学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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103 お前が欲しい

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 今日から、学年末試験の対策期間に入る。その範囲はやっぱり、2年で習った範囲の、ほぼ全てで。

「涼、対策、早めにしてきたんですから、大丈夫ですよ」

 涼の部屋での勉強会で、私は、始まりの声掛けをする前に、

「……おう……」

 とても緊張している涼の背中を撫でたりして 、その緊張を、なんとか解そうとしていた。
 緊張している人のメンタルケアとして、深呼吸してもらったり、今までのテスト点数や課題の評価を声に出して確認したり、抱きしめて「絶対大丈夫です」と8回くらい言って。

「……うん、……ありがとう、光海。頑張るよ」

 涼は、まだ強張ってるけど、そう言ってくれて、勉強会が始まった。
 そして、始めてみて。

「涼、やっぱり出来てますよ。忘れたりしてませんし、確実に身になっています。胸を張って大丈夫です」
「ん……」

 涼の反応は鈍いけど、本当に、そうなのだ。
 理数系は、もはや当たり前に。文系だって、絶対良い点が取れる。
 対策を進めながら、自信を持ってもらおうと、それらをつぶさに伝えていって。
 ふと、こういうのは効果があったりするのかと、それを口にした。

「涼、何か、その、……ご褒美みたいなものがあったりすると、試験に前向きになれますか?」
「へ?」

 目を見開いた涼に、私は、体育祭でのバナナカップケーキに勇気をもらった話をして、

「なので、涼にも、何か、と思ったんですけど……あの、涼? 大丈夫ですか?」

 涼がローテーブルに突っ伏して、呻いた。

「あの、無理にとは……」
「違う。俺が、馬鹿なだけ。……ご褒美は欲しい。……光海が、決めてくれ」
「私がですか?」
「うん」

 ……すぐには、思いつかないな。

「分かりました。ですけど、どんな内容にするか考えるので、少し時間を下さい。それでも良いですか?」
「良い。光海が考えてくれるだけで、頑張れる」

 そう言った涼は、体を起こして。

「悪い。中断させた。続き、やろう」

 気持ちを切り替えることには成功したのか、そこからの涼は、目の前のものに集中してくれた。

 ◇

 ご褒美と、言われて。真剣に言われて説明されて、その、一生懸命に自分のことを考えてくれていることに、姿に、心を奪われて。

『お前が欲しい』

 そう思ってしまって、馬鹿野郎変態か俺はと思いながら、光海を視界から外すことで、涼はなんとか、その思考を頭の隅に追いやる。
 そして、それを考えないために、目の前のテスト勉強に集中する、という、自分で思うと大いに間抜けな理由をもって、いつになく真剣に、勉強の時間を終わらせることが出来た。

 ◇

 ご褒美、どうしようかなと考えながら、仕事をする。
 今はテスト対策期間なので、勉強に時間を割くから、長い時間いられない。けど、テスト本番になれば全くシフトに入れないから、今のうちに。そんな思いで、バイトをする。

「(光海、いいか?)」
「(なんでしょう、ウェルナーさん)」

 にこにこしてるなぁ、ウェルナーさん。

「(いや、少し聞きたいんだけどさ。マリアに、何を贈れば良いかって。今、テスト勉強を頑張ってるんだろ? マリアに聞いても、遠慮されちゃってさ)」

 ……。

「(えーとですね。その辺は、私からのアドバイスを聞かないほうが良いと思います)」
「(え、駄目なのか?)」

 そんな、驚いた顔をされましてもね。
 丸く収まって、数日。マリアちゃんは気持ちを自覚して、向き合ってるけど。

『認めたら認めたで、どうすれば良いか分からない……』

 放課後やラインで、ウェルナーさんとの付き合い方についての相談を受けた。私も、桜ちゃんも。
 そのままそれを言えば? と言った桜ちゃんに、

『……言ってみた……なるべく正直に……そしたら、その』

 マリアはマリアのままで愛おしいから、何も問題ない。悩んでくれることも嬉しい。俺のことを考えてくれてるってことだから。
 そう、言われたと、顔を赤くして、呻くように教えてくれた。
 しかも、真紅のバラの花束をくれながら、だそうだ。
 ウェルナーさんの態度、というかマリアちゃんへの向き合い方が、ほぼ完全に初期化されている。
 けど、今度はマリアちゃんも、それに応えようとしてるし。

「(ご自分で考えて、その結果の贈り物を贈ったほうが、マリアちゃんも喜ぶと思います)」
「(そうか? 俺まだ、マリアの好み、ちゃんと分かってないけど……)」
「(そこも含めて、考えて、贈るのが最善かと)」

 これ、もう、アドバイスだな。

「(そうか? じゃあ、そうするよ。ありがとう光海。あ、あと、コーヒーのおかわり、良いか?)」
「(かしこまりました)」

 ルーティンをこなしながら、マリアちゃんが幸せになればなぁ、と、思う。ウェルナーさんにおかわりのコーヒーを出して、引っ込んで。
 涼へのご褒美、に、また思考が少し傾きながら、仕事をして。もう常連さんと言って良いんじゃないかと思っている、アイリスさんと弓崎さんの注文を取ったり。エマさんとレイさんに、新作ドレスを着てチャチャと撮ったファミリーフォト──チャチャも前と違うドレスだった──を、エイプリルさんと一緒に見たりしながら、仕事を終えて。
 家に帰って、愛流に撮られながら冬毛のマシュマロをブラッシングして堪能していたら、スマホに通知。ラファエルさんからだった。
 そして、それを確認して、思わず声を出しかけた。

「どしたの?」
「い、いや……」

 愛流になんとか返事をする。

『(光海、エイプリル。二人とも、お疲れ様。それで、二人に相談があってね。店に取材の話が来たんだ)』

 そこまでは、普通に読めた。取材なんて、有り難い話だと思った。問題は、そのあとで。

『(相手は、集談社という出版社の、袋小路巴さんという漫画家さん、その担当編集の小芝和葉こしばしかずはさんと中野夕なかのゆうさんの、3名だ。それでね、光海とエイプリルにも、それぞれ仕事についての話を聞きたいと、先方から話をもらったんだよ。だから、二人の意思を確認したい。先方からも、無理にとは言わないと、伝えてもらってるから、気軽に考えてくれて構わない。返答も、すぐじゃなくて大丈夫だよ。一週間は大丈夫だから。突然すまないね。用件はそれだけだよ。それじゃあ、お休み)』

 ……いや。いやいやいや! 袋小路先生って?! エイプリルさん大丈夫?! 既読、人数分付いてるけど! いつもすぐに返信するエイプリルさんが返信して来ない! 私も動揺してるけど!
 私は3回くらい深呼吸して、返信。

『(お疲れ様です。有り難いお話だと思います。負担ではないので、私に話せることでしたら、お話します。事前の確認、ありがとうございます。お休みなさい)』

 既読が一つ、付いた。ラファエルさんか、アデルさんか、エイプリルさんか。
 そう思いながら、いや、まあ、うん。私のやることは終わったし、気持ちを切り替えよう、と、マシュマロを堪能し終えて、そのままマシュマロを撮り続ける愛流を部屋に置いて、涼へのご褒美を考えながら明日の準備と寝る支度をして、軽くテスト範囲をさらってから、寝た。
 そして、朝起きたら、スマホに通知が来ていた。数は3つ。2つは、エイプリルさんからラファエルさんへの返事と、ラファエルさんから私たちへの返答。

『(お疲れ様です。私も大丈夫です。話せるだけ話します。失礼します)』
『(ありがとう、二人とも。先方にもそう伝えるよ。取材日程が確定したら、また、連絡する)』

 と、いうもの。
 そして、もう一つが。

『(光海さん、失礼します。袋小路先生って、あの袋小路先生で合ってますか? 担当さんの方々の名前も、本に記載されている名前と一致するんですが、これ、どういうことでしょう? 夢ではないですよね?)』

 エイプリルさんからの、そんな文章。
 相当に、混乱しているらしい。だろうと思う。桜ちゃんだったら失神してるかも知れないし。

『(おはようございます、エイプリルさん。夢じゃないので安心して大丈夫ですよ。取材ということですし、私たちは私たちの出来ることをやりましょう!)』

 私はエイプリルさんへ、そんなふうに返信した。
 

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