女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師

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9 だから言ったじゃん

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「……ん……」

 目を覚ました奏夜の目に映ったものは、自室ではない、けれどそれなりに見覚えのある天井だった。

(どこだっけ……ここ……)

 てか、今何時だっけ。えーと、今日は大学に行かなくていい日だけど、代わりに午後からバイトがあって。だから午前中に家のこと終わらせないといけなくて、それに圭介のことが──

「!」

 圭介、のところで昨日の諸々を思い出し、ガバリと勢いをつけて起き上がる。
 起き上がってから、ここがベッドの上で、圭介が寝室に使っている部屋だと頭が回った。

「え、あれ……? え?」

 部屋全体を見回すと、枕元に自分のスマートフォンがあるのがわかる。ベッドの隣の床には布団が敷かれていて、圭介はそこで眠っているらしかった。

 圭介のベッドはその身長に合わせた大きめなものなので、奏夜一人が寝るにはだいぶ余裕がある。というか圭介と奏夜の二人で寝ても大丈夫なくらいなのだが、奏夜が泊まる時にはいつも、圭介は布団を出してくれていた。

 その、いつも出してくれる、今は圭介が寝ている客用の布団は標準的な大きさなので、掛け布団にくるまっている圭介は身を縮めているようにも見える。

 電気のついていない、カーテンから薄明かりが差し込む部屋の中、スマートフォンで時刻を確認すると、06:23。日の出にはまだ少し早いので、カーテンの隙間から差し込んでくるうっすらとした光は、日が昇る前の薄ぼやけた朝焼けか何かなんだろうと推測する。

 まだ少し寝ぼけている頭で、自分が着の身着のままで寝ていたことを把握した。昨日はソファの近く、それも圭介の体に凭れて寝てしまったはずだから、圭介がここまで運んでくれたのだろう。
 ベッドを使わせてもらうだけでなく、圭介本人には小さい布団で寝てもらってしまったことに対しても、申し訳なく思ってしまう。

「圭介」

 ベッドの上から小声で呼びかけてみる。布団にくるまり、身を縮めるようにして眠っているらしい圭介からは、規則的な寝息が聞こえるだけで反応はない。
 スマートフォンを一旦枕元に戻し、布団の中から抜け出て床に降りて、ベッドと布団の間、圭介の枕元に膝をつく。

「圭介、起きれるか?」

 目の下にうっすらとクマがある圭介を、電気をつけて強引に起こすのは躊躇われた。けれど、家主に起きてもらわないと、帰るに帰れない。
 そんなわけで、ベッドに背を向ける形で横向きに寝ている圭介の肩を軽く叩きながら、小声で何度か呼びかけてみる。

「……ん、ぅ……」
「圭介、起きたか?」

 頭を緩く振って薄く目を開けた圭介へ呼びかけると、声に反応してか、体をひねるようにして、圭介がこちらを向く。

「……そーちゃん……」

 ちゃんと覚醒した訳ではないらしい圭介がころんとこちら側に向きを変え、奏夜へ両手を伸ばしてきた。
 手を握れば良いのだろうか、と距離感がバグっているいつもの思考で両手を差し出してみたら。

「? 圭介、──っ?」

 両手を握られた、と思った次の瞬間、布団の中に引き込まれて抱きすくめられていた。

「そーちゃんだぁ……」

 ふにゃふにゃした声が耳に届き、圭介の胸に顔を埋める形のまま我に返る。

「っけ、圭介! 起きろってば!」

 慌てて声を張り上げ、腕と足の拘束から逃れようともがいた。
 いつもならこんなに慌てない。寝ぼけた圭介にこうされるのもそれなりの数、経験している。
 だけど、昨日のことのせいで冷静になりきれない。今までは『寝ぼけた幼馴染に抱きすくめられる』だったのに、それが『寝ぼけた、自分のことを好いている幼馴染に抱きすくめられる』に変わってしまった。

(っていうか、今まで、圭介はどんな気持ちでこうしてたんだ……?!)

 自分が恋愛の意味で好かれていると知ったのは昨日だが、圭介が気持ちを自覚したのは小二の頃のはずで。
 それ以降も圭介の家に泊まるだとか、圭介が我が家に泊まるだとか、学校の行事での宿泊だとか、圭介が一人暮らしを始めてからも、何度か泊まらせて貰っている。先の通り、起こそうとしたら抱きすくめられた、なんて経験は何十回とある。
 毎回のようにこんなことになっていたが、圭介はその度、今のような状況をどう捉えていたのか。

「起きたくなーい……」

 未だに声はふにゃふにゃしているが、腕と足の拘束はさらに強くなった。逃さない、とでも言うように。
 それを嫌がる、というよりむず痒く感じてしまうから、どうにも座りが悪い。

「だっ、もうこの際起きなくていいけど! 離せ! 俺帰らなきゃだから!」
「帰っちゃうの……?」

 ふにゃふにゃした声でよくもまぁ切ない感じが出せるもんだな、と憎まれ口を叩きたくなる。

「帰るよ! 家のことしないとだしバイトあるし! 逆に聞くけどお前は今日予定とかないの?!」
「あー……予定……十時から……デートで……そのあと……仕事する予定で……けど……別れたし……ゆっくり……し、たい……」

 ふにゃふにゃと予定を話していた圭介の声がだんだんしっかりしてきた、と思ったら、腕と足の拘束が緩む。

「………………………………ぇ?」

 この近さでないと聞き取れないくらいの声量の「ぇ」が、聞こえて、どうしてそんな声を出されるのかわからなくて。

「圭介?」

 不思議に思った奏夜が顔を上げると、目を限界まで開いている圭介と目が合った。

(なんだ?)

 今までも、自分の腕の中にいる奏夜を見てちょっとびっくりしている圭介を見たことはある。けど、ここまで驚いている顔は、見たことない気がする。

「圭介、わっ?!」

 バッ! という擬音がつきそうな勢いで腕と足を奏夜から離した圭介は、今度はバサッ! という音を実際に立てて布団を跳ね上げた。

「け、圭介……?」

 目を白黒させた奏夜が起き上がると、赤い顔のままの圭介は壁にくっつくように背中を預けて座り込み、口をはくはく動かしている。

「……だ……」

 はくはく動いていた圭介の口から、よくわからない声が聞こえてきた。

「だ?」
「だ、……だ……だから! 言ったじゃん! 絶対はないって!」
「なんの話?」

 更によくわからないことを言われて、首を傾げてしまう。
 と、そんな奏夜を見た圭介の肩から力が抜けていくのが、見て取れた。

「そうだったわ……そーちゃん寝たんだった……聞こえてねぇわ……」

 そんなことを言った圭介は大きく肩を落とし、これまた大きなため息を吐き出す。どうやら、自分が寝てしまったあとに圭介が何かを言っていたらしい。

「ごめんな、圭介。途中で寝ちゃったし、ベッドに運んでもらったし。世話かけた」
「世話……っちゃ世話だけど……手間ではねぇし……誰かにやらせるくらいなら俺がやるし……」

 少し赤みが引いた、けれどもまだ朱色の顔で、目を彷徨わせながらもごもご言っている圭介を目に映す。この状態で帰るのもな、と考えていた奏夜は、あることを思い出した。

「なぁ、圭介」
「……なんですか」

 なんで敬語なんだ、と思いながら、続きを口にする。

「俺さ、ちゃんと圭介にキスできてた?」


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