
「なんですと!?」
「その代償として世界に光が戻り、平和が訪れたの」
「それは知らなかった。何でクリス嬢は漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを知っているんだ?」
「私が…… 勇者の仲間だった召喚士の末裔だからよ」
「そうだったのか……それでクリス嬢。どうして君の左腕に、倒されたはずの漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルが宿っているんだ?」
クリス嬢は僕の質問に答えた。
「全ての原因は私であり、私の責任……」
「一体、クリス嬢に何があったんだ?」
「私の召喚魔法で、漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを誤って召喚してしまったの」
「なんですと!?」
「なんやて!?」
僕とマルクスはクリス嬢のブッ飛んだ中二病発言に驚きを隠しきれなかった。
――クリス嬢は召喚魔法も使える設定になっているのか、これはこれで面白い。
「暴れ狂うデモンドキル・フューエルに、私は手も足も出なかった……」
クリス嬢はそう言って自分の左目に手を当て、
「もう駄目かと思った時、先祖から伝承されていた邪悪な力が、私の左目に覚醒したの」
「ま、まさか…… それは……」
僕は恐る恐る、クリス嬢に尋ねた。
「邪悪な力…… 邪神眼」
「邪神眼!?」
「そう邪神眼。ありとあらゆる命を屠る力よ」
「屠る事が出来るなら、なぜ君の左腕にデモンドキル・フューエルが宿っているんだ?」
「デモンドキル・フューエルの生命力が高すぎて倒しきることが出来なかった…… 私の力が未熟だったから…… それでも邪神眼で弱ったデモンドキル・フューエルを何とか私の左腕に封印することが出来たの」
「それで左腕に包帯を巻いているのか?」
「そうよ。私の力だけじゃどうしてもデモンドキル・フューエルを封じることが出来ないから…… 魔封じを施されている。この包帯を使って内側と外側から封印しているのよ」
「なるほど……」
「もう良いでしょ? もうあなた達に話すことなんて無いわ。私の使命は、この命を使って漆黒の魔竜デモンドキル・フューエルを封印し続けることよ」
「それで良いのか? デモンドキル・フューエルを完全に倒す方法は無いのか?」
「今のところ無いわ。勇者が現れるまで……」
「さあ、話はおしまいよ。研究室から出ていってちょうだい」
クリス嬢はそう言って、僕らを研究室という名のヤベェ部室から追い出されてしまった。
「……………………」
「……………………」
「さっきの話は一体なんだったんだ?」
マルクスは神妙な顔で僕に聞いてきた。
「きっと良くない難病にでもなったんじゃないかな」
彼女の中二病が末期を迎えているのだろう。僕はクリス嬢の中二病は難病であると確信し、あえてマルクスには難病であることを告げた。
「うん、そうだな。きっと難病で心も病んでしまったかもしれないな」
マルクスはクリス嬢が全治することの無い難病であると納得したようだ。
「これから彼女にはこれ以上、近付かない方が良いかも……」
僕が独り言のように小さな声で呟くと、
「だから俺は関わりたくなかったんだ…… 関わるんじゃなかった……」
マルクスもまた独り言のように呟き、自分の勘が正しかったんだと自分に言い聞かせているようだった。
僕らは無言になりながら自分達の教室に戻った。
――最初は熱い中二病の語らいをしようかと考えていたが、ここまでガチの設定だったとは。前世で数多くの黒歴史を刻んで来た僕でもドン引きしてしまった…… ヤベェヤツに会いに行った事の愚かさを身にしみて理解した……
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