女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師

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10 抱きしめさせて

 その言葉を受けてか、いつもの顔色に戻りかけていた圭介の顔が、また真っ赤になった。

(あ)

 できてたんだな、これは。
 そうなると、これで一応お互いにキスをしたということで、圭介が気にしていた「強引なキス」はプラマイゼロになった、と言いたいのだが。
 だが。
 赤面した圭介に中てられるように、奏夜の顔も赤くなっていく。
 また、昨日と同じ。
 真正面からの好意に、体も頭も心も支配されていく。緊張して、そわそわして、心が浮き立つような気がして。だというのに、叫び出したくて逃げ出したい。
 何をどうすればいいのかわからない。

「……ずりぃよ……そーちゃん……」

 握り込んだ右手を口元に持ってきて、真っ赤な顔のまま堪えるように眉を寄せて俯き加減に呟く圭介を、見ていることしかできない。

「俺ばっか好きで……キスだって俺のためだし……俺、そーちゃんのこと本気で好きなのに……」

 告白めいたことを言った圭介は、ぐっと顔をしかめると左手で髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回し、はぁ、と息を吐く。

「んなこと言っても仕方ねぇよなぁ。そーちゃんが俺を好きになるとか、あり得ない訳だしさぁ」

 その言葉にムカついて、眉間にしわが寄るのがわかる。けど、圭介の言っていることは事実なはずで、どうして自分がムカついているのか、奏夜は不思議に思ってしまう。

「ま、今キモがられてないだけでも、奇跡みたいなもんだし」

 そんな奏夜に気づいているのかいないのか、圭介は顔を上げてへらりと笑う、途中で動きを止めた。
 ばっちり目が合って、妙な表情でこちらを見つめてくる圭介から、視線を逸らせない。
 無言で見つめ合うこと、数秒。
 動いたのは、圭介だった。

「そーちゃん、一個いいかな」

 神妙な顔になった圭介は、何も言えないでいる奏夜をあまり気にしたふうもなく、顎に手を当てて、言う。

「今、そーちゃん、誰にも見せたくないくらいにめちゃくちゃ可愛い顔してる」
「……は」

 思いも寄らない言葉を聞いて、赤い顔の奏夜の口から、間の抜けた声が出た。

「いや、冗談じゃなくて。マジで今のそーちゃん可愛いからね? いつも可愛いけどさ。危うく抱きしめてキスしたい衝動に駆られたよ? 抑え込んだけど」

 神妙な顔のまま軽い調子で言われて、どういう反応をすればいいのか迷ってしまう。

「……か、わいくは、ないだろ」

 なんとか声になってくれた反論は、けれど、圭介の機嫌を損ねたらしい。

「あ? わかってねぇなそーちゃん」

 布団の上を進んでくるムッとした顔の圭介は、奏夜の眼前に顔を寄せてきた。
 あまりの近さと妙な気迫を受け、反射的に体を引きかけるが、両肩を掴まれて逃げ場を失う。
 顔を逸らせば、と一瞬浮かんだ考えは、明るい茶色の瞳に見据えられた途端、消え去ってしまった。
 消え去った、というより、この眼差しから逃げたくない、という謎の感情に押し負けた、ような。

「そーちゃんは可愛いの。世界一可愛くて宇宙一可愛くてこの世で一番可愛いんだよ。そこんとこわかってて」

 真剣な表情と、真剣な声。
 言われていることは、いつもなら「はいはい」と呆れ笑いとともに流してしまう内容なのに、その真剣さのせいで、本当にそうなのではないかという気さえしてくる。

(……いや)

 圭介の中では、『奏夜が可愛い』ということは揺るぎない真実なのだろう。本人に力説するくらいに。
 世界一可愛くて、宇宙一可愛くて、この世で一番可愛い。
 それを、嬉しく思っている自分は、どこかおかしくなってしまったのだろうか。
 顔がさらに熱くなった気がして、奏夜は恥ずかしさと嬉しさと困惑とで、眉根を寄せた。

「そーちゃん? なんか更に可愛くなってってるけどやめてね? 心臓に悪いよ?」
「うる、さぃ……!」

 圭介の真っ直ぐな眼差しに耐えられなくて、物理的に頭を振って視線を外す。
 逃げ出したいのに、圭介から離れたくないという訳のわからない気持ちに気づいてしまったから、自棄っぱちになって圭介へ腕を伸ばした。

「へ、そ、そーちゃん?」

 抱きしめた圭介の戸惑う声が耳に届いて、恥ずかしさの中に安心感を覚えた。
 何が正解かわからなくて、圭介の肩に顔を押し付ける。

(──あったかい)

 その体温を感じていると、少しずつ心が静まっていく。
 圭介は、やっぱりあったかい。

(……圭介が、今まで付き合ってきた人たちも)

 圭介の体温を知っているんだろう。恋人なんだから、抱きしめ合うなんて、当たり前だったはずだ。
 嫌だな、と思う。嫌だな、嫌だ。

「そーちゃん? あの、ホントに心臓に悪いんだけど」
「うん」
「うんってなに……?」

 困っているような圭介の声を聴きながら、更に思う。
 キスも。
 昨日みたいなキスも、当たり前だったんだろうな。
 眠りに落ちる前にした、軽いキスも。部屋に引っ張り込まれた時にした、体全部が圭介のものになってしまうような、くらくらするほど気持ちいいキスも。
 付き合っていた人たちは、当たり前にしていたんだろうな。
 嫌だな。ああ、嫌だ。
 ハグも、キスも、それ以上のことも。
 圭介と誰かがそれをしたという話は、色んな人から聞いていて、前から知っていたはずなのに。

(俺以外と)

 俺以外と、そういうこと、しないでほしい。
 今になって、強く思う。

「そーちゃん、あの、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
「え?」

 厚かましい。そんなことを考える自分が、厚かましくて嫌になる。
 しないでほしいって、なんだよ。何様だよ。
 恋人でも無いくせに。ただの幼馴染のくせに。

(そんな俺を、圭介は好きでいてくれて)

 ずっと、好きでいてくれて。
 今も、好きでいてくれている。
 それを喜んでしまうということは、つまり、そういうことなんだろう。

(……俺、馬鹿なのかな)

 好意を向けられて初めて、自分の中にある思いに気づく。そんな自分は馬鹿なのかな。
 好かれていると知る前に、自分の中の思いに気づいていたら。
 どこか辛そうに笑う圭介を見たくないと思っていたのに、自分の中に答えがあるなんて、思ってもいなくて。

「大丈夫じゃないってどうしたんだよ。具合悪い? そーちゃん」

 髪の毛を優しく梳くように、ゆっくりと頭を撫でてくれる。
 たったそれだけのことが嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて──遣る瀬ない。
 大切な幼馴染。大好きな幼馴染。
 その、大好きの意味を、深く考えたことがなかったと、改めて思い知る。

「……圭介」

 ゆるゆると顔を上げ、圭介と目を合わせる。
 顔を見て言わなくちゃと、思ったから。

「うん、どした?」

 心配そうな表情をしている圭介へ、覚悟を決めて、口を開く。

「あのさ」
「うん」
「俺、圭介のこと、……」
「……うん?」
「……好き、な気がする」

 決めた覚悟は、案外脆かった。

(気がするってなんだ! 気がするって!)

 自分の頬を引っ叩きたい気持ちに駆られながら、逃げちゃ駄目だという心持ちで圭介を見つめた。
 その圭介はというと、気遣うような表情と首を少し傾けた姿勢で止まっている。ぴくりとも動かない。

「圭介?」

 名前を呼んでも、応答がない。
 不安になってきて、「圭介」と呼びかけながら服の襟を掴んで軽く揺さぶる。

(言ったら駄目だった? 迷惑だった?)

 不安は増大していって、目頭が熱くなる。
 あ、泣きそう、と思った時には、ぽろりと雫が落ちていた。
 泣くなんて、何年ぶりだろう。

「ごめん、圭介。ずっとごめん。嫌だって思ったんだ。俺以外の誰かと恋人らしいことする圭介、見たくも聞きたくもないって思ったんだ。俺じゃなきゃ嫌だって。辛そうな圭介だってもう見たくないんだよ。これ、好きってことじゃないのかな。俺じゃ駄目かな。俺じゃ圭介のこと、幸せにできないのかなぁ……?」

 視界は完全に滲んでいて、息をする度にしゃくり上げてしまう。

「ごめん、圭介」

 泣いてどうする。困らせるだけだ。

「ごめん……」

 泣きやめ。泣きやめ。泣きやめ。

「……そーちゃん、ちょっと抱きしめさせて」

 その言葉に反応する前に、ぎゅう、と温かなものに包まれる。
 圭介の腕、圭介の体、圭介の体温。
 温かくて安心する、自分の居場所。

「ごめん、すぐに反応できなくて。俺まだ寝てて、幸せな夢見てんのかな? って思っちゃった」
「……起きてるだろ……」

 言いながら、圭介の背中へ腕を回す。

「うん、俺、起きてる。そーちゃんも起きてる。熱烈な告白ってことで、真に受けていい?」
「……俺、圭介のこと、幸せにできる……?」

 背中に回した腕で、圭介を抱きしめ返す。
 いつかのように、シャツの背中部分をぎゅっと握った。

「もう今、めちゃくちゃ幸せだよ。そーちゃん」

 本当に幸せそうな声で言われ、くすぐったさと喜びが、奏夜の全身を包む。

「……俺も、幸せ」

 呟くように言って、圭介の肩へ顔を押し付けた。


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