断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

文字の大きさ
1 / 60

第1話:思い出された絶望の未来

しおりを挟む
「イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」

目の前で、氷のように冷たい美貌を持つ婚約者――ゼノン・フォン・シルヴァーグ公爵が、そう高らかに宣言する。

豪華絢爛なシャンデリアが輝く、王立学園の卒業記念パーティー会場。
集まった大勢の貴族たちの前で、私は糾弾されていた。

「君が、平民出の聖女リリアナを虐げ、数々の嫌がらせを行ってきたことは調査済みだ!」

ゼノンの隣には、庇われるようにして立つ可憐な少女。
桜色の髪を揺らし、潤んだ瞳でこちらを見つめる彼女こそ、この物語のヒロイン、リリアナ・スチュアート。

そうだ。

これは、ゲームだ。

前世で私が夢中になってプレイした乙女ゲーム、『聖女と騎士たちのラプソディ』の断罪イベント。

そして私は、ヒロインをいじめる悪役令嬢、イザベラ。

――ああ、思い出した。

ガシャン、と手に持っていたグラスが滑り落ち、甲高い音を立てて床で砕け散った。

その音で、私は悪夢のような未来のビジョンから、現実へと引き戻される。

「…様? イザベラ様?」

心配そうな侍女の声。
目の前には、豪華な装飾が施された自室の鏡。
そこに映っているのは、まだ幼さの残る、しかし間違いなくあの悪役令嬢イザベラの顔だった。

燃えるような赤い髪に、吊り上がった気の強そうな翠色の瞳。
恵まれた容姿ではあるけれど、この顔が悪役令嬢としてヒロインを罵る未来を知ってしまった今、ただただ呪わしく思える。

『どうして…今になってこんなことを…』

頭を抱えて、その場に蹲りたくなるのを必死にこらえる。
まだ、断罪イベントまでは時間がある。
今の私は16歳。ゲームの舞台である王立学園に入学したばかりだ。
卒業パーティーは、2年後。

つまり、まだやり直せる…?

いや、でもどうやって?
あのゲームのシナリオは、恐ろしいほどに強力な強制力を持っていた。
どんな選択肢を選んでも、悪役令嬢イザベラは最終的に断罪され、良くて国外追放、バッドエンドでは処刑される運命だった。

『処刑…』

ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
死ぬのは嫌だ。
あんな惨めな最期を迎えるなんて、絶対に。

ならば、どうすればいい?
未来を知っている私に、何ができる?

「そうだ…」

ひとすじの光が、絶望の闇に差し込んだ。

婚約破棄だ。

すべての元凶は、私の婚約者であるゼノン・シルヴァーグ公爵。
彼がヒロインであるリリアナに惹かれ、私を断罪するから、破滅するのだ。

ならば、彼がリリアナに出会う前に、彼との婚約を解消してしまえばいい。
彼と関わらなければ、嫉妬に狂ってヒロインをいじめることもない。
断罪される理由そのものを、なくしてしまえばいいのだ。

『そうよ、それしかないわ!』

私は、鏡の中の自分を睨みつけた。
まだ絶望するには早い。

「私は、イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン。ヴァレンシュタイン公爵家の長女よ」

プライドだけは、誰にも負けない。
こんなゲームのシナリオごときに、私の人生をめちゃくちゃにされてたまるものか。

「まずは、あの冷徹公爵様に、婚約破棄を叩きつけてやらないとね」

幸い、というか、ゲームのシナリオ通りなら、彼も私に愛情なんて欠片も持っていないはずだ。
むしろ、政略で決められた婚約者を疎ましく思っているに違いない。
婚約破棄を申し出れば、きっと喜んで受け入れてくれるだろう。

そう、うまくいくはず。
うまくいくに、決まってる。

私は震える手で、侍女に命じた。

「お父様に、ゼノン様とのお茶会のセッティングをお願いしてちょうだい。…ええ、なるべく、急いで」

未来を変えるための第一歩。
それは、破滅への引き金を引く男との、直接対決だった。

『待ってなさいよ、ゼノン・シルヴァーグ。あなたの思い通りには、絶対にならないんだから!』

これから始まる戦いに向けて、私は固く、固く拳を握りしめた。
この時、私のその決意が、とんでもない勘違いの始まりになることなど、知る由もなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません

腐ったバナナ
恋愛
王太子アルベルトの婚約者であったユミリアは、前世で悪女の汚名を着せられ、騎士団長ギルバートによって処刑された。 しかし、目を覚ますと、処刑直前の自分に時間が戻っていた。 ユミリアは、静かに追放されることを目標に、悪女の振る舞いをやめ、王太子から距離を置く。 しかし、なぜか冷酷非情なはずの騎士団長ギルバートが、「貴殿は私の光だ」と異常な執着を見せ、彼女を絶対的に独占し始める。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

私の欲する愛を独占している双子に嫉妬して入れ替わったら、妹への恨み辛みを一身に受けましたが、欲しかったものは手にできました

珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹として生まれた2人は、成長するにつれてお互いにないものねだりをしていた事に気づかないまま、片方は嫉妬し、片方は殺意を持って、お互いが入れ替わることになる。 そんな2人に振り回されたと怒り狂う人が現れたり、それこそ双子のことを振り回した人たちも大勢いたが、謝罪されても伝わることのない未来が訪れるとは思いもしなかった。 それでも、頑張っていた分の願いは叶ったのだが……。

処理中です...